2-5【街の異変】
なんとか無事に入国することが出来た俺達は、宿を取ろうと進んでいた。
道中、目を覚ました魔王が買い食いしたりして、宿についた頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。
「いらっしゃい。飯か、泊まりか?」
長駆で、肩幅も広い店員が無愛想に聞いてくる。何故宿屋の主人なぞしてるのか、と思わんばかりのガタイの良さだ。人というより熊だな。一応人間族らしいが。
「あー、泊りで。三人だ。ついでに飯も頼みたい」
「わかった。部屋は同じで良いか」
「ああ、それで良い」
熊主人から鍵を受け取り部屋まで進む。この宿は一階が受付とめし処、二階が客室というオーソドックスな宿だ。いくつか廊下にある扉から、自分達の部屋を探し当てる。
部屋は綺麗に掃除されており、値段の割に十分広い。いい加減空腹も限界なので、さっさと飯にすることにした。
「ふーむ、あの熊が作っていると思うと不思議な感じじゃのぅ」
「あの太い指と手足でなんでこんな繊細な事が出来るんだ……」
適当に頼んだ料理、それはどれも素晴らしい味だった。道中最後の方は、塩味の肉しか食っていなかった俺達にとって、素材の甘みや野菜の旨さなどが染み渡る。
「そういえば、これからどうするんですか?」
ティナが今後の動きについて聞いてくる。
「この国にはアテもコネも無いからな……。とりあえず二〜三日は街を見つつ、何かおかしな事が無いか探すくらいかな」
「なんじゃ、いきなり城に乗り込むんじゃないのかえ」
ここに着くまではそれもありかと思ってたんだが……。
「あの兵士達を見るとな……。無策で突っ込んで囲まれても厄介だ」
一発二発程度ならなんの問題もないだろうが、百も二百も投げつけられたら流石にキツイ。あの剣が使い捨てという事や、兵士が人間離れしている事を考えたら、無謀な事はしたくなかった。
「なんぞ、翼竜共を追いかけ爆殺する剣とか言っておったの。まずはその辺りから調べるかえ」
「ああ、街の鍛治屋とかに聞いてみるか」
あれだけ派手に使ったんだ。街でも有名だろうし、何か情報もあるだろ。
とりあえず今日は休むことにして、明日からは調査だな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、街を探索しつつ鍛治屋を探してみた……が、一軒も見つからない。すれ違う人にも聞いてみたが、誰も知らないという。あった気もするが、今無いなら無い。そんな不思議な答えが帰ってきた。
「うーん……この規模の街で鍛治屋が無いなんておかしくないか?」
「街の人の答えも不思議な感じでしたね」
受け答えの感じは認識阻害の魔法に近いんだが、こんな広範囲かつ、永続的なんて流石に俺でも無理だ。
しかし鍛治屋が無いとなると、兵達の剣は何処で作ってるんだ? 鍛治屋を城に招集して作らせてるのか?
「のうお主や、そんな事よりワシは腹が減ったぞ」
ティナに手を引かれている魔王がそんな文句を言い出す。ちなみに、魔王は馬車の車輪を見て閃いたとかで、裏に車輪のついた靴を創り出していた。自分の足で歩く事なく、引いてもらえば車輪が回り進める、画期的な代物……らしい。
ゴロゴロとうるさいのが玉に瑕だが。
「お前……さっきも散々食ってただろう」
「さっきはさっき、今は今じゃ。ほれ、あそこの出店でなんぞ、買って来るのじゃ」
「はぁー……仕方ない。俺達も食うか。だがな……」
そう言って魔王の後ろにまわり、肩をしっかり持つ。
落とさないよう、首には小銭を入れた小袋をかけてやる。
「ん?」
「買ってくるのはお前だ!」
そのまま出店目掛け、魔王の背中を勢い良く押し出す。ここから出店までは平坦な道だ。十分届くだろう。
急に押し出された魔王は、慌てながらもバランスを取り、そのまま出店まで滑っていく。
魔王は何か文句を言っていたが、たまの鬱憤晴らしくらいいだろう、そう思って満足していると、ティナがボソリと呟いた。
「でも……あれだと帰って来ないですよね、リリィちゃん」
「あ……」
手元に金があり、出店には魔王一人。つまり食い放題。遠目に魔王が、明らかに四人前より多い量を買うのを見た俺は、慌てて出店まで駈け出した。
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