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 うららかな午後。

 豪奢な姿見の前で、余念なく己の姿を確認する一匹のコーギー。


 はいっ、右斜め四十五度!

『よしっ』

 次は左斜め四十五度!

『うわあ、かわいい!』

 最後は正面! 人間をメロメロにする上目遣いで!!

『ううう、ワンダホー!!』


『うん! 今日もどこからどうみても可愛いコーギー。人間の面影なし! ……うう』


 自分で言って胸がえぐられた。はい、今日もコーギー感ぶっちぎりです♪


 しかし侮るなかれ。犬だからこそ出来ること、というものがある。

 特にコーギーの人間を魅了する能力はなかなかのもので、私はこの特性を生かし、破滅エンドを阻止することに決めたのである。


 あれから一週間。

 よくよく考えてみると、今はゲーム開始前のようなのだ。


 この世界の元となっているゲーム『薔薇の迷宮』は、王族や貴族たちが通う、聖エクレーア学園が舞台。ゲームは正ヒロインが高等部に入学してくるシーンから始まる。

 ヒロインはアリア様と同い年。

 先月アリア様は十五歳のお誕生日パーティを開き、来年から高等部に進学予定だから、まだ余裕があるはずだ。


 物語の鍵となる、ヒロインの名前は○○○


 ○○○にはプレイヤーがおのおの好きな名前を入れて、ゲームを楽しむ作りになっているから現時点でヒロインの名前は不明。

 わかっていれば、コーギースキルで速効たらし込みにいくのに残念である。


 ただ特徴として、伝説の聖女しか使えない光魔法を使えるということと、平民であるということがあげられる。


 『薔薇の迷宮』の世界では魔法が全てである。


 王族や有力貴族は皆一様に魔法適正が高く――

 というか、適正が高いために高い地位につくことができるという社会構造になっており、適正は血統に継承される傾向にあるから、平民の魔法適正者というのは極めて稀である。

 その上、ヒロインは光魔法という伝説級の魔法適性を持っているので、入学当初から注目の的となるのだ。


『んー、あんまり覚えてないけど、たしか見た目もすっごく可愛いのよね! 魔法適正と見た目と可愛い性格にブイブイ言わせて、攻略対象をどんどん落としていくのは痛快だった』


 ゲームが楽しかったことも、攻略対象たちの甘い台詞もしっかり覚えている。しかし困ったことに、ヒロインの見た目は興味がなくて覚えていない……


 私はへちゃりと腹ばいとなって、たしん、たしん! と両手両足を床に打ち下ろす。

 それはさながら、生きのいいエビのごとく。


『ああああ、こんなことならもっとちゃんとヒロインにも興味もっておけばよかった! 覚えてたら、入学前にコーギースキルでたらし込むか、スキをついて噛みついて二目と見れない顔にしたのにぃぃぃ』


 ウウウウ、ワンワン! ワンワン!

 ギャンギャンギャン!!


 吠えまくっていると、メイドのミラが慌ててやってきた。


「フ、フランソワ様!? どうされましたか!!」

『…………ご、ごめんなさい。スキをついて噛みつくは冗談です、よ?』


 こちらの悪巧みは伝わっていないだろうけれど、小首を傾げて可愛い子ぶれば、そばかすの小柄なメイドはほっと息をついた。


「最近、なんだかよくご乱心ですね。アリア様も心配されております。淑女たるもの、そのような態度は『メッ!』ですよ? 今日は、アリア様の婚約者様がいらっしゃいますので、大人しくしていてくださいませね?」

『え! アルフレッド、今日くるの?』

「よいお返事ですね。では、そろそろ昼食の準備をさせていただきます」


 こちらの問いかけなんぞ、もちろん分かってはくれない。

 侯爵令嬢のお犬さま専属メイドは、粛々とお辞儀をして部屋から出て行った。



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