2-13【味の暴力】
あれから城の兵士は、俺とティナ達を見比べ、「ああ……英雄ですもんね。病み上がりですし程々に……」等と変な気を使い部屋を出て行ってしまった。
明らかに勘違いをされたが、それは後で解くとして、ひとまずティナに着ていた服を渡し後ろを向く。
ゴソゴソと服を着る音が聞こえ、ややあってティナが「もういいですよ」と、声をかけてきた。
「あー、いやすまん。まさか服まで消えるとは思わなかった……」
「いえ……大丈夫です……」
全然大丈夫そうじゃないが、むし返すのもなんだしお互い終わった事にした。なんなんだ……アリシアの嫌がらせか? 行動がさっぱり読めん……。
というか、こういう時はクロがガードしてくれたって良いんじゃなかろうか……というかどこに行ったのかクロの姿も見えない。
魔王? あいつは気にしないだろうから放っておいてある。今は床でスヤスヤと寝息をたてている。
「散々心配させておいてこの始末……どうしてくれようかな」
「取り敢えずアレウスさんはもう少しリリィちゃんを女の子扱いしてください……」
そう言いながらティナが魔王に布団をかけていく。
「ちなみにクロはどうした?」
「クロちゃんならあそこに……」
言われてベッドを見ると、なんか猫の姿になって丸まって寝ているクロがいた。あいつも自由すぎるだろ……。
まぁ、クロは置いといて問題は魔王だな。
「どうやって起こすかな……」
「起きますかね……。リリィちゃーん、起きてくださーい」
ティナが揺さぶって起こそうとするが、揺れに合わせてゴロゴロするだけで起きる気配もない。うん、知ってた。
「うーん……取り敢えずクロでも乗せてみるか」
ベッドで丸まっているクロを抱き上げ、魔王の顔の上に乗せる。クロはオロオロしている様だったが、やがてそこで丸まった。
息が苦しくなれば起きるかと思ったが、魔王はそのまま眠り続けている。人には見せられない光景だな……。
そういえばクロはあらゆる因子を持ってるって話だったな。試しにやってみてもらうか。
「クロ、そのまま魔王に……そうだな、苦みでも味あわせてくれるか?」
クロは一瞬こっちを見たあと、やれやれといった動きで魔王の口へ前足を突っ込んだ。
「んー……なんじゃ飯か――!!?!?」
飯と勘違いしてクロを噛んだ瞬間、魔王がクワッと目を開き激しく咳き込みだした。
「ゲホッゴホッ! テ、ティナよ! あれ程飯は作るなと言ったじゃろう!」
「ええー! ひ、酷いですリリィちゃん!」
一体クロは自分の身体を何に変えたのか……。
少なくとも魔王が、ティナの料理と間違える程の味には違いないだろうが……。この場合酷いのは一体誰だろうな。
「まぁ、あれだ……おはよう。お前には色々聞きたいことがあるんだが……大丈夫か?」
魔王は余程酷い味だったのか、まだ涙目で震えている。
「だ、大丈夫じゃないわ! ワシに何をした!?」
キッと睨みながら魔王が聞いてくるので一連の流れを説明してやる事にする。
「えーと、私がリリィちゃんを揺さぶって……」
「俺がクロを顔に乗せて」
「ブンブンブン(わたしが腕を突っ込んだ!)」
三人の説明に魔王が苦い顔をしている。苦味を受けただけに。
「その流れの何処に味が絡んでくるんじゃ……」
「あ、俺が苦味を指定したわ」
俺の発言に魔王がゆらりと起き上がり、寝転んでいたクロの首をむんずと掴み持ち上げる。
「そうか……お主か……覚悟は出来てるんじゃろうな……」
「待て待て待て、今はそんな事より大事な事がだな――」
「問答無用じゃっ!!」
豪腕一閃、魔王により投げられたクロは、そのまま両腕を前に付き出し飛んできた。
狙い違わず俺の口に収まるクロの腕。
口に入った瞬間、思わず軽く嚙んでしまう。次にやって来るのは、もはや形容する事の出来ない、苦味。いや、苦いというカテゴリーにすら収まらないナニカだった。
「…………あ……親父…………」
今は亡き親父が手招きしている幻覚を見ながら、俺の意識は深い闇の中に落ちていった――。
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