表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊殺しの学園生活  作者: はる
第4章 忍び寄る敵
56/73

勝利からの敗北

 満月が出ている夜の街をアリスは歩いていた。しかし、アリスの表情は険しいものであった。


 (行かなければならないか……)


 アリスの額に汗がにじみ出してくる。あの数々の強敵と対峙してきたアリスが、だ。そのアリスが何かに怯え、歩を進めている。


 (……くっ、もう少しか……!)


 行きたくない。だが、アリスには進むしか選択肢がない。ここで立ち止まれば、取り返しのつかないことになる。


 (……ここか……)


 ついにアリスはたどり着いた。アリスの視界にはある建物が映っている。


 アリスは建物の扉に手をかけるが、動きを止めてしまう。本能が危険だと知らせてくるのだ。


 (だが、ここでやらなければ、すべてが終わる――!)


 ――自分は”エルフリーデ”だ。数々の強敵を倒してきたんだ――アリスは自分を鼓舞する。

 

 意を決し、アリスは扉を勢いよく引いた――






 「「「いらっしゃいませ!」」」


 建物に入った瞬間、アリスを迎え入れる声が建物の中に響く。


 建物の名前は『カフェテリア』――イーストの喫茶店であり、ドリンクはもちろん、デザートも充実しており、女性に大変人気がある店である。

 店の内装は自然をモチーフにしており、女性が好みそうな明るいものであった。


 そんな明るい雰囲気とは裏腹にアリスの表情は険しいままだった。

 アリスの表情が険しい理由――それは、この先にある。このまま進めば必ず遭遇する。


 (大丈夫だ。深呼吸、深呼吸。任務と同じものだと思えばいい……)

 

 アリスは何度も自分に言い聞かせる。しかし、それは逆効果で不安を増すばかりだ。


 そうしている間にも、アリスは目標へと近づいている。そしてアリスは見つけてしまった。


 (うっ! いた・・……)


 アリスの視界に映るは、店の中でも目立つ金色の髪――そう、リーゼロッテ・フォン・エルフリーデのものであった。


 アリスが怯えているのは単純な理由だった。

 アリスは楓と話したいことがあるとリーゼロッテを先に、この店で待つように促した。そこまではよかった。思いのほか楓と話し込んでしまい、かなりの時間が経っていた。その時間は約1時間……

 いくら楓と話があるといっても限度がある。今回はその限度を超えてしまっている。

 アリスはリーゼロッテに対して申し訳なさを感じるとともに、これから起こることに怯えているのだ。


 アリスはリーゼロッテのすぐ後ろまでやって来る。


 (やってしまったことは仕方ない。素直に謝るしかない)


 「リーゼ――」


 アリスは声をかけようとしたところで動きを止めてしまう。


 アリスの目に映るは、リーゼロッテの目の前におかれた大量の皿。皿の量の多さから、どれだけの時間、リーゼロッテを待たせてしまったか推測できる。

 今もリーゼロッテは黙々とデザートを食べている。まるでやけ食いだ。


 (……どうするべきだ?)


 声をかけるべきだとはわかっている。しかし、体が思うように動かない。戦闘で得た経験から本能が危険だと何度も警告を鳴らしているのだ。


 しかし、アリスが考えていることは意味がない。何故なら未来はすでに決まっているのだから――


 「……アリス、遅かったね。もう話は終わったの? それで、あの子とこんな時間まで何を話してたの?」


 アリスの声に気づいたリーゼロッテはゆっくりと後ろに振り向く。


 リーゼロッテの声はいつもより一段と低く、美しい碧眼には光が見えない。以前の楓のように生気がないわけではない。むしろ、こちらの生気が奪われるのではないか。

 それだけリーゼロッテが怒っていることにアリスは気づいてしまった。


 「リーゼロッテ、今回のことだが――」


 「ふふ、いいよ。全然・・、気にしてないから。アリスも任務で大変だったもんね」


 気にしていないと言っているが、あえて強調していることから、かなり根に持っているようだ。


 (どうする!? かなり怒っている! リーゼロッテの機嫌を取るには? その前に女の子に対して機嫌の取り方がわからない!)


 戦いにおいては先天的な直感と冷静な判断力で多くの難関を突破してきた。しかし、女の子の機嫌を取るという前代未聞の事態にアリスは戸惑うしかない。


 「……はぁ、冗談だよ、アリス。別に私はそんなに怒ってないから」


 慌てるアリスを見ながら、リーゼロッテは毒気が抜かれたように告げる。


 「アリスがあの子を助けたかったのは知ってたし、あの子もアリスにお礼も言いたかったことぐらいわかってるよ。だから、そんなに気にしないで」


 リーゼロッテはニコリと叱られた子供を慰めるような笑顔をアリスに向ける。


 (やばい、リーゼロッテがいい子すぎる……)


 明らかにアリスに非があるのに、リーゼロッテは特に攻めることなくアリスを許した。今のアリスにはリーゼロッテが女神のように見えていた。


 しかし、リーゼロッテもただでは済まさない。


 「その代わり、今度はサウスで遊びに行こうね。二人で・・・


 「え、流石に二人だけは――」


 「お父様に一人だけにされたこと言っちゃおっか――」


 「ぜひ行かせてもらいます」


 二人きりはまずいだろうとアリスは答えようとしたが、ここでアルベルトを出されたら否定することは出来ない。もしアルベルトにリーゼロッテを一人にしたことがバレたら――


 (間違いなく殺される!)


 親バカのアルベルトならやりかねない。アリスは知っている。リーゼロッテに手を出そうとした人間の末路を――


 「ふふ、よかった!」


 アリスと一緒に遊びに行くことを約束したリーゼロッテは満面の笑みを浮かべ、残りのデザートを食べていく。


 (やはり陛下の娘か。してやられたな)


 しかし、最悪の結果にならずに済んでよかったとアリスは思う。


 (まぁ、結果的によかったのかもな……)


 嬉しそうにデザートを頬張るリーゼロッテを見て、アリスは微笑ましく思うのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ