魔法大会
魔法大会当日、学園には多くの人々が訪れていた。
魔法大会とはただの学園の行事ではない。実は国が推奨している行事である。それは国が優秀な生徒を引き抜くためである。だいたい引き抜かれた生徒は国の専属騎士になったり、王に仕えたりする。そんな将来が約束されるのだ。それに向けて生徒は日々努力しているため、今日という日を楽しみにしている。
「なあ、今日は王様だけではなく”エルフリーデ”の人たちもいらっしゃるんだよな?」
「ああ、楽しみだよな!」
二人組の生徒が和気藹々と話していた。
”エルフリーデ”――それは国を守る騎士団に所属する最強の五人の総称だ。そのうちの一人は四神の契約者と決まっている。ちなみに四神とは、ノース、ウェスト、サウス、イーストに一体ずつ存在する精霊であり、サウスの四神は朱雀である。
「今日はアリスは、いないんだな……用事って何をしているんだろな?」
「知らないわよ。聞いたらよかったじゃない」
「聞いたけど教えてくれなかったんだよ!」
「ふーん、信頼がないんじゃない? リーゼロッテは何か聞いた?」
「ううん、何も聞いてないよ」
「そっか……うーん、アリスの用事ねえ……考えない方がいいんじゃない?」
「なんでだよ?」
「だって……ねぇ、リーゼロッテ?」
「うん、そうだね……」
「なんだよ!?」
リーゼロッテとティリカは苦笑しながら、顔を見合わせる。レンは理解できないといった様子だ。
レンはアリスの渾身の一撃によって、昨日の出来事を覚えていない――正確には記憶を失っていた――が、リーゼロッテたちは鮮明に覚えている。普段、怒らない者が怒ると、あれほど恐ろしいものかと。リーゼロッテたちはアリスだけは敵に回さないと心に決めた瞬間でもあった。
「まあ、他人の事情には深く関わらない方がいいんじゃない?」
「そうだよ、気にしない方がいいよ?」
「うーん、それだけ言うならなぁ……腑に落ちないが」
なんとか諦めてくれたレンを見てリーゼロッテたちは胸をなで下ろす――ほどの胸はないが。
「けどよ、今日は”エルフリーデ”の人たちも来るんだろ? なんか緊張するな……」
「あら、あなたでも緊張することがあるのね」
「失礼だな。そう言うお前はどうなんだよ?」
「あたし? とても楽しみだわ」
「その割には震えているが?」
「う、うるさいわね! あたしだって緊張するわよ!」
ティリカは顔を真っ赤にしてレンに近づく。あまりの迫力にレンは戸惑った。
「お、おう。なんかすまん」
「わかればいいのよ。ところでリーゼロッテ? ”エルフリーデ”の人たちってどんな人なの?」
打って変わって、ティリカは少し楽しそうな声音でリーゼロッテに尋ねる。レンも少なからず興味があるようで、リーゼロッテの答えを待っていた。
「うーん、正直わからないかな? 王族に仕えるっていうよりか、お父様に仕えてるって感じかな? 聞いた話だと、表の仕事よりも裏の仕事の方が多いみたい。だから実際に私も会ったことがないの」
リーゼロッテ表情を変えずに淡々と答える。その様子を見て、ティリカたちは顔を若干、引きつらせていた。
「ん? どうしたの?」
二人の様子を不思議に思ったリーゼロッテは首をかしげる。
「いや、なんの抵抗もなく裏の仕事ってな……」
「ええ、さすが王族だねって……」
気まずそうに、ティリカたちは軽く視線そらす。その言葉を聞いて、リーゼロッテは慌てふためく。
「ちょっ、違うよ! 裏って言うのは、一般では受けられない仕事だよ!」
「いや、なんの弁解にもなってないぞ?」
「大丈夫だよ! 暗殺とかはない……はずだから……」
リーゼロッテは段々と自信をなくしていき、視線をあさっての方向に向ける。確証がないことを断言することは当然、素直な少女にはできなかったのだ。
三人の間の空気が次第に重くなる。その空気を打ち破ろうと、レンは試みた。
「ま、まあ、裏の仕事って言っても暗殺以外もあるだろ!」
「例えば何よ?」
「例えば…………すまん、リーゼロッテ。俺には思いつかない」
「なっ! そんなかわいそうなものを見るような視線で見ないでよ! ちょっと、ティリカもそんな表情をしないで!」
リーゼロッテはレンたちの自分に同情した様子を見て、恥ずかしくなると同時に、顔を真っ赤にさせる。
「~~! うぅ~~!」
居たたまれなくなり、ついにリーゼロッテはその場にしゃがみ込み、うずくまってしまった。
「……!? ああ! リーゼロッテ! ごめん!」
「す、すまん、顔を上げてくれ! なんか俺らが苛めているみたいだ!」
気づいたときには、時すでに遅し。周りの人たちは何事かと、リーゼロッテたちを見ていた。
「「ああーー! リーゼロッテ、立ち直ってくれ!」」
会場の前でレンとティリカの叫びが響くのであった。
その頃……
「……ん? 何か聞こえなかった?」
「いや、何も聞こえなかったけど?」
「うーん、そうかしら?」
黒髪の少女は首をかしげる。
「そうよ、それより大事なことがあるでしょ?」
「……そうね」
水色の髪の少女の言葉に黒髪の少女は応える。
「けど、あなたが参加するなんてね……何かあった?」
「……別に。ちょっと興味があっただけよ」
「ふーん、興味があった、ね……」
水色の髪の少女は怪しそうに見つめる。
「気になるけど、まあ、いいわ……っと我らが王のお出ましだね」
水色の髪の少女に言われ、黒眼の少女も王――アルベルトに視線を向ける。
「”水神”、他の三人はもう行っているぞ?」
「あら、ここで待つのじゃ、なかったのかしら?」
”水神”と呼ばれた水色の髪の少女が応える。
「それは”アリア”だけだ。お前には直接、会場に向かえと言ったはずだが?」
「あれ、そうでしたっけ?」
「まあいい。先に行っておけ」
「了解でーす」
”水神”はスキップをしながら、この場を去って行った。
「全く、アイツは目上の者に対しての礼儀を知らんのか」
「仕方がないですよ。だって”水神”ですし」
「まあ、それもそうだな」
アルベルトは頭を抱えながら、渋々納得する。”アリア”も”水神”の性格は理解しているため、アルベルトの苦労は容易に想像できた。
「ところで、学園生活はどうだ?」
「全く、大変ですよ。入学早々、決闘を挑まれますしね」
”アリア”は大変ですよと手を振りながら応える。
「でも、楽しいだろ?」
「さあ、どうですかね? それより、そろそろ行きませんか?」
「いや、俺は少し用事があるから遅れて行く。だから、先に行ってくれ」
「了解です」
”アリス”はアルベルトに一礼をして、会場へと向かっていった。アルベルトはその後ろ姿を無言で見つめていた。
「……全く、最初は子供ができたと聞いて驚いたが、今では立派に育ったじゃないか。なあ、ガイア?」
アルベルトは誰もいない空間に話しかける。
「ああ、全くだ。いい息子に育ってくれた」
いつの間にか、ガイアの背後に現れた男が応える。
「最初の頃はすごかったぞ? 全く心を開いてくれなくてな。マリアも俺も苦労したよ」
「でも、優秀に育ったじゃないか……お前に似ずにな」
「余計なお世話だ」
「”エルフリーデ”最強も形無しだな」
「下手したら、もうすぐ抜かれるかもな……もう抜かれているか」
ガイアは自分を馬鹿にしながら応える。
「本当に立派に育ってくれてよかったよ。アイツも色々あったからな……なあ、アリス」




