アリスの実力
「……おいで、二人とも」
アリスがそう告げた瞬間、アリスの手には二本の剣が握られた。一本は漆黒の剣。もう一本は純白の剣。つまりは精霊武装だ。
「「ええっ!?」」
リーゼロッテたちは先ほどの出来事に驚愕の声を漏らす。
通常、魔法とは魔法式を言葉にすることで発動することができる。それは精霊武装展開も例外ではない。しかし、目の前の少女は魔法式を唱えずに、ただ「おいで」と呟いただけ。それがどれほど異常なことか。訓練をすれば魔法を自分の言葉で――詠唱破棄として行うことができるが、学生ごときができる芸当ではなかった。それを目の前の年齢が自分たちと変わらないであろう少女がなんの躊躇もなく使ったのである。さらに、リーゼロッテはアリスの正体を知っているだけに、驚きがリンよりも大きかった。
さらに、リンは――
「た、多重契約者!?」
アリスが持つ二本の精霊武装の色――正確には属性が違うことに気づいた。詠唱破棄ができる上に多重契約者。リンは目の前の出来事に理解が追いつかなかった。
そんなリンたちの反応を無視して、アリスは自身の精霊武装――
〈闇を貫く王剣〉と〈光を滅する王剣〉を握りしめ、ファフニールに対して構えを取る。ファフニールもアリスが戦闘態勢に入ったのがわかったのか一層、警戒心を高める。
先に攻撃を仕掛けたのはファフニールだ。ファフニールは力をため込み、口から炎のブレスを吐く。
「……ッ! 逃げてっ!」
炎のブレスの威力を見てリンは思わず声を上げる。正直、避けようと思えば避けられるのだが、アリスが避ければ、リンは自分にブレスが当たることを理解していないのだろうか。ただ、アリスの心配をしただけなのだろうが。
迫り来る炎のブレスを前に、アリスは冷静に右手に握る〈闇を貫く王剣〉に魔力を流し込む。
「”ソウルイーター”!」
ため込んだ魔力を一気に解放し、炎のブレスめがけて〈闇を貫く王剣〉を振るう。瞬間、〈闇を貫く王剣〉から夥しい量の漆黒の霧が炎のブレスを飲み込む。漆黒の霧によって飲み込まれた炎のブレスは一瞬のうちにして打ち消されてしまった。
「「……ッ!?」」
一瞬で消えた炎のブレスを見て、リーゼロッテたちは思わず目を見開いてしまう。ファフニールの攻撃を受けてしまうと思っていたのだが、いとも簡単に防いでしまったことに思わず目の前の現実を疑ってしまった。
ファフニールも防がれるとは思ってもいなかったのか、少し後ずさりをする。その隙をアリスが見逃すはずもない。
アリスはファフニールに駆け出し、一瞬でその距離を詰める。
ファフニールも慌ててアリスを撃退しようと腕を振るうが、アリスは
〈光を滅する王剣〉でファフニールの攻撃をあっさりと受け流す。
ファフニールの懐に入ったアリスは両手に握る精霊武装を振るい、ファフニールの鱗を剥がしにかかる。
ファフニールの鱗――というよりは竜精霊の鱗には魔力――つまり魔法を弾く特性を持っている。この鱗を剥がさない限り、竜精霊に魔法でダメージを与えることができないのだ。リーゼロッテたちの魔法が効かなかったのも、この竜精霊特有の鱗が原因であった。
鱗を剥がしては距離を取る。そして再び懐に潜り鱗を剥がす。アリスは決闘場を素早く動き回り、完全にファフニールを圧倒していた。
「すごい……」
リンが思わず言葉を漏らす。自分では全く相手にならなかったファフニール。それを赤子の手を捻るかのように相手をするアリス。そんなアリスにリンはこんな状況にもかかわらず、あこがれの視線を向けていた。これがアリス――これが”エルフリーデ”なのかと……
(もうそろそろか……)
アリスは鱗を剥がされボロボロになっているファフニールを見る。ファフニールはもう立っていることすらままならないといった様子だ。
(ったく、戦争時代の精霊だからもっと強いと思ったんだがな……所詮はこんなものか)
そんなことはない。ファフニールも戦争時代に猛威を振るった精霊であり、その実力もかなりのものだ。アリスがそう思うのはアリスの実力に加え、契約している精霊が王級精霊とどちらも規格外の存在だからだ。アリスの感覚がおかしいだけであって、決してファフニールが弱いというわけではない。ただ、ファフニールも契約していない単体の個体であったのも敗北の原因であったのだろう。
(……よし、もう終わらせるか)
今ならファフニールに魔法による攻撃が通るであろう。
アリスは〈光を滅する王剣〉に魔力を流し込み、抜刀の姿勢を取る。その様子を見てファフニールは後ろに下がるが、無駄な行動であった。
(安らかに眠れ。厄災の竜)
「”グロリアス・レイ”!」
アリスが〈光を滅する王剣〉を振るうと、〈光を滅する王剣〉からまばゆい光が放たれ、あっという間にファフニールを飲み込んだ。




