第2話 かりんのSchool lifeスタートに候☆ 承
「キクさま、知り合いなんですか?」
周りの生徒がざわつき始めた。彼女はキクというのか。キクが慌てて弁解した。
「あ、いや、今日登校中にあったんだよ」
「なんだ、そうでしたか」
いや、登校中会ったのは後ろの席に座っている方の人限だ。その人限はというと、口を隠して一人で考え込んでいる。僕への対応を考えているのだろうか。その間に教員は前の黒板に、何か書かれたたくさんの紙を張り出していた。
「今日の授業はコクゴだ。各自クエストを選んでおくように。あと君達の席は窓際の一番後ろな」
そう言って教員は教室を去っていったのだが……嘘だろ、僕の隣がキクで菓凜の隣が朱桃である。そんなことは気にせず他の生徒達は黒板の前に集まってきて、紙に書いてある内容を確認しながら喋り始めた。転入生に興味はないのか。
「にいに、かりんこれがいい!」
いつの間にか菓凜は、花畑の絵が載った紙を一枚選んでいた。
「『お花畑の監視』……菓凜らしいな、僕も選ばないといけないのか……?」
「いや、それ一枚でいい」
キクが近づいてきた。
「クエストは基本四人一組で受ける。オレが組んでやるからお嬢様と旦那様は……」
「……」
「……だんなさま?」
菓凜がつぶらな瞳で首をかしげる。
「……」
「……僕のこと?」
コイツまだ、奴隷ごっこの時の主従関係の感覚が抜けてないな。実際に旦那様と呼ばれたことはなかったような気がするが。
「と、とにかく、オレと旦那とお嬢、もうあと一人を呼びに行くから、ついてこい!」
もしかして、これは罠なのか……? 一瞬そう思ったが、ここでバラされて袋叩きになるのは避けたい。ひとまず従っておくか。
「君のことはキクと呼べばいいのかな?」
「……オレのことはキクさまと呼べ」
「マジか」
思わず鼻で笑ってしまった。しかしその瞬間。
「え?」
教室の中が凍りついた。全員の目が僕に向けられ、その目全てが明らかに冷酷な、殺意のようなものに満ちていた。何だこれは。
「あ、いや、こいつら、田舎育ちでさ、オレのこと知らないみたいなんだよ、これから教育してやらないとなー、ハハハ……」
キクがまた慌てて弁解すると、教室の雰囲気は少しずつ戻っていった。
「さすがキクさまだな」
「心の広いお方だ」
一体何なんだ、これは。
「にいに……」
菓凜はすっかり怯えてしまっている。ちょっとかわいい……じゃなくて、キクのことだったな。キク……。きく……。菊……。そういえば『奴隷ごっこの神』がいるという話を、前に患者から聞いたことがある気がする。どこかの宗教団体の人限で、富裕層のところへ繰り返し奴隷ごっこに行きながら生還し、得た金を宗教団体の維持に充てているとか。富裕層はどうして何度もひっかかるのかと思っていたが、恐らく奴隷一人分の金くらい、富裕層にとっては騒ぐほどの額ではないのだろう。
「何やってんだ、早く来い!」
キクに促され、僕達は教室を後にした。
「あ、キクさまだ」
「キクさまー!」
廊下に出ても、キクは大人気だった。そういえばこの学校には、貴族が体験できる授業があると羅宗が言っていた。恐らくここに通う人限は、貴族のような富裕層ではない。だからこそ、富裕層を出し抜き生還を繰り返す彼女は、彼らにとって英雄のようなものなのかもしれない。校舎から出て人気がなくなってから、僕はキクに尋ねた。
「君、普通の人限じゃないね」
「オレは」
キクは振り返って答えた。
「仮の名を木崎縁梨。真の名を、菊真教団祭神、木崎菊」
朱桃「次回、どうなるすもものSchool life!」
咲玄「君の話は5話目か6話目くらいだから」
縁梨「更新頻度的には一ヶ月くらい放置ってことになるな」
朱桃「嘘でしょ?!」