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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第3章 交流戦
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決着

 (さて、と。このままでは埒が明かないな……)


 魔法を放ちながらアリスは考える。自分は消費の少ない魔法を使っているが、楓はほぼ魔法を使わずにアリスの魔法を対処している。いくら消費が少ないと言っても、相手も魔法を使わなければ魔力消費量が多いのと対して変わらない。


 (ならどうする? 接近戦を持ち込むか? だが、リーチの差がある分、こちらの方が不利だ。かといって魔法を使い続けるのも避けたい。どうするべきか……)


 アリスが考えている間もどんどん魔力が消費されていく。このままでは、アリスの魔力量が尽きるのは時間の問題だろう。


 (……アレ(・・)を使うか? 成功すれば勝ちに近づけるが、そのためには楓のレンジに入らなければならない……)


 アリスは作戦を考えたが、非常にリスクが高い。今までの戦いで楓は接近戦を得意としている。アリスも接近戦の方が得意だが、武器の相性もあって迂闊に楓に近づくことが出来ない。せめて、普段の双剣の戦い方であったのならば話は違ってくるのだが。


 (どちらにしろ、チャンスは一回だ。もし負けそうになったら……王級精霊魔法を使うし……)


 アリスらしからぬ、負けを感じさせるような考えだ。学生という全力を出せない状態での戦いは厳しかった。


 (やるならここしかない!)


 あくまで自然に、楓に悟られないようにアリスは一瞬、魔法を使うのをやめてわざと隙を作る。


 (楓の実力だったら見逃すはずがない……ッ! よし、来た!)


 アリスの思惑通り、楓はその隙を見逃すことなく、アリスとの距離を詰めてきた。そして、アリスの攻撃範囲外から攻撃を仕掛ける。

 アリスは〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉で楓の攻撃を受け流し、そのまま楓の懐に潜り込もうとする。楓もアリスの動きを読み、体を反らしてアリスの攻撃をやり過ごす。






 その後は、誰もが目を見開くほどの高度な剣激戦であった。楓はアリスを不利な状況に立たせるように立ち回る。アリスも出来るだけ不利な状態が続かないように、あえて自分から不利な状況を作り、時折、楓の懐に潜り込もうとする。そのような駆け引きが何度も行われる。観客たちが見ればすごい戦いとしか思っていないだろうが、戦いに職を置いている者、楓の事情を知っている王族関係の者たちからすれば、いかにアリスたちが繊細な駆け引きをしているか嫌でも理解できてしまう。


 その時のある一室では……


 「おい! ”炎帝”相手に引けを取らない生徒は何者なのだ!?」

 

 この国の宰相が得体の知れないものを見たとばかりに声を上げ、その場から立ち上がる。その言葉はこの場にいる全員の代弁であった。ただ、一人を除いて。


 (”炎帝”相手に同格……彼が”エルフリーデ”なのだろう。しかし、アルベルトから聞いていたのとは少し違うな。もしかして本気を出していないのか? そんなことはどうでもいいか)


 不思議そうに、そして面白い戦いが見れると、その男は無意識に微笑む。


 「陛下・・! 何を笑っておられるのですか!? これは一大事なのですよ!」


 そう、笑みをこぼしたこの男こそがこの国の王、神無月剛毅ゴウキであった。


 剛毅は自分の立派に生やした髭を触りながら――


 「心配する必要はない。彼は恐らく――」






 剣激戦が始まってから数分が経った。そろそろ互いに魔力と体力がつき始めてきた頃だ。使える魔法もあと一回が限界だろう。


 (くっ! 不利な状況のはずなのに、これだけ戦えるなんて!)


 自分から持ち込んだはずの接近戦だが、アリスは楓と互角に戦っている。


 「けど、そろそろアリスも限界でしょ? 太刀筋がさっきより悪くなってるよ?」


 「それはご親切にどうも」


 嫌みったらしくアリスは答える。慣れない武器、防御中心になる戦いでアリスの体力も限界に近づいていた。


 「私もこんな戦いが出来るとは思わなかったよ。アリスと戦えてよかったと思ってる――でも、やっぱり私には勝てなかったね」


 最後は悲しそうに楓は呟く。やはり心のどこかでは自分を倒してくれると期待していたのであろう。彼なら自分を救ってくれる。しかし、結果は以前と同じく――


 「何を言っている? まだ決闘は終わっていないぞ」


 「無駄だよ。アリスもよくやったけど、私の方が未だに有利。アリスに勝ち目はないよ」


 結果は恐らく変わらない。今の状況でアリスの勝利は難しいものであった。しかし、アリスはニヤリと口角を上げ――


 「その油断が命取りにならないといいがな――」


 「なっ――!?」


 突然、アリスがその場から消える――いや、”身体強化フィジカルアビリティ”で限界まで能力を上げたのだ。アリスは楓に向かって〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉を水平に振るう。


 (そのまま防いだら勢いで突破される! かといって避けることも出来ない。こうなったら下がりながら攻撃を受け止めるしかない――)


 楓は全力で後ろに跳び、アリスの攻撃を最小限に抑えようとする。それがアリスの狙いだったとは知らずに。


 「……勝負ありだな。”止まれ”!」


 「……ッ!?」


 突如、楓の足下から四本の黒い鎖が現れる。そして楓の両手両足に絡みつき捕縛する。


 これこそがアリスの作戦であった。わざわざ不利な接近戦に持ち込み、自分の体力が限界まで粘って勝負を決めにかかる。これには不利な接近戦を持ち込むのと一度しか使えないという弱点がある。今、楓を捕らえることが出来たが、動きを抑えることが出来るのも少しだけだろう。その前に決着を着けなければならない。


 再び〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉を構え、楓にとどめを刺そうとする。しかし、楓もまだ諦めていない。


 (こんな魔法があるなんて! でも、これくらいなら解ける! 少しでも時間を稼げば――)


 「”フレイムウォール”!」


 楓は自分を守るように魔法を展開する。もう魔法を使えないアリスにとって突破することは困難であった。


 「――残念だったな」


 「……ッ!」


 アリスは強引に”フレイムウォール”の中を突破する。体に火傷を負うが、気にすることはなく楓に向かう。


 「俺も久々にいい戦いが出来た。お前は強い。だがな――俺が負けるということはない」


 そして楓に〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉を振り下ろした――






 楓は体の中に何かが通った感触を覚えた。言わなくてもわかる。アリスの〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉だ。結界のおかげで死ぬことはないが、ダメージはある。アリスの攻撃で意識がもうろうとする中、楓は――


 (負けちゃったか。油断したつもりはなかったけどなぁ……)


 後悔はない。自分が出来ることをやったのだから。


 (でも楽しかったな……)


 久々に感じた感情。長らく忘れていた感情。それをアリスは思い出させてくれた。


 (君に会えてよかったよ……)


 そのまま楓は意識を手放した。

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