エピローグ
「――これが私たちがセントラルで得た情報です」
「うむ……」
アリスの報告を聞いて頭を悩ますアルベルト。
「……犯人はノースの者ではなくイーストの者の可能性が高いと?」
「正確にはイースト出身の者ではないかと」
「そうか。では一応イーストの王に伝えるか」
アルベルトは今後の方針をイーストの王と話して決めるようだ。
「それと、封印精霊については麒麟とのコンタクトを取っておるのだな?」
「はっ!」
アリスは頭を下げながら答える。
アリスは麒麟と別れる前、仮の契約をしていた。これは、契約をして力を使えるというわけではなく、お互いに意思を通達できるというものだ。不審な者についてわかったことがあれば連絡するということになっている。
もっとも、この契約にクロノスたちは……
「アリスは渡さないんだから!」
「……浮気」
正直、メーティスの言葉には傷ついた。これ程、重みのある言葉をアリスは知らない。
長い時間、クロノスたちを説得して、ようやく認めてもらうことができた。
「……ファフニールの件に関しては情報はなかったが、セントラルに麒麟がいることが確認できたことと封印精霊のことで十分だ。それとよく無事だった。よくやった」
「「「はっ!」」」
アリスたちはアルベルトに敬礼し、そのまま王室から退出した。
アルベルトはアリスたちが退出したことを確認すると、後ろに控えていたガイアに話しかける。
「……ガイア。しばらくすると学園で交流戦がある。代表メンバーはイーストに向かうことになっている。おそらく1年ではリーゼが選ばれるだろう。アリスも選ばれると思うが、万一のことに備えて、お前も護衛に付いてくれ」
「御意に」
「……それでも、二人の人間がセントラルの精霊を圧倒したのか。にわかには信じられないな」
アルベルトは先ほどの報告を思い出しながら、ため息をつく。
「だが、アリスもそう言っている。間違いではないだろう」
ガイアが淡々と答える。アルベルトも疑ってはいなかったが、心のどこかで何かの間違いであってほしいと思っていた。
「……こうなった以上、仕方ない。他の国にも応援を頼むか」
「そいつらとどこかの国が組んでいる可能性がある。くれぐれも気をつけろよ」
「わかっている。とりあえず、イーストと連絡を取る。そして、いずれはすべての国を集めて会議をするつもりだ」
そう言うと、アルベルトはその場を後にした。
「……確かに、杞憂であってほしいがな」
アルベルトが退出するのを確認すると、ガイアもその場から消えた。
「……おい、何をしている? 早く来い」
同時刻、闇夜の中を二人の人が歩いていた。その二人の特徴は暗闇でもわかる黒髪黒眼を持っていることだった。
「ファフニールは倒されたか。サウスが一番落としやすいと思ったがそうでもなかったな」
男は少し何かを期待するように言う。対する少女はただ無言で男についていくだけだった。
「さすがにあいつの封印は解けなかったか。なかなか厳重なことだ。お前も麒麟の相手じゃ物足りなかったんじゃないか?」
男は少女に問いかけるが、少女は未だに無言を貫いたままだった。
「ちっ、無視かよ。まあいい。任務はしっかりしろよ、”精霊殺し”」
「……わかってる」
男は少しむかついた様子だったが、任務の方が重要なようで大して気にしていなかった。
同時にこの時初めて、少女が口を開いた。その声音の様子は何事も興味がないという感じだった。
「わかっているならいいさ。次の任務は――」
言い終えると、男は闇夜に消えていった。
その場に一人、取り残された少女は夜空に手を上げてつぶやいた。
「”精霊殺し”……。その呼び名は私だけでいい……」
「おいっ! そこにいるのは誰だ!」
突然、警備員の男が声を上げる。しかし、警備員の男が駆けつけた先には誰もいなかった。
「あれ、おかしいな。誰かいたと――」
警備員の男は最後まで言い終えることはできなかった。何故なら男の首から上は何もなかったのだから。
頭を失った体は地面に倒れ込む。その後ろには先ほどの少女が警備員の男の頭を掴み、血だらけで立っていた。
「まあ、精霊以外も殺しているけど。でも、彼も人間を殺しているかな?」
少女は右手で掴んでいた警備員の男の頭を投げ捨てると、男と同じように闇の中へ消えていった




