決闘2
「じゃあ、決闘まで時間を潰すか」
「待って!」
アリスたちが教室から出て行こうとすると、誰かに呼び止められる。それは、先ほどの少女――ティリカであった。
「何か用?」
「どうして邪魔をしたの?」
ティリカは睨めつける。対するアリスは面倒くさそうにしている。
「邪魔って?」
「とぼけないで。さっきのことよ。あの程度、あたし一人でどうにかできたわよ」
(よく言う……。思いっきり反応が遅れていたじゃないか)
ティリカは胸を張りながら言うが、そんなティリカをアリスは冷ややかな視線で見下ろしていた。
「……仮に攻撃を対処できたとして、その後どうするつもりだ? あの場には、お前ら以外の生徒もいたんだ。それでも、やり合うのか? 関係ない奴らを巻き込む可能性もあるんだぞ? それとも、魔法を使わずに対処できたのか?」
「そ、それは……」
完全にアリスに言い負かされ、ティリカは気まずそうに下を向く。
「でもっ、私をかばったせいで決闘挑まれたじゃん!」
「そうだな」
アリスは素っ気なく答える。その様子にティリカは理解できなかったようだ。
「……どうして、かばったの?」
「さあ?」
「とぼけないで!」
ティリカの顔は真剣だった。
「はぁ、本当に理由なんてない。強いて言うなら体が勝手に動いたからか?」
(どうしてかばった、か。困っている人を助けたかったから……ふっ、偽善だな)
アリス自身、何故かばったか、答えは出ていた。しかし、口には出さない。自己満足だと理解しているからだ。
「そう……でも決闘は受けなかったらよかったじゃん!」
「喧嘩をふっかけてきたのは向こうだ。これで倒したら、あいつもなかなか立ち直れないだろう」
「……あなたの方がランク低いのに?」
「さっきも言ったが、たかが学生の中でのランクだ。そんな目先のことだけを気にしていたら、お前も落とすぞ?」
ランクを落とす、という意味ではない。アリスがいう落とすとは――
――いずれ戦うことになったら、真っ先に死ぬぞ?
アリスは直接、言葉には出していないが、ティリカはアリスの真剣な表情からランクを落とすという意味ではないことには気づいた。同時に怯えた表情もしたので、アリスが伝えたかったことの本質も理解したのだろう。
「まあ、気楽に見ていてくれよ。圧勝するから」
「……勝てるの?」
「言っただろう? 圧勝するって」
「一応、オーレット家の人間よ? 実力も1年の中でもトップだわ」
「大丈夫だ。学生ごときに俺は負けないさ」
「いや、あなたも学生なんだけど……」
「……」
ティリカのツッコミが正論過ぎて、アリスは言い返すことができなかった。
決闘の時間を迎え、アリスは決闘場に来ていた。
「よく逃げずに来たな」
決闘場にはすでにグレンが仁王立ちで待っていた。
「逃げる相手でもないだろう?」
「しかし、お前も不幸だなぁ。こんなに多くの人の前で負ける姿をさらすんだからな」
アリスの言葉を無視してグレンは話す。
グレンの言う通り、決闘場には多くの生徒が観戦に来ている。その生徒たちは1年生だけではなく、全学年の生徒が来ているようだ。
何故、これだけの生徒が決闘を観に来ているかというと、この学園には学年の中で順位を決めるランクと、もう1つ、学園の中で順位を決めるランキングがある。1年生はまだ知らないだろうが、このランキングこそが学園の生徒が日々、自分を磨いている理由の一つでもある。
ランクは所詮、学年の中での順位だ。実力が低い1年生や2年生でランク1位をとってもなんてことはない。しかも、ランクは筆記テストも影響されるので正しい実力が出ない。
しかし、ランキングは違う。学年関係なく順位を決める。文字通り、実力のみの順位だ。しかし、リンはランク1位だが学年最強であるのは間違いではない。正確には学年最強の一人である。リンの学年は優秀な人材が多く、リンともう一人の生徒がサウス学園最強の称号を持っている。
このランキングのシステムがあるので、2,3年生はオーレット家の長男で新たな障害になるであろうグレンを偵察に来ていた。1年生は興味本位のみである。
「まあ、最後の学園生活を楽しめよ?」
(なんでやめる前提なんだ……?)
グレンはアリスに負ける可能性など微塵にも持っていないようだ。
しばらくして、この決闘を担当する審判が決闘場にやって来る。
「ルール確認をする。魔法、武器の使用あり。勝利条件は相手が負けを認めるか、気を失うまで。なお、この空間は結界に覆われているため死ぬことはない。だから思う存分戦ってくれ」
(死なない空間か……。じゃあ、遠慮はいらないな)
アリスは審判の言葉を聞き、やる気満々である。対するグレンも思い切りやれると聞いて指を鳴らしている。
……先ほどアリスの不気味な笑みを見たリーゼロッテたちは、心なしか、どこか楽しそうに準備運動をしているアリスを見て顔を引きつらせていた。
「……覚悟はできたか?」
「それはこっちの台詞だ」
「ちっ、俺に決闘を挑んだこと、後悔させてやる」
(いや、挑んできたのは、お前の方だぞ……)
グレンの中ではアリスが決闘を挑んだことになっているようだった。
「両者、準備ができたようだな。それでは、決闘開始!」
ついにアリスVSグレン――決闘の火蓋が切られた。