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ときどき違和感を覚えていた。
本当に、これが私の姿なのか、と。
つぶらな大きな瞳に、美しい蜜色の豊かな御髪。
心のままに微笑めば、誰からも愛される。
ひもじい想いをすることも、疲れ果てることもない。
毎日、美味しいものを食べさせてもらい、ふかふかのベッドで眠り、天気がよければアリア様と遊ぶ。
アリア様は、ひとりぼっちで彷徨っていた私を拾ってくださった方だ。
深紅の髪とエメラルドのごとき瞳を持つ侯爵令嬢である。
美しい所作と屹然とした態度がカッコイイ我が主は、カッコイイだけでなく、とても優しい。
とてもとても。
昨日も、私がお皿を割ってしょんぼりしていたら慰めてくれて、今朝は優しく声をかけてくださった。
私の毎日は、喜びで満たされている。
だから、不安が忍び寄ってくるのかもしれない。
本当に、これが私の姿なのか、と。
こんな幸せな生活が永遠に続くのか、と。
そして、私はふいに思い出す。
来客の男に驚いて、ドアにぶつかった瞬間だった。
強い衝撃とともに、前世の記憶が怒濤のごとく蘇ったのである。