契約精霊
「決闘終了! 勝者はレン・アルカディア! ティリカ・フール!……」
声高らかに叫ぶ審判の勝利宣言が特等席にいるアリスたちに伝わった。
「あなたの友達、二人とも勝ったじゃない」
「当然よ。私が見込んだんだから」
(正直、レンも勝つとは思ってもいなかったがな……)
エルシアの言葉にアリスは冷静に応えていたが内心、レンが勝ったことに驚いていた。
有力な家系であるフール家の人間であるティリカは勝つと思っていたが、全くの無名であるレンが勝つのは完全に予想外であった……が、冷静に考えるとレンの姉であるランは生徒会のメンバーだということを思い出し、それなら当然かと、アリスはレンへの評価を改めた。
ドンッ!
「痛っ! なに?」
アリスは突然、自分の背中にぶつかった何かを気にするように後ろを振り返る。そこには年齢が12歳ぐらいの黒髪の女の子が立っていた。
「アリス! アリスの友達が勝ったね!」
黒髪の少女は無邪気に笑う。その元気な様子を見てアリスは笑顔をこぼした。
「そうだね、クロノス」
「……アリス」
今度は左手の裾を引っ張られる。そちらに振り向くと、クロノスと呼ばれた少女とは対照的に、美しい銀髪を持つ少女が、かまって欲しそうにアリスを上目遣いで見つめていた。
「どうしたの、メーティス?」
「クロノスだけ話してズルい……」
メーティスと呼ばれた少女は拗ねたように視線を下にずらす。
「いや、別にクロノスとも話してないけど――」
「アリス! 私もかまって!」
「痛い! 急に後ろから飛びつかないで!」
「……やっぱり、クロノスだけ……」
「ああ、もうっ! メーティスも来ていいから!」
「いやあ、モテモテだね、アリス君」
扱いが難しい二人を相手している中、先ほどの仕返しと言わんばかりにアレクシアがアリスにちょっかいをかける。
「全くよ。サウスの王級精霊使いがそんなので、どうするのよ?」
エルシアが呆れながら、アリスと二人の少女を見る。
そう、この二人の少女――クロノスとメーティスこそが、各属性の精霊の頂点に君臨する精霊――王級精霊である。王級精霊とは各属性ごとに一体ずつ存在しており、その力も一部の例外を除いて桁違いである。さらに、王級精霊のみが使える王級精霊魔法こそが王級精霊最大の特徴であり、自身の属性では扱えない特徴を持った魔法でもあり、その力、故に各精霊の頂点に君臨することができているといっても過言ではない。
ちなみに、王級精霊の居場所はすべて把握されており、サウスには闇の王級精霊であるクロノス、光の王級精霊であるメーティスが確認されている。
端から見れば、ただの12歳の少女にしか見えないクロノスたちだが、見た目によらず強力な王級精霊魔法を所有している。その王級精霊魔法の特徴、故に”エルフリーデ”でのアリスの二つ名は――
「どうしようもないわよ。これが現状なんだから」
「それでも”エルフリーデ”トップの人間なの?」
「今の”エルフリーデ”のトップは”不死鳥”でしょ? なら心配ないわ」
「……あなた、3年前に何をやったか覚えてる?」
「さあ、なんのことかしら?」
エルシアがアリスに訝しそうな視線を向けるが、アリスは全く知らんといった様子だった。その様子を見てエルシアはさらに呆れるばかりだ。
「……はぁ、ガイアもよく、こんなものを拾ってきたわね。私なら拾ってこないわ……」
「私を物みたいに言わないでよ。こんなにしっかりしているのに」
「そうよ! アリスはちょっと常識がなくて、力任せに物事を解決するだけなんだから!」
「……そう、常識がないだけ……」
「……クロノス、メーティス。フォローになってない……」
どこがしっかりしているのよとエルシアは思ったが、クロノスたちの言葉によって、おかしいのはアリスだけだと安心した。アリスは心外だと表情に出していたが。
「まあ、この後は誰が勝ちますかね?」
エルシアが決闘場の方を向き、つられてアリスたちも、そちらを見つめる。
(さすがにここまでだろうな。恐らく生徒会のメンバーは何人か出るだろうし)
アリスは冷静に今後のことについて考えた。恐らく通常戦の優勝者は生徒会の者であると予想し、そうなれば必然的にレンたちの敗北は免れないものになると。
(まあ、ここまで来ただけでも十分だな。さて……)
アリスはゆっくりとアレクシアに視線を向ける。
「えっ、なに?」
アレクシアは何故、自分に視線が向けられているか理解できなかった。その理由は――
「……アレクシア。さっき、私をからかったでしょ?」
アレクシアはあっ! と思い出したかのような表情をする。
「あっ、いやっ、別に、その、あの……」
「大丈夫。それだけじゃなくて、リンさんに私のことを話したことについても問い詰めるつもりだから」
「ひいっ!」
アリスはアレクシアに満面の笑みを浮かべる。しかし、今のアリスの笑顔はアレクシアにとっては鬼のように見えるだろう。
「さあ、十分に聞かせてもらおうかしら?」
「いやややあああぁぁぁーーーーー!」
その後、会場にアレクシアの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもないだろう。