入学
「はぁ、ついに来たか……」
アリスは校門の前で一人たたずんでいた。
「ここが、サウス学園か……」
この世界エデンにはノース、ウェスト、イースト、そしてサウスの4つの国に分けられている。
そしてここはエデンの4つの国の一つのサウスである。
そしてこれから入学式なのだが……
ランク301/301
自身の学生帳にはっきりと書かれた数字が嫌でも目に入る。
(……)
「陛下……」
アリスはその数字を見て、頭を抱える。そして、昨日のことを思い出していた……
入学式の前日、アリス・ロードは王の命令により王宮へやってきていた。今、アリスは王宮の間で片膝をついていた。
「陛下、今日はどのような用件で私を呼んだのですか?」
アリスは現国王――アルベルト・フォン・エルフリーデに尋ねる。アルベルトは金髪碧眼を持ち、若くして王としての威厳を放っていた。
そんなアルベルトがあごに手を当てて、何かを考えるような仕草をする。
「うむ、実はな……」
「お前、学園へ行け」
「は?」
アリスは情けない声を出してしまった。アリスは深呼吸をして少し自分の気持ちを落ち着かせる。
「学園ですか……?」
「うむ」
アルベルトは素直に頷く。
「何故、急に学園になどと?」
「いや、お前も今年で15歳になるだろう。それで、学園に通わないというのはどうかと思ってな。だから、学生の間しか経験できないことをだな……」
アリスはアルベルトが自分のことを考えてくれていると思って素直に感動する。しかし、次の一言ですべてが台無しとなった。
「というのは建前だ」
「は?」
本日二度目の附抜けた声を出す。
そんなことは気にせずにアルベルトは話を続ける。
「実はな、今年は私の娘が入学するのだ。」
「はぁ……」
「だから、娘の護衛を兼ねて学園へ行け」
(なんだと!?)
アルベルトの思いがけない言葉にアリスは驚く。
「いや、学園だったら安全だと……」
「リーゼに近づくアホな輩がいるだろ!」
(えぇーー!?)
思わずアリスは完全に嫌という表情を出してしまった。
実はサウス王アルベルトは親バカである。王としては優秀な人物なのだが親――父親となると、この通り、かなり残念な人となる。
「アリス。お前は俺のことをバカだと思っているかも知れないが、これは父親にとってかなり重要なことだ。全国の父親が子供を保護するのは当然だ。だろ、アリス?」
(俺の親、結構、俺を放っていますけど?)
はやくもアルベルト論、論破である。
「そうか、そうか。わかってくれるか。さすがアリスだ」
全くわかっていない。
「それでな、リーゼは妻に似て、とても美人なのだ。妻も学生の時いろんな男から求婚されていたんだ。その妻に似ているリーゼに求婚がないだろうか、いや、ある。最もリーゼはな……」
アルベルトはそのまま自分の世界に入っていき、そのまま30分、大事な娘の話を聞かされた。
「……というわけでな、リーゼは私の最高の娘なのだよ。」
「はぁ……」
アリスはやっと終わったのかとほっとする。相変わらずのアルベルトにアリスは呆れるばかりだ。
「では、本題に戻る。アリス、学園に行け」
「しかし、私はすでに――」
「アリス、命令だ」
「……っ!」
アルベルトは普段よりも声を低くして命令する。
アリスは王宮に勤めている身だ。そこのトップであるアルベルトの命令は絶対だ。
「仰せのままに……」
「……相変わらず酷いな……」
振り返っても、どう考えても権力の暴力だ。アルベルトの無茶ぶりに呆れることしかできない。
(てか、試験免除で入学させるとか……。そんなのでいいのか?)
こんなところで権力を使ってもいいのかとアリスは考えるが相手はあのアルベルトだ。考えるだけ無駄である。
(とりあえず、会場に向かうか)
(……)
アリスは目の前の状況に固まっていた。何故ならアリスの席だけ一人はみ出していたからだ。
本来、サウス学園の1年生は300人と決められている。そこにアルベルトの不思議な力(権力)によりアリスが無理矢理ねじ込まれたのだ。こうなることは至極当然のことである。
「……はあ、陛下……」
もはやため息しか出てこない。この扱いはないだろうとアリスは心の中で文句を言う。
(まあ、仕方ないか……)
アリスは自分の席に座って入学式が始まるまで目をつぶっていた。
――ただいまより入学式を始めます。まず初めに――
(ん? もう始まったか……)
アリスは目をこすりながら耳を傾ける。どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。
アリスは重いまぶたを持ち上げながら、ステージに焦点を合わせる。
――次は学園長の話です。
(いよいよ学園長の話か……。陛下の話では”氷王”が学園長だったか?)
ゆっくりと歩いてきた学園長が堂々と全生徒の前に立つ。
学園長――エルザ・ローズは少し青みがかった黒髪にアメジストのような瞳を持っている。
身長は低い……というか幼い。下手をしたら12歳といっても過言ではない。まさに合法ロリだ。
「えー新入生諸君。このたびは合格おめでとう。これから君たちはいろいろなことを学ぶだろう。向上心を持って学園生活に臨んでくれ。あと入学できたからと油断はするなよ。いまの2年生は272人、さらに3年生は148人だ。油断していると学園を去ることになるから気をつけるように。以上」
さすが学園長をしていることはある。今の言葉だけで生徒たちに緊張感を与えた。去り際にアリスを見たのは気のせいであろう。
(いや、絶対にこっちを見ていたな……)
アリスは嫌な汗をかいた。隣の生徒は「きゃー! こっちを向いてくださったわ!」と騒いでいたが、それが本当ならどれだけよかったことか。
(これは学園でもやっかい事を押しつけられるかな……)
そんなことを考えていると、司会者が進行を続けたことで、意識を入学式のことに戻すことができた。
――次は生徒会長、リン・シルフィードさんのお話です。