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17.いつもと同じ

 


「……という話があって、公爵主催のパーティーへ行って欲しいんだけど、行けそうかな?」


 その夜、フィルローゼに話を聞いてみる。


「にいさまは一緒に行けるの?」


「明日聞いてみるけど、多分行けると思う」


「じゃあ、いつもと同じだね。歌いに行こう?」


「フィルローゼが行けると思えててよかった。

 ちなみに招待してくれているのはディペラント公爵という方だよ。

 前にパーティーでトラブルになった時にも部屋を貸してくれたり仲裁をしてくれたんだけど、覚えてるかな?」


「んー、たぶん? あんまりちゃんとは覚えてないかも」


 色々と印象的すぎることがあったし、フィルローゼはいっぱいいっぱいだからそれどころじゃなかったんだろう。


「結構イケメンで女の子からも人気のある人だよ」


「ふーん。にいさまよりもカッコいいの?」


「俺よりも人気はあるな。身分も高いしお金も持ってるし、顔もいいし」


「へー」


 もしかしたらフィルローゼの結婚相手になってくれるのでは、と家では微かに期待されていることなんて、彼女には教えなくていい。

 そんなに興味もなさそうだし。


「ちなみに俺は最近財務の警備に就くことの多い部署にいるから、財務関係の仕事をしてるディペラント公爵とはよく会うな」


「分かった。にいさまがお仕事で会う方なんだね。

 じゃあちゃんとキレイに歌わなきゃ!

 練習したいから、聞いてくれる?」


「もちろん」


 イケメンで、社交界の女の子からの視線を独り占めするほどのディペラント公爵よりも、俺のことを最優先して考えてくれるフィルローゼがやっぱり大好きだと思った。



 ☆。.:*・゜




 そして迎えたディペラント公爵主催のパーティー当日。


「フィルローゼ、とってもかわいいよ」


 そんな陳腐な言葉しか言えない自分が嫌になるほど、フィルローゼは可愛かった。


 キラキラと輝く薄金色の髪を背中に流して、ピンクの大ぶりな花のついた髪留めをつけている。


 この日のために新調したドレスも薄めのピンク色で、ボリュームたっぷりのチュールスカートはふわふわとした妖精のような雰囲気の彼女にぴったりだと思う。


「にいさまに可愛いって言って貰えるのが、一番嬉しいんです!

 それに、このドレスとってもお気に入りなのよ!」


 紅い瞳をきらめかせるフィルローゼは本当にかわいらしくって、このまま閉じ込めてしまいたいくらい。


「じゃあ、行こうか」


「はい!」


 でも、こんなにかわいい『妹』を連れて歩いて、周りの人に自慢するのも楽しいんだよな。




 パーティー会場は馬車停めから既に分かるくらいに人が多い。

 正直こんなに規模の大きい会には行ったことがなくて、さすが公爵家の主催だと思う。


 フィルローゼもさすがに緊張しているんじゃないかと心配になったけれど、彼女は俺が思っているよりもずっと落ち着いていた。


「フィルローゼ、人が多いけど大丈夫?」


「ええ、大丈夫ですわよ? だって、にいさまと一緒ですもの」


 よそ行き顔のフィルローゼもまた可愛くて綺麗で、そんな彼女に全幅の信頼をして貰えていることが嬉しかった。




 中へ入っても社交に慣れていない俺たちは人の多さに圧倒されていた。

 主催である公爵には正しいタイミングで挨拶に行けたが、それに全神経を使ってしまうほどだ。


 かろうじてフィルローゼの友達と少し話せたから、彼女の緊張を少しほぐすことが出来てよかった。



 そして迎えた余興の時間。


 今日の会場は大人数のパーティーができるホールだから、いつものような簡易の台ではなくきちんとした舞台がある。

 それがプレッシャーになるかもしれないし、兄としては不安でしかない。


 これだけ大きなパーティーであれば、有名な音楽家が登場するのが普通だと思うけれど、フィルローゼは負担に思っていないだろうか。


「フィルローゼ、大丈夫?」


「ええ。これだけお客さんが多いと少し緊張してしまいますけど、にいさまが居ますから、大丈夫です」


 俺の心配もよそに、フィルローゼは笑顔でそう応えてくれた。

 舞台袖から見えるだけでもかなり注目が集まっているのに、少しの緊張で済むのは彼女の強さだろうか。


「それは良かった。頑張って」


 その舞台袖からフィルローゼを見送ろうとしたら、彼女が急に振り返った。


「え、にいさま、どうしましたの?」


「ん?」


 どうした、と言われても。


「……なんで、そこで立ち止まるの?」


「えっ?」


 薄暗い舞台袖に2人きりだからか、いつもの口調で話すフィルローゼ。

 かわいいはずの彼女の瞳に妙な暗さがあるのは気のせいだろうか。


「いつもと同じなんだから、にいさまもいつもと同じところに居るのよね?」


「ああ、そういうこと」


 ようやく彼女の言いたいことが分かった。

 歌う彼女の椅子の後ろに立っていて、ということか。


「フィルローゼ、今日の舞台はかなり大きいだろう?みんなが見ているし、公爵閣下もいるから、変なことは出来ない。俺が居なくても大丈夫だよ」


 何もしない俺がのこのこ出ていくのはあまりにも不自然だろうと思ってフィルローゼに説明する。


「では、にいさまは私と一緒に居るのが嫌だと?」


 彼女の瞳の色が一段と暗くなった。


「いや、そんなことはないよ。もちろん。

 ただ、俺が出て行くのは不自然だから、と思っているだけで」


「ふぅん。にいさまは、私と一緒に居たくないんだ。

 ……じゃあ、私は歌えないから一緒に帰ろっか」


「いやいやいや、ちょっと待って、フィルローゼ。落ち着いて?」


「私は落ち着いてるよ? にいさまが無理だって言うから、合わせてあげてるの。ね、帰ろ?」


 急なフィルローゼの変化について行けない俺が悪いんだろうか。

 でも、もう余興の時間だし、揉めているヒマはない。


 それに何より、彼女の紅い瞳にどろりとした暗さが溜まりつつあるのはきっとここが薄暗いせいじゃない。


「ごめんな、フィルローゼ。俺がいつもと同じ所に立ってたらいいか?」


「うん。でも、ダメなんでしょ?」


「フィルローゼの気持ちを考えてなかった俺が悪い。ごめん。

 一緒に行くから、歌わないか?」


 彼女に歌うことは強制したくないけれど、ここまで来ておいて帰るというのはかなり辛い。

 さっきまで乗り気だったんだし、歌ってくれないだろうか。


「にいさまは、一緒に居てくれる?」


「ああ、もちろん。フィルローゼの居て欲しい所にいるよ」


「じゃあ、歌えるね。行こっか」


 ぱっ、と顔をあげた彼女はいつもと同じ俺の大好きなかわいいフィルローゼで、先程感じた闇は気のせいだったんじゃないかと思うほど。


 でも、確かに彼女は『俺が居ないなら歌わない』と言ったし、暗い目をして帰ろうとした。

 彼女は表面上では元気になって歌えているけれど、兄が居ないなら歌わないし帰る、というのはかなり乱暴じゃないだろうか。


 でも、それだけ実家から受けたダメージが大きかったということなのかもしれない。


 今の俺に出来ることは、フィルローゼを支えてあげること。

 彼女のためなら、何するために出てきたのかよく分からん、と噂されるくらい、なんて事ないさ!







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