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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第3章 交流戦
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プロローグ

 夜、光り輝くイーストの街中。しかし、そんな明るい街の様子とは変わって、漆黒の闇に包まれるイーストの裏通り――


 「グハァッ! ……うぅ」


 一人の男が腹を蹴られて、苦しそうに地面にうずくまっていた。その様子を、一人の少女がただ、無表情に見下ろす。


 「……くっ! お前は何者だ!」


 苦しそうに、だが聞かずにはいられないと男は叫ぶ。そんな男を少女はあざ笑うかのように見下す。


 「そんなことはどうでもいいよ。どうせあなたはここで終わりなんだから」


 少女は左手に握る真紅に燃え上がる刀を振りかぶる。


 「……ッ! い、いや! やめてくれ!」


 男が命乞いをするも、少女の考えは変わらない。だってこれは任務・・なのだから――


 「さようなら」


 「嫌だ! 俺はこんなところで――」


 男の言葉を遮るかのように、少女は振りかぶった刀を振り下ろす。男の言葉が途切れたと同時に、辺りには赤い液体が飛び散った。

 

 事を終えると少女は真紅に燃え上がる刀を手放す。すると、少女が握っていたときよりも激しく燃え上がり、闇夜へと消えていく。


 「……これもハズレか」


 「……こっちは終わった。そっちはどうだ、”炎帝・・”?」


 少女の背後から、少女と同じくらいであろう年齢の少年が歩いてくる。しかし、その少年は年齢には似合わない全身血だらけ・・・・・・の姿であった。


 「こっちも終わったよ、祐斗・・


 少女は祐斗ヒロトと呼んだ少年の方に顔を向け、笑顔を見せる。先ほどの人を殺したことはなかったかのように。


 「”炎帝”、今は任務中だ。俺のことは”破――」


 「ああーー! はいはい! もうっ、祐斗は頭が固いんだから」


 プクゥと”炎帝”はほっぺを膨らませる。祐斗も諦めたのか、「だから俺のことは……」と言いかけて、口に出すのをやめた。

 話を戻すかのように祐斗は”炎帝”に問う。


 「それで、そいつはどうだった?」


 「ハズレよ、ハズレ。前もハズレ! その前もハズレ! 全く、正しい情報ぐらい持ってきて欲しいよ!」


 ”炎帝”は苛立ったかのように、壁を蹴り飛ばす。案の定、痛そうにしていたが。祐斗は考えたらわかるだろうと馬鹿にするような視線を向けていた。


 「何をしているんだ……まあ、正しい情報がないのも事実だ。それとつい最近、サウスから”不死鳥”と”女神”が来たらしい」


 「つぅ……えっ? “不死鳥”が? なんでまた……」


 「情報が欲しいとのことだ。だが、その時にファフニールがサウスに現れたらしい――」


 「ファフニール!? なんでそんなのが!?」


 祐斗の言葉を遮って、”炎帝”は声を上げる。


 「誰かが封印を解いたのだろうな……封印を解いたとなると、それ相応の実力を持っていそうだが……」


 「それで、どうなったの?」


 「もちろん、倒されたさ。被害もなかったらしい」


 大きな被害が出ていなかったことに”炎帝”は安心する。


 「そっか……で、誰が倒したの? ”不死鳥”はいなかったんだよね? それじゃ、”朱雀”?」


 ”炎帝”が首をかしげながら候補を出していくが、祐斗は首を横に振って否定する。


 「どうやら、”精霊殺し”という奴が倒したそうだ」


 「”精霊殺し”?」


 聞き覚えのない名前に”炎帝”は腕を組みながら、再び首をかしげる。なんとかして思い出そうとしているが、結局はそんな人はいなかったという結論に達した。


 「”精霊殺し”はサウスでもトップシークレットの存在だったそうだ。流石にファフニールを倒したとなると、名前を出すしかなかったのだろうな。しかし、そいつについての情報は一切不明だ。唯一わかったことと言えば、そいつの年齢が俺たちと変わらないらしい」


 祐斗は自分の知っている情報を淡々と告げていく。


 「えっ!? っていうことは、”精霊殺し”も子供なの? ……最近の大人、なんか頼りなくない?」


 「……それは仕方がない。最上位に位置する精霊たちに選ばれてしまったのだからな」


 ”炎帝”の言葉はもっともである。祐斗も理解しているが、これは仕方がないと諦めている。


 「”精霊殺し”が学生かもってことかぁ……あっ! いいこと思いついた!」


 名案を思いついたとばかりに、”炎帝”は手を叩く。


 「今度のサウスとの交流戦、”精霊殺し”にも出てもらおうよ!」


 「……ちなみにどうしてだ?」


 自信満々に腕を組んでいる”炎帝”を、祐斗は訝しそうに見る。


 「ふふーん、それはね……私が戦いたいからだよ!」


 「却下だ、馬鹿野郎!」


 「馬鹿って酷い! それに私、女の子なのに……」


 ”炎帝”が悲しそうに座り込んでいるが、そんなところではない。


 「そんなことはどうでもいい! お前、何を言っているのかわかっているのか!? 相手は”エルフリーデ”の人間なんだ! 国を守ることが仕事なんだぞ! そんな奴がのこのこ国外に出てもいいと思っているのか!?」


 普段、冷静な祐斗の性格に似合わず、この時だけは叫んでいた。


 しかし、負けずと――


 「わかってるよ! それぐらい……じゃあ、私がサウスに……」

 

 「わかってないじゃないかっ!」


 「うるさいな祐斗。近所迷惑だよ」


 「誰のせいだと思っている……」


 怒りを我慢するため、祐斗は拳を握りしめながら、うつむいている。


 「じゃあ、任務の手伝いをしてもらうって名目で来てもらえば? それだったら文句はないでしょ?」


 「うーん、しかしだな……」


 祐斗は困ったような表情をする。国に関わることは当然、祐斗たち個人で決められることではないのだ。


 「じゃあ、お願いね!」


 「おい! どこに行くんだ!?」


 「散歩!」


 そう言うと、”炎帝”は闇夜へと消えていった。






 祐斗と別れた”炎帝”は屋根の上で寝そべっていた。


 (”精霊殺し”かぁ……どんな子なんだろ? 男の子? 女の子? ふふ、どっちでも楽しみだなぁ)


 まだ、戦えるとは決まっていないのだが、”炎帝”の中ではすでに決定事項のようだ。


 (君なら、私を倒せるかな……)


 ”炎帝”は夜空に右手をかざす。今宵は月が見えない新月であった。


 「楽しみにしてるよ、”精霊殺し”……」


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