祠の謎
「――リーゼロッテ、そろそろ帰るぞ」
剛毅の部屋を後にして、アリスはリーゼロッテが向かった玲奈の部屋に足を運んでいた。
「あっ、もう話が終わったんだ。じゃあ、玲奈。またね」
「ええ。あなたとの話は楽しかったわ。またいつでもいらしてね」
「うん!」
そう言って、玲奈の部屋から出て、アリスと一緒に宿へと帰って行った。
リーゼロッテとの帰り際――
「いつの間にか随分と仲良くなったじゃないか?」
アリスが部屋に入ったときには、二人とも打ち解けていて仲よさそうに話していた。それこそ年相応の少女たちのように。
「うん、意外と話が合ってね。思わず盛り上がっちゃった」
その時のことを思い出しているのだろうか、リーゼロッテは楽しそうに話している。
「それはよかった。ちなみに、どんな話をしてたんだ?」
アリスの問いにリーゼロッテは一瞬で顔を真っ赤にして――
「べ、別になんでもいいでしょ! それに乙女の話を聞くのは駄目だよ!」
「お、おう。なんかすまん……」
あまりにもリーゼロッテが必死なので、話の内容を聞くことは諦めた。そして、アリスは新たに学ぶ。
(女の子に話の内容を聞いてはいけない……)
こうして、常識を知らない一人の少年は成長の一歩を遂げるのであった。
「バイバイ、アリス!」
「おう」
リーゼロッテが泊まっている宿まで送り届け、アリスは自分も宿へ帰ろうとする――が、その前にやるべきことがある。
(……おい、聞こえるか?)
しばしの沈黙。そして――
――どうしたのだ、アリス?――
どこからともなく、脳内に声が響く。紛れもない。麒麟の声である。
アリスは以前、麒麟と仮契約していた。力こそ共有していないが、互いの距離に関係なくコンタクトが取れる。それによって麒麟とコンタクトが取れていた。
無事に麒麟と繋がれていたことに安堵し、アリスは今回の用件を述べていく。
(突然すまない。色々とやっかいなことができたんだ。本題に入る前にそちらの様子はどうだ?)
――こちらは其方らが来てから変わったことはない。無論、封印を解いた奴らも姿を見せていない――
少なくとも現在の時点でセントラルには行っていないと答える。つまり奴らが今、イーストにいる可能性が高くなったともいえる。
(そうか。では、本題に入る。精霊が封印されている祠はセントラルのみにあるのか?)
――いかにも。祠はすべての国にある。やっかいなことにな。そうでもしなければ、間に合わなかったのだ――
あの時は数が多かったという。その精霊たちを封印するにはセントラルだけでは収まらない。結果的に各地に封印されることとなったようだ。
――訊くが何故、そのようなことを?――
何もないのに話しかけることはない。麒麟の方は問題がなかったのだから、アリス側に問題があったと麒麟は判断する。
(実はな、祠が破壊されるという事件が起こっているんだ。そのことで気に障ったことがあったから訊いてみたんだ)
――そうか。で、その場所は?――
(イーストだ)
アリスの言葉に麒麟は黙り込む。それと同時に息を飲むのも雰囲気でわかる。
(どうした? 何か問題があったか?)
――いや、我の思い過ごしかもしれん――
気まずそうに話す麒麟からは、なんともいえない雰囲気が出ている。
(思い過ごしでもいい。何か疑問にあったことがあれば言ってくれ)
――ふむ、そうだな……――
麒麟は少し考えた末に――
――イーストに危険な精霊など封印されていないのだ――
(……はぁ? どういうことだ?)
アリスの予想ではサウスであったようにファフニールのような精霊が封印されていると踏んでいた。そして、再び暴れさそうと。
しかし、麒麟が言うには、人に害を為す精霊など封印されていない。仮に封印が解かれたとしても問題ないと。
――疑問に思うのも無理はない。そもそもイーストには7つの祠があるのだからな。何か意味あるものと思われるかもしれんが、そこまで重要なものではない。現に今は6つが破壊されているが、何も起こっていないだろう?――
麒麟の言う通りだ。今は何も問題は起こっていない。
(俺の思い過ごしなのか?)
このままいっても何も起きない可能性は十分にある。しかし――
(何かが引っかかるな……)
ファフニールの時もファフニール自体はただの陽動。今回も陽動なのであろうか。
(やはり他に目的が? なら、そちらに……いや、祠を破壊する可能性も十分にある……)
考えれば考えるほど、わからなくなっていく。一体、何が目的なのか。もしくは今、考えていることすべてが陽動なのか。
――とりあえず、我の言えることはここまでだ。イーストの祠自体には問題はないが、我も知らない何かがあるのかもしれぬ。問題ないと言っておきながら、おかしな話だが、油断はするな――
(ああ、わかっている……)
それだけ言うと、麒麟とのコンタクトをやめた。
アリスは重い足取りのまま、宿へと向かう。
(祠には何もない。そう言われても何かが引っかかる……)
長年、エデンに住んでいる麒麟の言うことだ。間違いではないのだろう。だが――
(一人で悩んでも仕方がないか)
今、考えても答えは出ないであろう。ならば、明日に自分の答えを預けるとしよう。
(さて、どうなるか……)




