救出
「よっと!」
アリスは軽々とリーゼロッテを持ち上げ、ファフニールから遠ざかる。
(危なかったな……もう少し遅かったら……)
考えるだけでもゾッとする。間に合ってよかったとアリスは安堵の表情を見せる。
(しかし、ファフニール相手に立ち向かうとはな。命知らずだが、よくやった)
正直、リーゼロッテがファフニールと正面から戦ったことに呆れていたが、それで時間を稼げたことも確かだ。
それに、聡明なリーゼロッテがわざわざ相手の実力を見誤るはずがない。それこそ、時間稼ぎにと思っての行動であったのであろう。そう考えれば、リーゼロッテの行動は十分に成果があったといえるだろう。
(全く、このお姫様のどこにそんな勇気があるんだろうな)
馬鹿な行動だ。しかし、リーゼロッテの行動がなければ、ファフニールは生徒を狙ったかも知れない。そのことを考えると、自分を犠牲にしてまで他人を守ったことには好感が持てる。しかし――
(王族がそう易々と死のうとするんじゃない。お前は国の未来でもあるのだから)
例え、他人を守れたとしても自分が死んでしまったら意味がない。これはアリス自身の考えだ。さらに一般的な視点から言えば、王族の血を引くものが他人のためだとはいえ、そう易々と自分を犠牲にしてはならない。もし自分が犠牲になれば、その隙を他国に付け入られるかもしれない。そうなれば、国全体の人々を危険に巻き込むことになってしまう。流石のアリスでもそのことは理解していた。
「大丈夫ですか、リーゼロッテ様?」
「えっ? あっ、はい! 大丈夫です!」
突然アリスに話しかけられたことにより、リーゼロッテは慌てて返事をする。余程、死を覚悟していたのかとアリスは同情していたが、実際はリーゼロッテがアリスに見惚れていただけなのだが。
(大丈夫そうだな……)
ある程度ファフニールから離れたところでアリスはリーゼロッテを降ろす。それと同時にリーゼロッテを心配していたリンが駆け寄ってきた。
「リーゼロッテ!」
「先ぱ――」
「もうっ、心配したんだから!」
リンは目に涙を浮かべながら、リーゼロッテに抱きついた。リーゼロッテは思いっきりリンの胸に埋まって、苦しそうにリンの身体を叩いている。
「あっ、ごめん。リーゼロッテ」
「――ぷはぁっ! はぁはぁ……全く、心配したからってやり過ぎですよ」
「ごめんね、とても心配したから……」
「いや、私の方こそ先輩に心配をかけさせてしまいましたし……」
「リーゼロッテ……」
「先輩……」
二人はそのまま無言でお互いを見つめ合っていた。
(しかし、美少女二人が並ぶと絵になるなぁ……うちの女は馬鹿、適当、ロリだしなぁ……いわゆるこれは百合というものではないのか?)
アリスはこの場にふさわしくないふざけたことを考えていたが、アリスにとってファフニールごとき、敵ではなかった。
しかし、見つめ合っている時間が長い。仮にもファフニールがいて危険な状況なのだが。
「……そろそろいいかしら?」
「「はっ!」」
アリスの言葉によって、ようやく意識を戻してくれたようだ。
「とりあえず、アイツの相手をするから離れていてくれる?」
「でも、あなた一人で?」
リンは不安そうにアリスを見る。それもそうだろう。先ほど学生とはいえ、自分は優秀な方だとリンは自覚していた。もう一人のリーゼロッテも学生の生徒を圧倒できるほどの実力を見せていた。しかし、ファフニール相手には手も足も出なかったのだ。さすがの”エルフリーデ”の人間といえど、一人でファフニールを相手できるとは思わなかった。
「ええ、そうよ」
さも当然のごとく、アリスは肯定する。まして慢心などではなく、当然だといわんばかりに。
「心配しなくても”アレごとき”に不覚は取らないわ」
「アレごときって……」
リンはファフニールをアレごとき呼ばわりするアリスに呆れていた。それほどの自信はどこから来るのかと……実力はあるのだろうが。
「まあ、すぐに終わらせるから下がってなさい」
アリスは手の指をポキポキと鳴らしながら、ファフニールに視線を向ける。
(ご丁寧に待ってくださって……急に現れた俺に警戒心を持っているのか? それだったら知能はあるのか。全く、人工精霊というのが勿体ないな)
ファフニールは今もアリスに警戒心を表していた。全く怯えないアリスの様子を訝しそうに見ている。
(準備はいいか、二人とも?)
(もちろん! いつでもバッチリだよ!)
(……準備万端)
アリスの契約精霊たちもやる気満々のようだ。
アリスは先ほどの適当な雰囲気を一変、気持ちを切り替える。
(よし、ファフニール殲滅、開始)




