6_お手軽に使うと懐からっかぜ
冒険者の店での登録作業は、事前にネット予約を取っていたので別室でスムーズに終了しました。
「便利なものですねー」二郎丸さんが感心して言いました。
「そうですね、あちらの”日本”世界でのネットを参考にして、この世界でもネットワークを構築したのですが、すでに、それがなかった時代を思い出せないくらいに、浸透しています」サクラさんが感慨深げに答えます。
「さて、ではギルドカードを配布しておきますね」ギルド職員である年の頃は20歳後半くらいの綺麗なお姉さんが対応してくれています。耳が長いので種族はエルフさんのようです。
「へえ、エルフとかも本当にいるのですね」事前にちょこっと聞いていた茜さんが思わずつぶやきます。
「ドワーフさんとか、小人さんとか、妖精さんとか、獣人さんとか、この街だけでも、結構種族は豊富ですよ、冒険者の方々でも、有名な方とかおられますからね」職員さんが補足してくれます。
「基本、蔓延するサブカルチャーの種族と同じですね、あと、亜人さんという表記やら呼びかけは、状況によっては侮蔑になるので、基本的には種族名を呼んであげてくださいね。まあ、外国人の事を、ガイジンさんと呼ぶ程度くらいのニュアンスですから、あまり気にしなくてもいいかもしれませんね」サクラさんのフォローです。
「ギルドカードは簡易のネットワーク端末になっています。登録された相手となら、通信も可能です。登録人数は6名で、追加ポイントを消費することで、拡張が可能です。通信速度はあまり早くありませんが、文章による一斉通信などの機能があります、文字制限は140文字です」
「つぶやくには十分な文字数ですね」二郎丸さんが感心しています
「使用言語にもよりますけど。説明を続けます、カードは個人証明に使用できます、自分の名前などパーソナルデータが入力されていますので、パスコードを設定して他人に見られなくしておくことをお勧めします、ただ、最低限のセキュリティとして、他人のカードを使用して、ポイントの商品等との変化はできなくなっています」
「パスコードの設定は必須と思ってください」サクラさんが補足します
「討伐した魔物とか、行動のログも残っていきますので、調べられて困るようなこと、つまり犯罪行為ですね、とかは、調べられるとわかりますのでお気をつけください」
「えっと、すべて記録されるのかな?」それだとトイレとかにも行きづらいぜとかいう、八兵衛さんです。
「魔物の討伐は、その魔物が持つ魔石との共鳴とかを利用して、確実に記録されます。あとは大まかな位置情報と、各種個人照明カードを持つ相手を、故意なり事故なりで傷つけたり、逆に助けたりした時に、ログが残るようになっています。あと、位置情報も発することができますが、これは動作をオフにすることもできます。プライベートな時間を大切にしたりするときには、切っている人も多いですね。あと、任意に細かく行動のログを取ることができますので、何らかの証拠を残したいときとか、記念撮影とか、いろいろ利用している人もいます」
「容量とかあるの?」写真が撮れると聞いて、ワクワクしている睡蓮さんです。
「画質にもよりますが、静止画なら本体の記憶容量で1000枚くらいですね、映像なら1時間くらいでしょうか?ネットワークが通じる場所に行けば、サーバ上に倉庫を設定して置いておくことも可能ですよ、こちらはポイントが必要ですけど。あと、基本的なログを取る場所とはストレージの場所が違いますので、容量いっぱいに任意記録をとっても、そちらの機能は阻害されません」
「これ、クラウドシステム?なんですか」二郎丸さんが訪ねます。
「基本、ネットワークに頼れないところに潜る方達のツールですから、スタンドアロンで機能は完結しています。ネットワークに接続していろいろできるのは、拡張機能とかと思ってくださって、間違いありません」
「なるほど、でもこれ結構お高いのでしょう?」通販番組の相方のようなセリフを吐く二郎丸さんです。
「いえ、これがお値段据え置きの5980ポイント(消費税別)なんですよ」ノリノリですねエルフの職員さん。
「それはすごい」
「しかも今なら、送料無料の上、当社独自の還元ポイントが発生して、実質費用はかかりません」
「なんとそれはとてもお得ですね」
「なんですかこのノリは、ええとですね、基本最初のカード費用とか冒険者ギルド登録用の手数料とかは、勇者基金機構から補填されていますから、大丈夫ですよ、あとそれほど多くはないでしょうが、カードが紛失したり破壊されたりしたら、再発行に費用がかかりますので注意をしておいてくださいね」
「めったにないんですか?」「とにかく頑丈に作ってありますので、本人が消失するようなダメージを受けても、カードだけが残っているとか、普通にありますね」「物悲しくなる風景ですね」
「盗まれたりするんですか?」茜ちゃんがカードをしっかり握りしめて質問します。
「そうですね、盗んでも勝手に使用できないので、悪用はあまりしづらいのですが、偽造の材料、成りすまし、ログの隠匿、など、その気になればいくらでも考えられますので、注意はしておいてください、仮に紛失したりしたら、早めに紛失届けを最寄りのギルドか警察に届けてくださいね、それだけでのちの被害範囲が激減しますから」
「怖いですね」
「まあ、それは、そちらの”日本”世界のクレジットカードとかと同じです。違うのは、ちょっと見た目をいじるくらいの偽装ぐらいしかできないので、機械とかシステムはごまかせないということですね。何しろ、中がどうなっているのか理解している人が誰もいませんから」
「ええと、製作者とかいないんですか?」二郎丸さんがききます。
「あえているとするなら神様ですかね?もし万が一中身も含めて偽造しようとしたら、神罰が下るでしょうね」淡々とニコニコ顔で解説する職員さんと、ちょっとゾッとしている異世界転移勇者組でした。
「現在のステータスの表記やら、所属パーティの登録やら、技能、加護、異能、祝福、呪いなど、個人情報はいつでも確認できますし、レベルアップすると、音楽で知らせてくれます、この音楽は振動や通知なしにも設定できますので状況に応じて、使い分けてください」
「レベルアップの歌とか歌ったほうがいいのかなぁ」茜ちゃんが懐かしい話題をつぶやきました。
「和むなそれ」睡蓮さんは元ねたは知らないようですが、同意しています。
「あとは、ポイントの受け渡しに使用できますよ。現在のポイントもいつでももちろんいつでも確認できますし、ギルドからのミッション達成じのボーナスポイントもカードを通して、振り込まれます。まあ、作業確認を職員がする必要がありますので、概ね一度ギルドに戻ってきてもらわないければならないことが多いですが、ミッションの内容次第では、遠隔地でネットにつないで、現地で決算とかも可能です」
「便利ですね」感心する二郎丸さんです。
「窓口は基本24時間開いていますので、ご気軽にご利用ください」
「コンビニ並みね」睡蓮さん、ちょっと感心しています。
「ポイントによる特典の購入ですが、ギルド特有のものを、物理的に購入する時にはギルドで受け渡しをします。カードの拡張機能をなどは、ネットに繋がればいつでもできます。そのカードではできませんが、別のタブレット端末へ、電子媒体の何がしを送るとかもできますので、便利なようにご利用ください」
「なんだろう、この気軽にポイントを消費してね、という商売っ気は」二郎丸さんがつぶやきます。
「ポイントを貯める動因を強める仕組みですね、気軽に使えて便利なので、ついつい使いすぎてしまって、手元が寂しくなるので、今度はたくさん欲しくなるという、欲望を刺激させて、積極的に社会に貢献してもらおうとしています」サクラさんが身も蓋もない意見を言っていますね。
「ポイントですが、その個人の意思がないと受け渡しはできませんので、勝手に盗まれるとかはないので安心してくださいね」
「なるほど確かにお金より使いやすいですね」
「ただ、脅迫されて出すように強要されたり、詐欺とかで騙されたりして承諾したりすると、普通にポイントは移動するので注意が必要です。まあ、その場合は、不正の証拠がログに残るので、後から各種対応ができたりするんですが、各機関に訴える前に使い抜けたりされることも可能性としてはありますので、危ないところにはいかない、美味しそうな儲け話には注意するとかは、常識として備えておいてくださいね」親切丁寧に解説してくれる職員さんです。
「また、基本的にはポイントは、神様への貢献度ですので、神様の目に叶う様な行動をすると、いつの間にか増えていることがあります。その場合もログは残っていますので、確認して、同じ様な行動を心がけてみるのもいいかもしれませんね」職員さんが小技を披露します。
「報酬を目当てにいいことをする、というのもいびつな様な気がしますね」シルフィさんがツッコミます。
「まあ、変にこだわらずに、ボーナスだと思って、素直に嬉しがっているくらいがいいかもしれませんね、そうでないと、木の根っこで待ちぼうけ、とかにはなりそうですし」サクラさんも注意を促しています。
「質問なんだが?いいか?」八兵衛さんが訪ねます。
「はいなんでしょう?」
「仮にだな、俺が、二郎丸を脅して、ポイントを巻き上げたとする。その時には、巻き上げたとかいうログが残るよな?で、その後で、茜ちゃんに、ポイントを譲渡する、その時に、そのポイントは、二郎丸から巻き上げた問いう印とか、ログとか残っているのか?」
「ポイントのやり取りは、ログに残りますけど、そのポイントが脅し取られたものがどうか、ということは、最初のええと八兵衛様が、二郎丸様から奪った問いうログしか残りませんね」
「ということは、脅して取る役割と、譲渡した後、何がしかの特典とを変換する役割を持つものとを用意すれば」
「はい、犯罪行為は可能ですね。もっとも大規模にすると、譲渡のログから遡られて、犯罪が露見する可能性は高いです。まあ、何度も繰り返せる手ではありませんが、過去には、大量のポイントを奪い取られた後、その始末されて、そのようなポイントをロンダリングする業者によって不正に特典を稼いだ、という事件も確かにありましね」
「あーやっぱりな、その手は使えるのか」
「その後、神罰で、関わったもの全てが塩の柱されましたが」
「そんなにうまい話はないってわけだなぁ」
「神様は全てお見通しですよ、というか、ログの閲覧権限に制限がないようですね、ちょっと口を滑らしてお酒の席で個人情報を暴露して、吊るし上げにあってたりするようですから」
「「「いや、そこはしっかりしてろよ、神様、ていうか、吊るし上げられるの!?」」」
「何ぶん、お若い方でございますから」ほほほとわざとらしく笑う、エルフの職員さんでした。
「おそらく、細かい犯罪行為は日常的にされていると思いますよ?人間楽して稼げるならちょっとくらい法に触れてもいいじゃないか?という方も一定数いますから」サクラさんが、一般論として社会常識を伝えます。
「まあ、あまり世界にとって大きな危機を導かない場合、神様が介入することはないですけどもね、あのお方もいろいろ忙しいですし、介入しすぎると、カオスフレームが上がるとか言っていましたから。貢献ポイントの件は、大量すぎたのが目に余ったらしいですけど、通常は、定まった命の者達に、社会の運営は任せよう、というスタンスですから」エルフの職員が補足します。
「社会には濁った水も必要なんですよ、清いだけだと魚は住みにくいのです」ちょっと黒い意見を吐くサクラさんです。
「田沼さんですかあんたは」突っ込むのは二郎丸さんですね。
「そういう考え、嫌いじゃないなー。俺たち結構気があうんじゃないか?」八兵衛さんは、笑いながら言ってます。
「思想の共有と、恋愛感情は別物ですよ」ふふふと笑うサクラさんです。
「価値観の乖離がないというのは、心地よい関係の第一歩だぜぃ?」
「傷の舐め合いになりそうで、怖いですねー」
「サクラちゃんなら隅々舐めてみたいねー」
「あ、変態がいますよ、シルフィさん」二郎丸さんが指をさして言っています。
「し、ダメです目があうと、変態が感染しますよ」
「さすがにひどくね?」「妥当だよ」「変態さんです」