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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第4章 忍び寄る敵
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侵入

 「本気で悪かっ――うっ!」


 「――――ッ!」


 放心状態から解放されたリーゼロッテ。最初に彼女が起こした行動はアリスの腹を全力で殴るということであった。

 まさか、アリスも殴られるとは思ってもいなかったので、大した構えも取っていない。そうなれば、流石のアリスであっても、ただでは済まない。アリスは運悪く急所に入ったリーゼロッテの打撃に苦痛の表情を表す。

 リーゼロッテも何か文句を言っているが、アリスの”サイレント”が続いているので、何を叫んでいるかはわからない。だが、今、”サイレント”を解くことが出来ないことだけはわかった。


 「リ、リーゼロッテ。もう少し落ち着いてくれ。じゃないと魔法も解けない」


 未だに残る腹の痛みを我慢しながら、リーゼロッテを説得する。


 「~~~~!」


 (あっ、これは駄目そうだな……)


 暴れるリーゼロッテを見てアリスは確信する。しばらくは無理そうだと。


 仕方なく、アリスはリーゼロッテが落ち着くまで待つのであった。






 「……落ち着いたか?」


 「…………」


 コクコクと無言で頷くリーゼロッテ。ようやく落ち着いたようであった。


 「今から魔法を解くから騒ぐなよ? ……よし、解いたぞ。もう声を出せ――ッ!?」


 魔法を解いた瞬間、リーゼロッテは一瞬で距離を詰め、アリスの襟元を掴み挙げる。


 「おい、なにするん――」


 言葉を続けようとしたが、アリスは続けることが出来なかった。


 ――何故なら、リーゼロッテの目からは涙が流れていたのだから――


 「……空を飛ぶなら飛ぶって、ちゃんと言ってよ。私、空を飛ぶの初めてだったんだから……」


 うつむいて声を出すのを我慢するリーゼロッテ。その姿を見て――


 (そうか。普通は自分の属性以外の魔法を使えないことになっているんだよな……)


 冷静に考えれば、わかることであった。アリスにとっては当たり前のことでも、他の人は違うのだ。風属性を扱えないリーゼロッテからしてみれば、空を飛ぶことは相当怖かったに違いない。


 「悪かった。今回は俺の配慮が足りなかった。ごめん」


 リーゼロッテに対抗することなく、そのままの体勢で謝る。


 「うぅ……グスッ。もういいよ。アリスも悪気があったわけじゃないし……それよりも、早く行こ?」


 アリスから手を放し、涙をぬぐうリーゼロッテ。


 「ああ。だが、もう少し落ち着いてからでいい」


 「いや、私はもう大丈夫だから」


 「いや、また空を飛ぶから」


 「…………え?」


 リーゼロッテは耳を疑う。


 「だから、また空を……」


 「大丈夫。ちゃんと聞こえてるから」


 どうやら聞き間違えでなかったらしい。また、先程の恐怖を味わうのか――


 (もう、いやぁ……)


 ここに来て、リーゼロッテは自分が選択を間違えたことに気づく。

 

 アリスの完璧な隠蔽があったとしても、補えないものなど数多くある。

 互いに学生とはいえ、王室育ちのリーゼロッテと王族一の戦闘員”エルフリーデ”のアリス。差があるのは当然だ。アリスがリーゼロッテをサポートしたとしても、空を飛んだ時みたいにリーゼロッテの精神が持たない。


 「まぁ、さっきよりかは低いから大丈夫だろう」


 「……ちなみにどれくらい?」


 もしかしたら、今度は大丈夫かもしれな――


 「ざっと、20メートルくらいか」


 アリスは王宮の一室、窓が開いている部屋を見上げながら答える。


 (終わった……)


 さらなる絶望がリーゼロッテを襲う。


 この時、リーゼロッテは諦めが肝心だと思ったのであった……






 ここまでが、王宮に侵入するまでの経緯である。


 (はぁ、来るんじゃなかった……)


 もし、城壁を越えたときに引き返していたら……そんな考えがよぎる。しかし、もう過ぎてしまったことだ。


 (流石に壁を越えるときほどの恐怖はないけど、違う意味で恐怖してるよ……)


 すれ違うとき――見つかればどうなるか。これほど心臓に悪いこともなかなかないであろう。


 (それに何度か死にかけたし……笑い事じゃないよ……)


 奥に向かうにつれ、王宮の警備は厳しくなっていく。その中でもたまに腕の立つ騎士がいる。姿や魔力を消していても、気配で察知されることが何度かあった。

 もちろん、魔力を持たない人間など存在しないので確信はないが、念のために剣を振るってくる。それもリーゼロッテを正確に狙って。すべてアリスが対処して事なきを得ているが……


 (でも、アリスってすごいね。同じ歳なのに私と身のこなしの仕方が全然違う……)


 リーゼロッテも努力の末、学園でも優秀な成績を残している。だが、目の前の少年を見ていると、やっぱり違うんだなと思ってしまう。アリスが例外だとしても楓もアリスと同等に戦っていた。それもふまえると、自分の努力が足りないのではとも思ってしまった。


 リーゼロッテがそんなことを考えていると突然、アリスの表情が変わる。


 「……クロノスたちから連絡が入った。剛毅の部屋はこのまま進めばいいらしい」


 こっそりとアリスが伝える。


 (全く、面倒くさいことをしてくれたものだな。あとできっちりと理由を聞かせてもらおうではないか)


 アリスも表情には出していないが、リーゼロッテが怪我しそうになった時はかなり焦っていたリーゼロッテへの攻撃はすべて致命傷ばかりだったのだから。


 (もし、くだらない理由であったのならば、この手で……)


 何かイーストの王に対して、いや、人として考えてはいけないことを考えているアリス。それほど、アリスの精神は削られていた。


 しばらく歩くと、目の前には明らかに他の部屋とは造りが違う部屋を見つけた。


 (クロノスたちも戻ってきたし、そろそろか……中には人の気配が一人。恐らく剛毅で間違いないだろう。周りに誰もいない。もう、魔法を解いてもいいか)


 アリスは”ソウルイータ-”と”インビジブル”を解く。リーゼロッテも続いて”インビジブル”を解いた。


 瞬間、部屋の中からの気配が変わる。


 (急に気配が現れたらそうなるか。流石に王というだけあるな)


 一瞬で気配を察知する。並大抵のことではない。それだけで剛毅にかなりの実力があると判断できる。


 「ここで間違いなさそうだ。準備はいいか?」


 「うん、大丈夫……」


 自信なさげだが、ここまで来たら引き返すわけにはいかない。リーゼロッテは入ることを決心する。


 「わかった。では、入るか」


 アリスは他よりも豪華な扉に手をかける。


 (恐らく攻撃はしてこないだろうが一応、”身体強化フィジカルアビリティ”をかけておくか)


 無詠唱で魔法を使う。常人では出来ないことだ。リーゼロッテもこれを使えない限り、アリスに追いつくことは出来ない。


 魔法をかけ終え、アリスは扉を開く。そして、中から声が響く――


 「――遅かったではないか」

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