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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第1章 始まり
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勧誘

 「ここが生徒会室よ」


 突っ込みはさておき、アリスは意識を現実に戻した。


 アシュリーが指さす先には、他の部屋と変わらないが、生徒会室と書かれた札が入り口の近くに置かれている。


 「アシュリー・ローズです。ただ今、戻りました」


 アシュリーは入り口のドアを叩き、生徒会室の中に入る。アリスもアシュリーに続き、中へと入る。


 「ようこそ、アリス・ロード君」


 水色の髪の少女――リンがアリスを迎え入れる。心なしか、その表情はどこか嬉しそうなものであった。


 「では、生徒会長さん?」


 「リンって呼んでいいですよ」


 リンはアリスに名前で呼ぶように促す。どうやら、堅苦しいのは好きではないようだ。


 「では、リンさん。今日はどのような用件で僕を、この場に呼んだのですか?」


 待ってましたといわんばかりの表情を作り、足を組みながら答える。


 「単刀直入に言います。アリス・ロード君。私はあなたが欲しい!」


 欲しい! 欲しい、欲しい…… 


 どうしてだろうか。何故かリンの言葉が生徒会室にこだました。


 しばらくの沈黙。アリス、アシュリーはもちろん、他の生徒会のメンバーであろう二人の女子生徒も黙っている。


 リンは何故、皆が沈黙しているかわからなかった。その理由を探そうと自分の言葉を思い出す。


 ――私はあなたが欲しい!


 「あっ」


 どうやら、自分の言ったことの重大さがわかったようだ。リンは失敗したと顔を真っ赤にする。


 「あっ、えっ、ち、違うのよ! あなたが欲しいというのは決して好きという意味ではなくって! ええっと、あぁ……!」


 「大丈夫ですよ。それくらいはわかってます」


 慌てふためくリンにアリスは笑顔を返す。


 「あ……そう? ……こほん、もう一度言うわ。アリス君。あなたを生徒会に迎え入れたいと思います」


 リンは真剣な表情で告げる。ここまではアリスの予想通りだった。しかし――


 「どうして僕なのですか? 僕より強い生徒なんて、この学園にはいくらでもいるでしょう? それに僕のランクは301位ですよ? 301位。最下位です。僕より生徒会にふさわしい生徒がいると思いますが?」


 あえて自分のランクを強調しながら答える。しかし、リンはそれがどうした、といった様子であった。


 「ランクなんて所詮、ランクです。この学園ではランクよりもランキングの方が重視されます。とはいっても、ランキングが上がればランクも上がりますけどね。それにあなた、アルベルト様の推薦らしいわね」


 「どうしてそれを――」


 アリスは言いかけたところで気づく。生徒会の中には学園長の娘であるアシュリーがいるのだ。恐らく、アシュリーがアリスのことをエルザに聞いたのであろうと予想する。


 「まあ、推薦のことを知ったのは、あの決闘を観た後だけどね。例え推薦でなくても、オーレット家の長男を圧倒する実力の1年生、今の――いや、これからも現れないでしょう……あなた以外はね」


 オーレット家と言った時に一瞬、リンは視線を一人の女子生徒に向けた。何か意味があるのだろうか。


 しかし、リンの中でアリスの評価はかなり高いようだった。正直、アリスは悪い気分ではない、だが――


 (参ったな、リーゼロッテから目を離すことはできるだけ避けたいのだが……)


 アリスがこの学園にいるのは、あくまでリーゼロッテの護衛のためである。だから、生徒会に入ることは避けたかった。


 「しかし――」


 「それにあなた――」


 リンはアリスの言葉を遮り、意地の悪い笑みを浮かべる。


 「――」


 「……っ!?」


 リンの言葉にアリスは思わず目を見開く。――正確には、その口の動きである。


 ――二体・・の精霊と契約しているでしょう?


 はっきりと、そう告げたのだ。リンはアリスに近づき、耳元でささやく。


 「……あれほどの魔法が使えて精霊と契約していないというのは、おかしいでしょう? それにあなたから溢れている魔力……これは精霊のものじゃないかしら?」


 アリスからはリンの表情は見えないが、恐らくリンは勝ち誇るように微笑んでいるであろう。


 (学園長が言ったのか? いや、さすがにそれはないはずだ。多重契約者・・・・・のことは色々と問題がある……)


 何度考えても一向に答えが見つからない。どうしてリンがこのことを気づいて――いや、知っているのだろうと、アリスの疑問は深まるばかりだ。


 「ふふ、心配しなくても誰にも言うつもりはないわ。……生徒会に入ってくれた場合だけど」


 リンはにっこりと笑顔をアリスに向ける。


 (この女……)


 「……はあ、わかりました。生徒会に入ります」


 ため息をつき、アリスはリンの勧誘(脅迫)に渋々うなずく。


 「ありがとう! あなたが進んで・・・やってくれてよかったわ!」


 (どの口が言う……)


 アリスはリンを睨めつけるが、リンはその視線を無視する。アリスも怒るのも時間の無駄だと割り切り、諦める。


 「さて、アリスも入ったことだし、まずは自己紹介ね。もう知ってると思うけど、私は生徒会長のリン・シルフィードよ」


 リンは椅子から立ち上がり、スカートの裾を掴み、優雅にお辞儀する。早速、呼び捨てである。


 挨拶を終えるとリンは再び腰を下ろし、先ほど目線を合わせた少女に目配せする。その少女も目配せに気づき、うなずく。


 「次は私ですね。初めまして、アリス君。私は副生徒会長のミュア・オーレットです。この前は弟がごめんなさいね?」


 ミュアは手を合わせて、アリスに謝る。


 (あいつの姉か……雰囲気が違うな……?)


 オーレット家と言った時に、リンがミュアに視線を向けたのは、こういうことだったのかとアリスは理解する。


 「いえ、こちらこそすいません。あそこまでするつもりは、なかったのですが……」


 「大丈夫! むしろ、あれくらいやってくれて感謝してるわ! 大体あいつ、最近調子に乗っていたから、いい気味よ!」


 なかなか、辛辣な言葉であった。まあ、怒ってなさそうだったので、アリスは安心する。


 「次は私ね! 私の名前はラン・アルカディア! 総務やってます! よろしくね!」


 最後にランはアリスにウインクする。サービスの証だろうか。しかし、アリスには1つ、思うところがあった。


 (アルカディアってことはもしかしてレンの姉か?)


 アリスが思っている通り、ランはレンの姉である。しかも、ランはレンの姉というだけあって美人であった。ミュアといい、ランといい、全く、世間とは狭いものである。


 ようやく自分の番だと、アシュリーは勢いよく立ち上がろうとする――


 「そして! 私は――」


 「あっ、もう知っているので結構です」


 「なんでぇっ!?」


 自分の自己紹介が不要とされたことにより、アシュリーは涙目になる。しかし、アリスの攻撃は止まらない。


 「アリス・ロードです。よろしくお願いします」


 「先輩を無視って……まあ、いいわ」


 「よくな――」


 「ところで、生徒会で僕は何をすればいいのですか?」


 アシュリーへの攻撃は止まらない。リンにも見捨てられ、アシュリーはゆっくりと、この場を離れる。

 リンは少し考えるようにして……


 「そうね……あなたには書記をやってもらうわ」


 「書記……ですか?」


 「ええ、仕事は……とりあえず雑用みたいなものよ。意見をまとめたり、後は生徒会について学んだりね」


 「はあ……」


 アリスは気のない返事をする。


 「では、改めて。アリス、生徒会にようこそ」

 

 「はい、よろしくお願いします」


 こうして、アリスの生徒会への入部が決まったのだ……






 「しくしく……自己紹介、私だけしてない……」


 「……アリス、君の初めてのしごとは、あれをどうにかすることだ」


 「……はい、頑張ります」


 栄えあるアリスの初仕事は、部屋の隅で縮こまっているアシュリーをなだめることだった。


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