メープルシロップの願い
ある町に人を喜ばせることが大好きな、一瓶のメープルシロップがいました。
大きなパンケーキを食べている人たちのところへ行って、
パンケーキのてっぺんからメープルシロップをたっぷり注げば、
甘くておいしいパンケーキがもっとおいしくなって、
人々からとても喜ばれました。
子供たちの誕生日パーティーにお邪魔すれば、
あのお菓子にも、このお菓子にもたっぷりかけて!とせがまれて、
メープルシロップは大人気でした。
メープルシロップは人助けも大好きでした。
山から降りられなくなっている人たちを見つけたときも、
山のてっぺんからメープルシロップをたっぷり注げば、
人々はまるでソリに乗ったかのようにつるつると流れ、
無事に山から降りることができました。
人々からはとても感謝されました。
あるとき、何ヶ月も雨が降らない日が続き、
畑の野菜たちがしおれてしまっているのを見かけました。
自分の甘いメープルシロップなら野菜たちを助けられると思い、
畑にたっぷりのメープルシロップを注ぎました。
しかし、野菜たちに必要だったのは透明なお水。
甘くとろけるシロップではありません。
野菜たちはメープルシロップの海に沈んでしまい、
畑の持ち主からはひどく怒られてしまいました。
自分の過ちを後悔したメープルシロップは、
すっかり家に閉じこもるようになってしまいました。
このとき、メープルシロップの瓶の中に残っていたシロップはあと僅か。
もうあと一度しか誰かの役に立つことはできません。
そう思うと、なかなか立ち上がることができませんでした。
その年の七夕。
年に一度、天の川越しに織姫様と彦星様が出会える大切な日です。
美しい天の川を眺め、織姫様と彦星様の幸せを誰もが祈るこの町では、
毎年盛大なお祭りが開かれていました。
しかし、この日の空にはうっすらと雲がかかっていて、
いつものような輝く天の川を見ることはできません。
町の人たちが諦めかけたとき、天の川が突然キラキラと輝き出し、
夜空にはうっとりするような美しさの、見事な天の川がかかりました。
人々は夢を見ているようだと言いました。
それは、町の人たちが心待ちにしている七夕の日に、
とびきりきれいな天の川を見せてあげたいと願ったメープルシロップが、
最後の力を振り絞って夜空にたらしたシロップの力なのでした。
天の川の輝きと共に、瓶は空っぽになってしまいましたが、
みんなの笑顔でメープルシロップの心は幸せでいっぱいでした。
やっぱりみんなに喜んでもらえると嬉しいな。
そう思いながら、メープルシロップは遠い夜空へと消えていったのでした。