3-19【急転直下】
ようやく続きが書けた……。長らく開いてすみません。
海上国家アストラ。
海という境界を持ち、他国とは異なる道を進んできた国。その大船の舵を取る三人の指導者――賢人。
その内、二人の賢人は、責務の重さに潰されるかのごとく椅子にもたれ掛かり、事切れていた。
「椅子に座っておるのが仕事じゃろうが、コレは……」
一体いつからそうなのか、肉は腐り落ち、まるで椅子と同化しているかのようだ。
空気が流れだした事により、出来れば嗅ぎたくは無かった、イヤな臭いが全身にまとわりついてくる。
「い、いつから……」
残る一人の賢人、カストールが絞りだす様に声を出す。
そう、いつからだ?
人が腐敗するなんて、尋常な話じゃない。ましてや賢人だ。姿が見えなくなれば嫌でも目立つ。そんな話がカストールに伝わらない、なんてことは考え難い。
「ひとまず、誰か呼んでくるか。このままにしておく訳にも行かないだろう」
「そう……ですね、兵を呼んできましょう。皆様は外へ……私の執務室でお待ちいただけますか」
カストールは真っ青な顔のまま、必死にこらえ責務を果たそうと部屋を後にする。俺達はそれに続くように、会議室を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから暫く、カストールが帰って来るのを待っているが、いっこうに帰ってこない。
まぁ、アレだけの惨状だ。時間がかかるのも仕方ないが……。
「遅いのう」
待ちくたびれたのか、足をブラブラと揺らしながら魔王がボソリとつぶやく。
「きっともうすぐですよ……」
ティナはそう魔王に返事をするが、その手はムニムニとクロを揉んだり伸ばしたりしている。
「ティナは大丈夫なのか? 気分が悪かったりしないか?」
俺や魔王はともかく、一般人のティナには堪える光景だったろうに。
「え、ええ……臭いは辛かったですが、幸いハッキリとは見えませんでしたので」
「そうか。まぁ、具合が悪くなったら直ぐ言ってくれ。アレは流石に女の子にはキツイだろう」
「はい、ありがとうございます」
そう返事をしたティナを見ていると、横からジトッとした視線を感じた。見ると魔王が何か言いたげな顔だ。
「ん? どうした」
「いやの、この部屋にはもう一人、『女の子』が居るはずなんじゃが……どうにもお主には見えておらんようじゃからの」
やや不機嫌そうに、そしてわざとらしく咳をする魔王。
「いや、お前は平気だろう……魔王なんだし。むしろ創りだす側じゃないか? ほら、死霊術とか……」
「ぐっ、ぐぬ……いや、そこは関係あるまい! こんないたいけな幼女にあんな光景を見せて、お主はなんとも思わんのかえ!」
「別に見せたくて見せた訳じゃないんだが……」
「ええい! これだからデリカシーのない奴はっ……」
お前に言われたくはないんだが、どうやら待ちくたびれたストレスを晴らそうと、ここぞとばかりに絡んでくる。
「全く……出会った頃の謙虚さは何処へ行ってしまったのじゃ。お願いします魔王様と頭を下げておった、あの頃のお主は……」
「勝手に捏造するな……誰もそんな事言ってないだろう」
その後も何かにつけて絡んでくる魔王をあしらいながら、待つ事二時間程……喋り疲れたのか魔王がウトウトと船を漕ぎだした頃になって、ようやく事態は進行した。
それは、けして望んだ方向ではなかったが――。
「む、誰ぞ迎えに来た……にしては数が多いのぅ」
こっくりこっくりしていると思っていた魔王が、唐突に呟く。
「わかるんですかリリィちゃん?」
「うむ。十人位かの。しかし……良い気配ではなさそうじゃが」
魔王の言葉に被さるように、扉は乱暴に開かれ、有無を言わさずズカズカと兵たちが押し入ってくる。
「きゃあっ!」
狭い部屋にティナの悲鳴が響き渡る。恐らく隊長なのか、先頭の兵士はそのまま俺達を見下ろす様に立ち、剣を付き出しこう、口にした。
「逆賊アレウス及びその一行よ! 三賢人殺害により貴様らを処罰する!」
その声に合わせ、周りの兵たちも次々抜剣し、身構える。
「俺達が……賢人を? いや、その前に今三賢人と言ったか? カストールは無事だろう?」
二人は確かに死んでいた。しかし、カストールは無事な筈だ。何より発見した時、一緒に居たのだから。
「訳のわからんことを! やれっ!」
こちらの話をまるで聞かず、兵たちがジリジリと迫ってくる。とはいえ、言っては悪いが所詮兵士。俺と魔王の相手では無い。ティナにしてもクロが付いている以上、触れる事も出来ないだろう。
「ふむ……どうするお主よ?」
「流石にここで斬られる訳にもいかんしな……ひとまず外に出て、カストールを探すか」
そうと決まればこの部屋にいる理由もない。気絶でもさせるかと考えていた俺より先に、魔王がティナに――いや、クロに近付く。
「面倒じゃ。クロよ頼めるか」
魔王がそうクロに問い掛けた瞬間、フルフルと震えたクロから、目にも止まらぬ速さで何かが伸びる。
それは、糸のように細く伸びた、クロの体。鎧の隙間目掛け蛇行しながら伸びるソレが、兵士たちに触れたとたん、またたく間に意識を奪い去っていく。
部屋に入って来た兵士四人と、外に控えているであろう六人。全員うめき声一つ無く、ドサリと倒れこむ音だけが聞こえてきた。
「死んでは……いないようだな」
「ソレは面倒な事になるじゃろう? なぁに、ちょっと眠っておるだけじゃ……だけじゃよな?」
不安になるような事を口にする魔王。念の為確認してみると、皆寝ている様だ。
「……寝てる、な」
「よ、よし! 今のうちじゃ。さっさと行くとしようぞ」
珍しく先導する魔王に首を傾げつつ、俺達は部屋を後にした。その時ボソリと呟いた魔王の言葉は、あえて聞こえなかった事にした。
「こやつら……目を覚ますことはあるのかのう――」
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