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招かれた人たち

 商隊の主、デジレは、護衛達のアメデ、ブノワ、シリルの三名を伴って、モラス領内に居た。


 デジレだけは事情を全て事前にシルヴァンからの手紙で知っていたが、三名はどうして自分たちがモラス領まで来るはめになったのか知らずにいた。


 目的地、聖都ビルトラペで姿を消した二人の仲間を気にしていた三人だった。旅では、命を落とすものも少なくはないが、なんだかんだ、三人はシルヴァンとベルナールの事を気に入っていたのだ。


「デジレ様、来ればわかると言われ続けてここまで来ましたが、本当に、何の用でここまで」


 着慣れない礼装のアメデは、詰まった襟元をわずらわしそうに緩めたがっている。


 並の男よりも横幅も縦幅もあるブノワについては、ボタンがはじけ飛びそうな有様だ。


 逆に、やせ細ったシリルは肩が少し落ちていて、丈に合わない礼装を着させられている感じな三人は文句を言いながら、雇い主の指示に従い続けていた。


「モラス領のあたりは穀倉地帯ではありますが、街道も整備されていて、俺達なんて出番ないでしょう、あちこちに兵舎もあるし」


 アメデはまだ文句を言い続けていた。


「まあそう言うな、めでたい席へ連れて行ってやろうというのだ、これから行く場所は、お前たちは本来であれば呼ばれないような晴れがましい場所なのだぞ」


 事情を知りつつも、本人達に会うまでは黙っている事を決めているデジレは、奥歯にものの挟まったような物言いを続ける。


「晴れがましい、ねえ……」


 しかも今回は護衛の任務では無いため給金は出ないのだ、だったら好きにあちこち見て回りたいのに、と、ブノワが市街地から人だかりを見つけてぼやいた。


 そこは、どうやら教会のようで、ブノワ達同様、晴れ着を着た人々であふれていた。


「何か祭りでもあるのか?」


 笑顔で道を行く人々を見てシリルも言う。


「ああ、間に合った!」


 デジレが見た視線の先には、一対の男女が居た。


「え……あれって……」


 驚いたアメデは、自分の見ている事象に間違いが無いか確かめるべく同僚二人を交互に見た。


「黒鷲……だな」


 呆然とするブノワに、シリルが続けて言う。


「俺は、婚礼の儀式に見えるんだが……」


 驚いた三人を見守りながらデジレが言った。


「ああ、そうだ、これはシルヴァンの結婚式だ」


 しれっと言うデジレの言葉に、シリルとブノワが同時に噛み付いた。


「ええ! じゃあ、ベルナールは、あいつは、捨てられたんですか?」


「なんだよ、あいつ、どこへ行くにも連れ回してたくせに……」


 一人の消息がわかったものの、もう一人の認識がない二人は、シルヴァンに向けるべき怒りをなぜかデジレに向けていた。


 しかし、アメデだけは二人にならわず、シルヴァンと並び立つ花嫁を凝視し続けた。


「……もしかして、あの花嫁って……」


 気づいてしまったアメデの様子に、デジレは笑顔を返した。


--


「……その髪留め、するんですか」


 シルヴァンの髪を一つにまとめている髪留めは、旅支度の合間にベレニスが買っておいた物だった。渡す機会を失っていたが、先日渡す事ができたのだが、以来シルヴァンは気に入ってずっと身に着けている。


「愛する妻が最初に俺の為に用意してくれた贈り物だ、当然だろう」


 髪留めは、華美では無かったが、上品なもので、正式な式典であってもそれほど無作法では無いが、だとすると、自分はあの肌の露出の多い衣装を着なくてはならないのでは? と、ベレニスが返すと、シルヴァンは言った。


「いや、その、あの姿を見せるのは俺だけにして欲しい、もちろん、何も着ていない姿もいいけれど」


 奥面なくそんな事を言う新郎に、恥ずかしそうに新婦は手で口を塞いだ。近くには、父も母も妹もいるのだ、親族に聞かれたいような話では無い。


「すでに神に誓った夫婦なのだから、恥ずかしがらなくても」


「いえ、恥ずかしいものは恥ずかしいです」


 きっぱりとベレニスが言うと、シルヴァンは少しだけ寂しそうな顔をした。


 あきれてため息をひとつついて、ベレニスはシルヴァンの手をとった。


「さ、行きましょうか」


 重なった腕に、互いのぬくもりを感じながら、ベレニスとシルヴァンは手に手をとって進みでた。


 問題は全て片付いたわけではないけれど、二人ならば。


 足並みを揃えて、二人は一歩、踏み出した。


(終わり)

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