3-23 【襲いかかるティナ】
「ティナ!?」
魔王の叫び声に反応し、振り返った先には大きく腕を振り上げたティナがいた。
普段の柔らかな手からは想像もつかないような鋭い爪を伸ばし、今まさに眼前の獲物──俺に向けて振り下ろそうとしている。
「……っ!」
遠慮も加減もない振り下ろしに、頬を冷や汗が伝う。何とかギリギリ躱すことが出来たが、魔王の声が無かったら今頃ザックリやられていた所だ。
「スマン魔王、助かった!」
そう魔王に告げるが、あっちはあっちでマリアベルと交戦を再開したようだ。爆発音やら何やらで、声が届いたかどうか……。
「向こうの事は任せるとして……こっちの方が問題だな」
依然虚ろなまま襲い来るティナ。ソレをかいくぐりながら、様子を探ってみる。まず間違いなくマリアベルが潰した卵が原因だろうが、残念ながら正気に戻す方法がわからない。他人を操る道具ならソレを壊せば良かったりもするが、すでに潰された後だ。
「ティナ、しっかりしろ! 正気にもどれ!」
声をかけてみるがまるで反応する素振りもない。ひとまず動きを止めて、解呪を試してみるしかないか。
「少し痛むかもしれんが……許してくれよっ!」
大きく振り下ろされた腕を避け、相手の動きを流す様に足を払う。振りの慣性に逆らえず倒れこむティナをそのままガシリと抑えこむ。亜人族とはいえ、女の子だ。力比べで負ける筈もない。
「こういうのはあまり得意じゃ無いんだが……効いてくれよっ!」
呪文を唱え、治れと強く念じる。解呪の光がティナを包み込むが、
「うふふ、無駄よアレウス。別にその子を呪ったりしている訳ではないわ」
魔王と戦闘しながらも、こちらを見ていたのかマリアベルがそう伝えてくる。奴の言ったとおり、ティナには何の変化も無いようだった。
「ええい! 年増の分際でちょこまかと生意気な!」
驚いた事に、魔王が子供のように翻弄されていた。ムキになればなるほど動きが単調になるのか、マリアベルはまだまだ余裕があるような素振りを見せている。
「大見得切っておいてアイツはっ! 魔王落ち着け!」
「うるさいのじゃ! わしは冷静じゃ!」
どこが冷静だよどこが……。仕方ない、ティナには悪いが拘束させてもらって、マリアベルを吐かせるのが先か。
「こんな事したくはないが、そうも言ってられん。少しの間大人しくしててくれよっ!」
抜けだそうと暴れているティナに拘束呪文をかけ、動きを封じる。年頃の女の子をおっさんが縛る……傍から見れば犯罪の様だが場合が場合だ。大体ソレについて突っ込んで来るような奴もいない。
「あら、アレウス。女の子を無理やり縛るなんて、犯罪者みたいよ? 貴方、そういうの好きだったかしら?」
前言撤回、ここにいた。と言うかそうせざるを得ない原因を作ったのはお前だろうに。
「後でティナには誠心誠意謝るさ。そんな事より、元に戻す方法……吐いてもらうぞ」
「ふふふ……大事な仲間が出来たのねぇアレウス。少し嫉妬してしまうわ。私達だって長い時間、苦楽を共にした仲間だったのに」
「それを踏みにじったのもお前達だろう。俺にまったく非が無かったとは言わんが、それを抜きにしても悪いがもう、お前達を仲間だとは思えんな」
「捨てられてしまいましたわ。悲しいすれ違いですわね」
欠片もそう思ってない様な声で、マリアベルが泣き真似をしている。アリシアにしてもそうだが、こいつ達の考えがまるで理解出来ない。
「すれ違いだろうが何だろうが、全て今更だ。どのみち好き勝手暴れているお前達に、仲間だと言われたくも無い!」
そう言い放ち、マリアベルへ攻撃呪文を放つ。膨れ上がった火球が標的目掛け飛んでいく。
「残念ですわ。まあ、私も弱い貴方なんていらないんですけどね」
実力差を見せつけたいのか、迫り来る火球を同じく火球で迎撃するマリアベル。その才能の差を示すかのように、俺の放った火球を包み込み、一回り膨れ上がり迫り来るマリアベルの呪文。
「ちっ!」
ソレを避けながら次の手を考える。同じ土俵で戦っても、マリアベルの方が実力は上だ。腐っても攻撃魔法のエキスパート、相手の得意分野で挑むのは愚策だろう。と言うか、魔王との共闘だ。俺が直接勝てなくても良い。
「なんじゃ、わし一人でも充分じゃと言うに……」
「翻弄されまくってて何を強がってるんだよ。今はティナを元に戻すのが優先だろう」
「わかっとるわ! 死なぬ程度に痛めつけるからの、巻き込まれんようにするんじゃぞ」
改めてマリアベルを睨みつける。二対一だというのに、まだ余裕があるような顔でこちらを見ている。
「あらあら、数で優位に立ったおかげかしら。勝つ前提で話を進めてるなんて。二人がかりだなんて、恥ずかしくないのかしら?」
「たわけ。正々堂々一対一など、決闘でもあるまいし拘る必要は無い。大体、わし一人に対して複数で攻めてきたのはお主らが先じゃろう」
「うふふ、そう言えばそうだったわね。じゃあ──私が手駒を増やしても、文句は言わないわね」
そう言ってマリアベルが魔法を発動する。地面に描かれた魔法陣が光り輝き、人影を映し出す。
「さあ、これで私達の方が人数は上だけれど、卑怯だとは言わないわよね」
光が収まったそこにいたのは、赤茶色の髪を一房だけ三つ編みにした垂れ耳の少女と、巨壁の様な体躯を持ち天を衝く角を掲げる男──フィーナとウォルナックだった。
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