1-24:【暴走する勇者】
こいつは何を言ってるんだ?
急に襲ってきたと思えば、訳のわからないことを言い、苦しみだしたジルベルト。
治ったと思えば今度は初めまして、と来やがった。
まるで、初めて出会った時をなぞる様に……。
「んだよ、緊張してんのか? 大丈夫だって! 俺が護ってやるからよ!」
「ジルベルト……」
「ん? そっちの小さい子もそうなのか? へー……宝玉の勇者。え!? 妹なのか! 凄えな、兄妹揃って勇者か!」
ジルベルトはこちらの事など眼中に無いように、出会った日のやり取りを続けている。まるて――時間を巻き戻したかのように。
「魔王、何かしたのか?」
こんな事を出来るのは魔王位のものだろう。人の手に出来る範疇を超えている。ジルベルトが若返っているのも、そのせいか? 見ればさっきの戦闘で付けた傷も無い。
「いや……ワシは何もしとらん」
魔王も何が起こっているのか、困惑気味の表情で返答してくる。
「それで俺はな? 俺は……俺……は……俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺オレオレおれおれおれ――――」
なんだ!? 突然狂ったように連呼し始めるジルベルト。見れば髪を掻きむしり、血走った目で、狂気に憑かれたような表情で、辺りを見回している。
「ガアァァァァァァァ!!!!」
っ……!何て声だ。人が出せる声量を遥かに超えた大きさで、ジルベルトが天に向かって吼える。
「オレは……魔王ヲ……コロス」
ジルベルトが一歩ずつ近づいて来る。来るんだが……。
「なあ魔王、俺の目の錯覚か?」
「いや、ワシの目にも映っとるのぅ」
近づくに連れて、ジルベルトはその姿を大きく変えていった。
細いが筋肉の着いた手足は、丸太の様に太く、遠目に見ても分かるほど筋肉が盛り上がっている。比例して身長も伸び、今では見上げねば顔が見えない程だ。ボロボロになった服からのぞく身体は、青黒く、人には無い器官まで存在するようだ。
身体に反して頭は小さいままだが、角兜の様に、左右一対の大角が、天を突くと言わんばかりに生えている。
正直、こいつと魔王を横に並べれば、十人皆、ジルベルトを魔王だと言うだろう。
「これぞ魔王って感じだが……何が起こった……」
「これは……いや、しかし……」
何か心当たりがあるのか、魔王が珍しく考え込んでいる。
「魔王?」
「話は後じゃ。今はあのデカブツを何とかせねば。流石にこれはお主の手に余ろう」
そう言って魔王は前に進み、俺と横並びになり呪文を唱えていく。こちらもまた、人では届かない膨大な魔力が渦巻いていく。
「魔王の力、その目に焼き付けるが良いぞ」
そうして開放される、魔の極致。多重に展開された魔法陣から、幾条もの光がまるでそれぞれ意思を持つかの様にジルベルトへ向う。
光線の一本一本が、先程俺が全力で放った魔法より、強力な魔力を放っている。
人外へと姿を変えたジルベルトは、向かい来る光線に対し、大きく口を開けると激しく炎を噴き出す。それは、人の身を辞めたと言う事を、如実に表していた。
光線と炎、両者は衝突するかと思われたが、力量が違うのだろう。光は炎をものともせずに突き破り、ジルベルトの口中へ吸い込まれるかの様に飛び込んでいく。
そのまま口の中を突き破り、外へ飛び出した光は頭上へ集合、巨大な光球となり、術者の命令を待つように静止している。
「消えよ、忌まわしき者」
魔王が腕を振るい、光球へ命令をくだす。光球はその姿のまま、獲物めがけて落下。そしてジルベルトを呑み込み、地面まで到達した瞬間、激しい光柱となり天へ登っていった。
天井をも粉砕し空へ登っていく光の柱。それも徐々に細くなり、最後にはパァっと光の粒を残し消えてしまった。
跡には、ボロ布の様に全身余すところなく傷だらけのジルベルトが、人の姿で横たわっていた。
「ま、こんなところじゃろ」
余裕たっぷりな表情でジルベルトを見下ろす魔王。あの規模の魔法を使ったというのに、息一つ切らすことなく、平然としている。
「結局……何だったんだ、アレは……」
突然狂ったような言動を繰り返したジルベルト。最後には、もはや人外となっていた。明らかに異常な事態であることは確かだが、何が起こったのかサッパリ見当もつかない。
魔王は何か心当たりがあるようだったが……。
「あれはの――むっ?」
そう口を開き始めた時、ジルベルトの周りの空間が揺らぎ始める。それは次第に大きな揺らぎとなり、やがて二人の人影を写し出す。
「あれ?勇者様やられちゃってるよ?」
聞き覚えのある声に俺の感情がざわりと波打つのを感じる。あの、何処か人を小馬鹿にしたようなその声。
「アリ……シアっ!」
揺らぎの中心から現れたのは、俺の妹にして、宝玉の勇者。こいつもまた当時の姿そのままで、ジルベルトを見下ろしている。
こちらの声に気付いたのか、
「あれ? もしかしてお兄ちゃん? 久しぶり〜! 元気してた?」
そう、何事も無かったかのように。まるでたまたま街で会った様に、無邪気に笑いかけてきた。
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