3-17【依頼の答え】
ツグモリに依頼をしてから数日後、日が沈み切るより前、宿にツグモリの部下らしき男がやってきた。何でも話したい事があると。
何か情報を仕入れたか、あるいは失敗に終わったかと、期待半分不安半分に、指定された場所へ向かう。まぁ、前回と同じ酒場なんだが。
「あいつ、会う時は常に飲んでないか……」
「まぁ、酒は良い物じゃからの。わからんでもない」
すぐ酔い潰れるくせにどの口が言うんだよ……とはあえて口にするまい。
「何か、役立つ話が聞けると良いですね」
「そうだな。流石に何も分からなかったなんて、言わないと思うが……」
そうこうしている内に、約束の酒場につく。時間帯もあって酒場は酔いどれ客で混雑しているが、今日は床で酔い潰れている客もおらず、平和なものだった。
その中で一人、待ちわびたのか既に出来上がっている様子のツグモリがいた。
「おう! こっちだこっち!」
机の上に置かれた空の酒瓶……その割にやはり平然とした顔で、ツグモリが手招きしてくる。
「すまん、ちょっと遅くなったか?」
「なぁに、気にすんな! どのみち飲んでるんだからよ!」
そう言ってぐいっと酒をあおるツグモリ。魔王とティナは匂いがキツイのか、少し顔をしかめている。
「それで……早速聞いても良いか?」
「おいおい! 酒場に来てシラフで居るなんて酒に対する冒涜だぞ! 取り敢えず一杯やれや!」
酔っ払い特有の強引さでツグモリが酒を勧めてくる。戸惑っていると俺を横目にサッと魔王が受け取るが、酔い潰れるのが目に見えてるからか、それをやんわりティナが奪い取っていた。
「ティナよ……後生じゃ……」
「駄目ですよ、弱いんだから少し控えましょうね」
珍しくズバッとティナが叩き斬ったな。魔王が何とか奪い返そうと手を伸ばすが、いかんせん身長差もあって届いていない。
「お前さんは大丈夫だろう? ほれ」
ツグモリから酒を受け取り、グッとあおって見せる。とたん、強烈なアルコールが喉を焼きながら流れ落ちていき、思わずむせる。
「ゴホッ! 何だこの酒!」
「はっはっはっ! どうだキクだろう!」
酒というよりもはやアルコールを直接飲んでいるかのような錯覚すらしてくる。そんな酒をツグモリは平然とあおっている。魔王なら一滴で酔うんじゃないかと思う程だ。
「よく飲めるな、こんな酒……」
「良い男は酒にも強いんだよ! ハッハッハ!」
そんな話はしてなかったと思うが、案外ツグモリも酔ってるんだろうかと、少し不安になってくる。
「あー、話を聞いても大丈夫か?」
「何だ何だ、付き合いの悪い奴だな! まぁ良いか……そうだな、結論から言うとだな――黒だ」
黒……やはり、賢人達とアリシアは繋がっている。
「まぁ、黒も黒、真っ黒だわ。正常なのか操られてんのかは分からんがな」
「そうか……いや、黒だと分かっただけで十分だ」
「ついでと言っちゃ何だが、次にいつ会うのか探りも入れてきたぜ……明日、城で会うそうだ」
「明日か……わかった。助かった」
繋がりがあっただけでも十分だったが、会う日まで分かっているなら話は早い。城で会うというならカストールに頼るか。
「それで、報酬の件だが……」
「ああ、こんくらいで良いぞ」
「……安くないか?」
ツグモリが提示した金額……少ない訳ではないが、内容を考えると少し安い。
「なぁに! お前とのコネが出来たと思えば安いもんだ」
「そういう事なら、甘えておこう」
報酬をツグモリに渡し、席を立とうとするが、ツグモリがそれを引き止めてくる。
「おいおい! もうちょっと付き合えよ! 仕事が終わった後は酒が旨ぇんだよ!」
「明日の準備が……いや、分かったよ少しだけだぞ。だからそんな顔をするな」
大の大人――それも厳つい――が、泣きそうな顔をするな。
「ったくよう! もう少し付き合いってもんをな……」
「すまんな、そんな余裕が出来たのも最近でな」
グチグチと絡み酒になって来たツグモリを適当にあしらいながら、店員に注文を頼む。まぁ、晩飯もまだだったしちょうどいいか。
「のうお主よ……そう言えばお主はワシに借りがあった筈じゃの?」
「……なんの事だ?」
晩飯と聞いて、魔王がなにやら含んだ言い方をして来る。
「あんな散々ワシを辱めておいて、もう忘れておるのか。やはりワシはその程度の扱いなのじゃ……」
魔王がわざとらしく大袈裟に泣き真似をする。おい、せめて涙くらい出せよ……。
「何だ何だ、とうとう手を出しちまったのかお前さん! というかこっちの娘じゃなくて、ちびっ子に手を出したのかよ! それは男としてどうなんだ?」
「いや、出してねぇよ……」
「こやつはの、ワシには柔らかさが無いとか言うんじゃ……一生得られんと……くすん」
ここぞとばかりに泣き落としにかかる魔王。周りの客もなにやらコソコソと声を上げている気がする。
「あー、ティナだったか? ホントのとこはどうなんだ?」
「え、ええ……と、概ね……間違っては、無い……ですかね」
ティナの答えを聞いて周りから、もはや軽蔑の眼差しまで飛んでくる。いや、ちゃんとフォローしてくれ、ティナよ……。
「おいおい! 男ならちゃんと責任とらないと駄目だろうがよ!」
ツグモリが何やら誤解している様だが、どうにも空気を作られた時点で、俺の負けは決まっているようだ。
「わかったわかった! 言いたいことは山ほどあるがもう良い、好きなだけ頼めよ!」
「さすがじゃの。ワシは信じておったぞ!」
泣き真似から一転、パッと笑った魔王が店員に次々と注文していく。いやお前、全部持って来いとか止めろ。
「はっはっはっ! お前さんの負けのようだな!」
「ったく……煽ってきた癖に何言ってるんだ。覚えとけよ……」
ジロッとツグモリを睨んだ後、グッと酒をあおる。これが敗北の味か……なんて馬鹿な事を考えながら飲んだ酒は、それでも美味い。
なんだかヤケ酒でもしたい気分だった――。
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