その3-4
着いたのは有名なチェーン店の薬局だった。日用品は勿論、飲み物、お菓子なども充実してるようで店先に並んでいた。
ここに辿り着くまで、散々刹那さんに遊ばれたわたしは心身困憊の状態で、一日バイトをした日よりも疲れ切っていた。
早く必要なものを買って休みたい…。帰るのが自分の家ではないのが残念だけれど、人目を避けれるなら何処でもいい…!何より刹那さんと手を離したい…!その為なら、嫌だけどあの足枷も受け入れる…!
いつもなら目的の物以外にも、特段必要では無いコスメや化粧品などを冷やかしで見たりするが、そんな余力は残っていない。必要なものが陳列されている棚に真っ直ぐ歩き出す。
必然的に手を繋いだままの刹那さんも着いてきた。
「あの、買いたいものを買ってくるのでどこかで待っててもらえませんか?」
「あぁ、私のことはお気になさらずに。何を買おうと気にしませんから」
わたしが手を離しても、刹那さんは手を握ったままなので今も手を繋いだままだ。化粧品はともかく、それ以外のものを買うときはついてこないでほしいと目で訴えるも無理だった。諦めて目的のコーナーへ向かう。とりあえず、化粧品を買おう。
刹那さんが使ってもいい、と見せてくれた部屋にあった化粧品はハイブランドのもので、勿体無くて使えない。支給品なので気にせず、と言われたけど使いこなせるとも思えないので遠慮させてもらった。
大型店なだけあって、普段使っているメーカー以外にも気になっていたブランドのものまで並んでいる。それらを横目で見つつ、ひとまずいつも使っている物を手に取る。
「買うもの入れてください」
いつの間にか刹那さんの手には籠があり、片手にわたし、片手に籠といった状態だ。
お言葉に甘えて、と必要な物をカゴに入れさせてもらう。一通りの化粧品に部屋にはなかったクレンジング、化粧水、乳液。羞恥心をかなぐり捨てて、本命の生理用品も籠の1番底にいれた。
「他に買うものはありますか?」
「いえ、これで全部です」
言いつつ籠の中身を再チェックする。1番の目的の物も昼用、夜用両方入れたし、よし、大丈夫。
わたしが確認し終わったのを見ると、刹那さんはレジへと歩き出す。
「あの、お金自分で払います」
「あなたは私の物なんですから、必要品などのお金は出しますよ。大した額でもないですし。それに財布持ってるんですか?」
「あっ…!」
お財布はいつもの鞄の中で、鞄を持ってくる暇もなく買い出しに出たからマンションに置いたままだ。
慌てるわたしを横目に刹那さんは籠をレジに置くと、スマートフォンを取り出して手早く電子決済をしてしまう。その間も手は握られたままで、何となく店員さんの視線を感じて、恥ずかしさに視線を下に向ける。
刹那さんは商品が入った袋を持つと、お店を後にする。
「あの、袋持ちます」
中身は全部わたしが必要な物で、刹那さんの買ったものは無い。自分のものを他の人に持たせるのは居心地が悪くて手を伸ばすけれど、あっさり避けられてしまった。
「重くないのでお気になさらず」
にっこりと笑顔で言われ、押し問答してもきっと持たせてくれないな、と感じ取れたので有り難く持っていただいた。
買い出しから刹那さんのマンションに帰ってくると、握手から解放される代わりに足枷をされてしまった。
手を握られてるよりはずっと良いけれど、付けたい訳ではない。やんわりとやめませんか?と言ったが、「走れないようアキレス腱を切られるのと、足枷をするの、どっちがいいですか?」と笑顔で言われたので勿論喜んで足枷を選ばせて頂いた。アキレス腱切れると走れなくなるんだ、初めて知ったなぁ…と要らない知識が増えてしまった事に喜ぶべきか否か…。
こうして悲しくも足枷と生活を共にしつつ、初めは緊張していたマンション生活も予想を裏切る形で平穏に過ぎ、数日が経つに連れて慣れてしまった。人間ってすごい。
物は最低限にしかないが、家電は最新のものが多く、高性能の自動掃除機、食洗機があり(勿体無くて使えない)、生活はしやすかった。寧ろ生活水準は上がった。
刹那さんは昼も夜も「仕事」でいない事が多いので、部屋の中では自由に過ごしていた。「仕事」の内容はとても怖くて聞けない。時々赤いシミをつけ、鉄錆のような匂いを纏って帰ってくるので、何をしたのか想像してしまい、末恐ろしかった。
「わたし、このままで良いのかな…」
いや、良くないよね。とベットの上で独りごちる。今日も今日とて刹那さんは仕事でおらず、1人時間を満喫していた。
わたし、監禁されてる訳だし。
ずっとこの生活をするのも嫌だし。