封印の地
翌日、麒麟の案内によりアリスたちは以前、ファフニールが封印されていた場所にたどり着いた。そこは今までのセントラルの様子とは違い、かなり荒れていた。
”ここが以前、封印が解かれた場所だ”
麒麟が言う通り、そこにはファフニールが封印されていたであろう痕跡があった。
「確かに、封印が解かれた跡があるわね……。それ以外に手がかりは……あるかしら?」
「見た感じ、ないようだけど……」
「うーん。お手上げかぁ……。ねえ麒麟? 二人組の特徴はどんな感じだった?」
”うむ、二人とも其方と同じ黒髪黒眼であったな。歳は女が其方らと同じ、男はその女よりも歳が上ぐらいだな。そして、女が契約していた精霊は闇属性であった”
「ふーん。私たちと同じ年齢ぐらい、ね」
(二人とも黒髪黒眼か。なら、イーストから探るのが得策か……)
麒麟の話からアリスは犯人は黒髪黒眼の多いイースト出身者だと推測した。しかし、犯人がイースト出身というだけで、イーストに従っているとは限らない。むしろ違う組織に所属していると考えてもおかしくない。いや、そちらの方が可能性は高いだろう。
「あれはなんですか?」
「ん? どれ?」
「#祠じゃない?」
シェリルの質問に答えたのはアレクシアだった。シェリルが指を指している方に視線を向けると、確かに祠があった。
「確かに祠ね……。なんのために作られたのかしら?」
”あれは過去の戦争で多くの命を奪った精霊が封印されている場所だ”
アリスの問いに麒麟は昔の事を思い出しながら語る。
”その精霊は人間も精霊も関係なしに殺していった。我の仲間も其奴によって滅ぼされた。其奴一人でこの世界を滅ぼしかけたのだ。しかし、其奴を封印した者たちがいるのだ。初めて人間と精霊が手を組み、封印に成功することができたのだ”
アリスたちは麒麟の話を無言で聞いていた。しかし、次の一言で驚く。
”その時、人間と契約したのが各属性の頂点に君臨する精霊――今では王級精霊と呼ばれる者たちだ”
「「「……っ!」」」
人間と初めて契約した精霊、それが王級精霊だというのだ。
(お前ら、世界を救ったのか?)
(さあ?)
(ん? わからない?)
クロノスもメーティスも自分たちが世界を救ったことを知らないようだった。アリスは答えを求めるようにこちらを向いているアレクシアたちに首を横に振る。
(どういうことだ……?)
”……その精霊と契約者は、その時に死んだのだ”
麒麟はアリスの考えている事を先読みして答える。
”王級精霊とその契約者たちは封印の際に自身の命を使って封印したのだ。そして、其奴らの魂は新たなる精霊の王となる者に受け継がれたのだ。まあ、其方の反応からして力は受け継がれているが、記憶は受け継がれていないようだがな”
麒麟の言葉にアリスは黙り込む。自身が知っている内容とは、かなり異なっていたからだ。
(……先代の王級精霊が転生されたのはどうでもいい。メーティスたちはメーティスたちだ。今はそれより……)
「……ここに封印されている精霊は?」
ここで一番重要なのは封印されている精霊のことだ。先代の王級精霊と契約者たちが死力を尽くして封印した精霊だ。それに、ファフニールの封印を解いた者が破壊目的なら、ここの封印も解いていたであろう。しかし、解いていないということは、それだけ強力な封印だとわかる。
そんな精霊が解き放たれればファフニールの時とは比べものにならないくらいの被害が出ることが予想できた。だから、なんとしてでも、その精霊の情報は知っておきたかった。
”……その精霊の名はネメシス。かつて”死欲”と恐れられた精霊だ”
「ネメシス……」
”呼び名の通り、死を欲する精霊だ。奴は強欲に死を求めていた。封印が解かれれば、再び奴は人間と精霊を殺しにかかるだろう”
過去の戦争を経験した麒麟の言葉にアリスは何も言葉を発することができなかった。




