第1話 ざくろのFatherが蒸発したヨ☆ 起
「僕達が今いるここは、大異世界帝国。人限種がほとんどを支配していて、僕達非人限は討伐される側の存在。僕は魔身依種の水澤咲玄で、人限種の死体を依代にして生きている種だ。そのおかげで、普通にしていれば魔身依種だとは気づかれない。だからここ、海の見える廃病院で父上の許しを得て闇医者をしてる。一応言っておくと、人限で言う所の父上とは違って、人限の死体に術を施して魔身依にすることで、僕を生み出してくれたという感じ。僕が依代にしている人限は、生前は詐欺師の仲間だったらしい。意識は死んで無くなってるけど、断片的になら、脳から記憶を辿るくらい魔身依種にもできるから。あとは・・・」
「ちょ、ちょっと待った!」
僕の前で患者用のベッドに座っていた人限の女子が話を遮った。
「一気にそんなに言われてもわかんねーって!」
男口調だが、見た感じ女子だと思う。
「じゃあ後でゆっくり読み直して」
「いや読み直すってなんだよ」
「にいに、お茶が入った!」
海の見える廃病院の診察室に、僕の義妹がお茶の入ったコップを大きなお盆に載せて入ってきた。ちなみに一階が水没しているので、巷では水没病院と言われているらしい。
「僕の義妹、菓凜」
「ちっこいな」
「にいにこの人誰?」
菓凜はちっこいと言われて少し不機嫌そうにお茶を配った。
「この人は今日父上が買ってきた奴隷」
「どれいさん?」
「うん。しかし災難だったね、こっちの世界に転生したと思ったら奴隷屋に捕まるなんて。それもこれも異世界転生誘導を推奨してる大異世界帝のせいだけど」
「あ、あぁ、でもあのままじゃ住むとこも食うもんもなかったから。奴隷でも、食と住が手に入っただけラッキーかな、でも……」
奴隷は着ている服を一瞥した。
「なんでエプロンだけなんだよ」
「似合ってるよ」
「そういうことじゃねーだろ!」
「父上の趣味だから、菓凜もいるし手は出せないから」
多分父上は僕の理性を試してるんじゃなかろうか。
「まぁいざとなったら、君何とかできるでしょ?」
「……え?」
「お茶にも全く手をつけてないし。君、最近流行りの奴隷ごっこの人なんじゃない?」
「……」
「どれいごっこ?」
患者用の椅子でくるくる回っていた菓凜がつぶらな瞳で尋ねる。
「奴隷代をもらうだけもらって、その後は脱走の繰り返し。それで稼いでる人達が最近いるって、患者の人限が言ってたんだ。奴隷は基本的に違法だから訴えるにも訴えられないらしいしね」
「……オレは異世界転生者だし」
自分のことをオレと言うのか。それともこれも演技の内か?
「いずれにしても、残念だけど僕達は魔身依種だった。油断したら君も魔身依にされる可能性は充分にあるからね」
「警告はするんだな、すぐに殺されるのかと思った」
「僕はあんまり殺しとか好きじゃないし」
「そんなもんなのか」
「そういえば、そろそろ生贄が来る時間だ」
「生贄?」
知っている話になると、飽きたのか菓凜はまた椅子に座ってくるくる回り始めた。
「時々人限が捧げてくるんだ、僕達を神か何かと勘違いしてるみたいで」
「魔身依ってバレてないか?」
「あ、いや捧げられる所は実家の古墳。それにバレても、僕達に頼るしかない患者はいっぱいいるから」
「にいに行こー」
菓凜が本格的に飽きてきた。少し目が回っているようだ。
「あぁ、君もついてきて」
「この格好で外に出んのか?」
奴隷はエプロンの裾をがんばって伸ばしている。
「瞬間移動の魔術を使うから。菓凜頼む」
「わかった!」
高エネルギーの魔術に関しては菓凜には勝てない。菓凜がもともと持っている魔力量がハンパじゃない。
「着いたよ!」
次の瞬間には、僕達は古墳の中の広間に続く通路にいた。
奴隷「次回、ざくろのFatherは蒸発するのか!」
菓凜「にいに、かりんもあの服着たい」
咲玄「菓凜はあんなことして異性を誘惑する大人になっちゃダメだよ」
奴隷「着させてるのお前の父ちゃんだからな!?」