その3-2
その後、ジャラジャラと鎖の音を鳴らしながら部屋の中を案内された。部屋は2LDKの作りで、どこも物が最低限にしか置かれていない、生活感のあまりない部屋だった。なんだか誰か住んでる人の部屋に来た、というより賃貸の部屋の内覧に来た感覚に近い。
最低限置かれた家具、家電は好きに使ってもらって構わないと言われた。
昔友達に無理やり見せられた誘拐監禁ものの映画のように、檻に入れられてご飯も配給制で、といったことを想像しまっていたので、それよりはずっと待遇が良くてほっとする。
誘拐?監禁?されている状況には変わりないけれど、トイレ行く度に申告するなんて無理…!と思っていたので、この点に関してほっとした。
荷物は部屋に置いてありますよ、と言われさっきわたしが寝ていた部屋に行くと、部屋の隅にわたしの鞄が置いてあった。斜めがけの、使いやすくて気に入っている鞄。好きな猫のキーホルダーが付いていたので、返してもらえてよかった。
何となく、自分の物があると、知らない場所でも安心感が生まれる。
荷物を整頓している間、刹那さんはリビングで何やらパソコンをカタカタと動かしていた。1人で考える時間が貰えてありがたい。
荷物は返してもらったけれど、携帯は入っていなかった。外部との連絡をとる道具だからだろう。友達に大丈夫だよ、って、大丈夫では無いけれど連絡をいれたかったなぁ、と思う。それ以外の荷物はお土産も含めて殆ど返してくれた。
お土産、どうしようかな。一緒に蟹を食べよう!と来るはずだった友達に買ったカニ煎餅。生ものじゃないから日持ちするし、でもいつ渡せるか分からないし、食べてしまった方がいいのか…。
うーんと悩み、今は食べないでとっておくことにする。
お財布も入っていたけれど、保険証といった身分証明書関係の物は抜き取られていた。
日帰り旅行だったから、簡単な化粧直し道具はあるけれど、日用品は殆ど無い。
化粧水とか、乳液とか、所謂消耗品が一通りない。無くても死ぬ訳ではないけれど、どのくらいここで生活するのか分からないのだし…特に月に一度の女子のイベントではアレが無いと無理だ。今月はもう来ないけれど、来月にはくる。
刹那さんは苦手。散々追いかけ回されたし、殺されかけたせいで本能的に怖いと感じてしまう。それでも必需品は欲しい。
「あの…」
「何ですか?」
リビングでカタカタとノートパソコンを弄っている刹那さんを刺激しないよう、自然小さな声で話しかける。
「この家って化粧品、とか無いですよね?」
「あぁ、そういえば女性ってそういうのがいるんでしたっけ」
刹那さんはパソコンを打っていた手を止めると、そんな事思いつきもしなかった、と言う風に言う。そりゃあ、男性ですもんね、刹那さん…。
「化粧品なら会社から支給されたものがありますけど」
「化粧品あるんですか?何で⁉︎」
「仕事で使うんですよ」
「し、仕事で…⁉︎」
仕事で化粧品を使う⁉︎殺し屋って化粧するの⁉︎まさか死化粧…?それともわたしの想像のつかない使い方があるのだろうか。まさか自分自身が使うとか…⁉︎
予想していなかった事実にわたしの頭の中では色んな可能性が浮かんでは消える。
「…何だか楽しそうな事を考えてませんか?」
わたしの様子を見て刹那さんがニコニコと笑って言うが、その目は笑っていない。
「そ、そんなことないですよ!」
慌てて首を振りながら否定する。まさか刹那さんの女装姿を想像してました、なんて口が裂けても言えない…!でもとても似合いそうです…!
「まぁ、いいですが。でも流石に生理用品は無いですね」
恥ずかしげもなく、一番言いにくかった、けれど一番気にしていたことをサラリと言われる。
「今月は来ますか?」
「今月は終わったので…でも、来月には、来ます…」
恥ずかしい…!
会って間もない、よくも知らない相手に自分の生理事情を話すことになるなんて…!
友達ともこんな話、頻繁にする訳じゃないのに…!
言い終わった後、羞恥心で顔が熱くなるのが分かった。
刹那さんの反応が見れなくて俯いてフローリングを意味もなく見ていると、少しして、「買いに出ましょうか」、と刹那さんが口を開いた。
「え?」
「適当に私が買っても良いんですが、出血量は把握してないので。自分で選んでもらった方がいいでしょう」
出血量って…。表現が不穏だが、どの生理用品を買ったらいいのか分からないので、わたしに選ばせてくれるという事らしい。というより外へ出れるとは思っていなかったのでびっくりする。
刹那さんは開いていたノートパソコンを閉じると、背もたれにかけていた上着を羽織る。
「じゃあ早速買いに行きましょうか」
そう言って、綺麗な顔に綺麗な笑みを浮かべて手を差し出した。




