表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

3

 会社の犬。

 明るい未来を思い描けない、ただ仕事をするだけの存在。


 はぁーい、今日もサービス残業よろこんでぇ! 文句なんてありません。上司様の指示は完璧ですぅぅぅ。


 そんな会社の犬となり、毎日の苦行を明るくこなしていた私。

 けれど、ひそかな夢があった。

 来世はこんな生き方をしたいな、と。

 とてもささやかだけど、二つほど。


 一つは、海の中の海藻になりたい。

 そう、いわゆる海の藻屑。

 穏やかな海をたゆたいながら、光合成をして、この世界のお役に立ちたいな。

 すっごい平和で、よさそう。誰にも叱られなくて、ときどきお魚さんとおしゃべりする、みたいな?


 なかなかの現実逃避。

 わかってます。疲れていたんですよ、ほんと。


 そしてもう一つの夢は――


 英国王室で飼われているコーギーになりたいな、と。


 テレビで英国王室特集をみていて思ってしまったのです。


 ほら! 

 だって、優しそうなプリンセスとかに囲まれて、おいしいものを食べて、わがままに振るまっても怒られない。

 むしろ、わがままも愛嬌で愛される存在。それが英国王室の犬。

 すっごい、よさそうだと思ったんですよ。


 ……ええ、望みましたよ。たしかに。


 そして、アリア様は本当に理想的な主です。

 私は毎日幸せに生きてきました。これからもアリア様の元で、犬生をまっとうするつもりでいました。


「フランソワったら、ご機嫌ななめね。おねむなのかしら?」

『違いますっ。あなたが心配でならないんです!』


 必死に訴えるが、私の声はワンワンと虚しく響くのみ。


『ああ、なんて無力……ダメだ、犬にはどうにもできない』


 私は両耳をペタンと寝かせ、くぅぅぅんと己の力のなさを嘆く。

 すると、アリア様はさっと表情を曇らせた。


「ああっ! そんな、そんな悲しい声で鳴かないでちょうだい……!!」


 アリア様が私を抱きしめる。

 その温もりが、二年前の記憶を呼び起こした。


 気づけばこの世界に転生し、ひとりぼっちで放浪していた。


 民家に入り込もうとして追い払われ、雨を避けることもできず、

 とぼとぼと。とぼとぼと。

 空腹と寒さに、もう死んじゃうんだなあと思ったそのとき、助けてくれたのがアリア様だった。


 泥だらけの私を、綺麗なドレスが汚れるのも気にもせず。

 ただただ、抱きしめてくれた。


 ――ああ、今日もアリア様はあったかいなあ。


 そして、あのときと変わらず、アリア様のまなざしは優しい。

 こんな優しい人が、一体どうして破滅の運命を迎えなければならないのか。


『みとめない……』


 悔しさが沸き上がり、肉球のついた両手をキュッと握りしめる。


『認めない! 絶対、アリア様は私が守るっ。破滅エンドなんてぜったいぜったい、認めない!!』


 思いの丈を吐き出して、顔をあげる。


 心配そうなエメラルドの瞳。

 私は大丈夫ですよ? と、美しい侯爵令嬢の頬に口づける。


 私の前世は、会社の犬で大した力を持たなかった。転生したらリアル犬で、もう笑うしかない。

 が!


『犬舐めんなっ。来るなら来い。噛み砕いてやる破滅エンド!!』


 そうして、私は破滅エンド阻止にむかって立ち上がる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ