5_冒険者、気楽な稼業と来たもんだ
転移後翌朝です、二郎丸さん、シルフィさん、八兵衛さんは、昨夜飲んだサプリの効果を確認するために、”解析の水晶球”がある部屋で順次検診中です。
二郎丸さん、八兵衛さん二人は問題なく5レベルまで上昇していて、相応の能力値補正も入っていました。ある程度意識して、特定の能力値を伸ばすことができると、聞いて眠ったので、二郎丸さんは敏捷性に、八兵衛さんは器用さがやや増えてる度合いが大きい感じです。
問題はシルフィさんでした。
「ははあ、レベルは1のままですか。どうやら、この『呪い』が影響している可能性があるかもしれませんな。能力値の補正も変わらずと。どうされます?しばらく入院して検査してみますか?とりあえず、もう一回サプリメントを飲んで前後で色々、検査とかしてみればもう少し詳しくわかる、かもしれないですが?」
「そうですね、あと一晩なら。だけど、”丸”と離れるのは嫌よ?」
「了解しております。ちょうど、他の二人も今朝目を覚まして、解析ずみですので、今晩合わせて、経過を確認させてもらえますし」
「了承しました」「じゃ早速投薬前の検査をしましょうか」
「というわけで、この施設でもう一泊お願いしますね」サクラさんが二郎丸、八兵衛、シルフィさんに伝えます。
「いや、俺は別に構わないけどよ?結構のんびりしてるんだな?」八兵衛さんが訊ねます。
「それほど切羽詰まっている状況じゃあないですし。確かに勇者様は戦力とか技能とかはピカイチで頼りになるのですけれど、前に転移された方もまだ現役ですし、この世界にも勇者さまに及ばないけれど、遜色ない、くらいの英傑はおられますので。余裕があるんですよ、はい」
「差し迫った危機もない、文明も異世界と繋がっているネット知識のおかけで、転移元と比べて、遜色ない、どころか魔法の効果的な運用で、元よりいいくらい。魔物がいるとはいえ、実質歩く資源と変わらない、なるほど、確かに焦る要素はないですね」二郎丸さんがまとめます。
「はい、それこそ魔王が発生したりしなければ、そうそう勇者さまが必要になる危機とかは発生しないんですよ」ニコリと笑いながら、サクラさんが言いました。
「いや、なんかそれ、フラグっぽいです」二郎丸さんがぼやくと。
「設定は、テンプレートですけど、展開はリアルですから、私が言ったことが、フラグ立てになってシナリオが進むとかありませんにょ」あ、かみましたね。「よ」いい直しました、顔が少し赤いですね。
「それでは、改めて顔合わせをしておきましょうか。同じタイミングで召喚された勇者様達ですし」
サクラさんは、今朝目覚めて、解析水晶球のチェエックを済ませた二人の女性をラウンジに連れてきました。
「はい、オダカ・アカネです。尻尾の尾に、高い低いの高、茜色の茜と書きます。12歳です」少し嬉しそうに歩いてテーブルの側まで歩いてきて、自己紹介をする少女さんです。身長は130センチくらいで、ショートカットの黒髪、日本人っぽいですね。スレンダーというか、細身。病的なまでに色白。
「カワサキ・スイレンだ、三本川に、山に奇の崎、スイレンは花の名前そのままだな。年齢はまあ、ごまかすほどの歳じゃない、17歳だ」身長は170センチくらい、女性にしては高め。髪の毛は薄い茶色(染色はしていない)、長めで、軽くウエーブがかかっている、天然パーマ。プロポーションはゆったりとしたシャツとズボン越しにも良いのがわかる。化粧をしていない顔で、少し目を細めて見づらそうにして辺りを見ている。
「あー、ごめんな、ちょっと目が悪いんだが眼鏡がまだなくてよ」
「すいません、もう少ししたら仮のものが届きますので」サクラさんが答えます。
こちら先行起床済み組も自己紹介をしました。
「ええとシルフィさんって、外国の方?なのですか?」茜さんが訊ねます。
「はいそうですね、実家は北欧の方ですよ」しれっと答えるシルフィさんです。
「ちょっと縁があってね、僕の義理の姉ってことになってる」二郎丸さんがフォローにまわります。
「?ことになってる?」
「ちょっと複雑な家庭の事情がありまして、”丸”さんのご両親の養子になっているんですよ」さりげなく二郎丸の足を踏みつつ、さらにフォローのフォローを入れるシルフィーさんでした。
「八兵衛さんというのかい?やっぱり”うっかり”なのかい」ちょっとワクワクするような表情で尋ねるのは睡蓮さんです。
「そうだな。八兵衛一族には、”ちゃっかり””しっかり””やっぱり””あっさり””もっさり”とか色々な称号が二つなのごとくついているんだが、そう、何をかくそう俺こそ、かの有名な”うっかり”の従兄弟で、”がっつり”八兵衛というんだよ。お嬢ちゃん今夜食事でもどぉ?」「そーか”うっかり”じゃないのか。老公の活躍とか聞きたかったんだけどなぁ」「えと?冗談だよ?え?」「でも従兄弟なら少しはお話を知ってたりしてるのかい?最近姿を見なくてさー」「え?」
見事にすれ違った会話をしているのは、八兵衛さんと睡蓮さんですね。
「これからのスケジュールを説明しておきますね。今日一晩病院で経過観察を含めて、泊まっていただいて、明日、街に行きます」
「へー、街あるんだ」睡蓮さんが感心して言います。
「規模は結構大きいですよ?新宿くらいでしょうか?」「魔界に沈んだ方かい?」「「「?」」」
「街ではまず冒険者ギルドに行きます。そこで登録を済ませしょう。勇者様は基本冒険者ギルドに所属する様に決まっていますので、と言いますか市民登録も兼ねているので、そっちに行かないと、行政上困ります」
「別にデメリットとかなかったよね」二郎丸さんが確認します。
「そうですね、テンプレートでよくある高ランクの方の防衛義務とか、指名依頼で拒否権がないとか、貴族との付き合いがどうとか、それらの柵は、システム上はありません」
「まあ、人情とか社会的な評判とかで縛られることがあるのは、別にどの世界でも同じだーな」八兵衛さんが、言葉の裏を解説いたします。
「所在地の確認とか、税金の支払いとか、ポイントの管理とか、魔物素材の買取とか、ミッションの依頼、受注とか、パーティの編成とか、拠点の設定とか、冒険者免許の教習と更新とか、まあ、結構と多岐にわたる機能がありますし、パーソナルカード、ええとそちらの世界ではマイナンバーとか言うんでしたっけ?それに紐付いた身分証明書とかも用意できますから、まあ、使用しない手はないかと思いますよ?」
「国民総背番号制度でしたっけ?」二郎丸さん。
「扱い的にはsinかな、”影走り”するときによく偽造したっけなー」八兵衛さん、が少し物騒な回想をしていますね。
「ええと、こちらでは偽造はしないでくださいね、まあ、神様関係の技術が組み込まれているのでまずごまかしはきかないでしょうが、万一やると、極刑も免れませんよ」
「へい、まあ、迷惑はかけませんよ、サクラちゃん」
「冒険者ギルドで登録した後は、街の施設とかの案内です。基本的な日用雑貨、食料品、衣類販売店、武器屋、防具屋、本屋と、スクロールショップ、ドラックストアに、ネットカフェと、食事処くらいはざっと回りましょうか?」
「ええと、多い?というか耳慣れないお店やさんがありましたね」二郎丸さんが聞き返します。
「大丈夫ですよ、危ない路地とか迷い込まない限りは、結構治安は良いですから、ええと、渡航制限はされないレベルですから、大丈夫です」にぎりこぶしで力説しています。
「いや、それ、安全の基準が違うから!」
「だから、場所だけ確認したら、またゆっくりとそれぞれ行きたいところへ、勇者様個人で行ってくださればよろしいかと。もちろん時間を合わせてくだされば、ゆっくりと私が再度案内しますよ」
「差額ベットで、総鏡張りの個室とか、二人っきりで案内してくれる?」ちょっと肩を組まんばかりに、誘っている八兵衛さんです。
「一応私、ロイヤルな家系ですので、あまりおいたが過ぎると、物理的に、首と胴が離れますよ?」可愛らしく首をかしげながら、その手を交わすサクラさんでした。
「ははは、怖い怖い、でもそういう障害がある方が、おじさん燃えるんだよなー」
「まあ、最近は、身分なんてあって無きが如しですけれど。基本君臨すれど統治せず、で、間接民主主義ですからね。まあ、地域によっては、無政府主義で直接コメント主義とか、すごいところもありますけど」「なにそれきになる」「それはともかく、私たち王族が、築き上げてきた歴史と戦力はそのままですから」「それはそれで物騒じゃないかな?」
「まあ、勇者様たちが出張れば、そのような勢力もどうにかなっちゃうんですし。うちの神様はそこそこ信者の幸せを大事にするので、あまり悲惨なことにはならんいですよ。社会基盤も資産が潤沢で、しっかりしていますしね」
「ユートピアみたいですねぇ」夢見るように言っているのは茜ちゃんです。
「言うなれば、直接神威主義?独裁者が神様のような人ですから、問題ないんですね」
「それはそれで、危ういのだけどね」ぽつりと聞こえないように言っているのはシルフィさんでした。「ま、あまり関係ないかな?」
「明日の最後に勇者たちの住居へ案内しておしまいおしまいですね。国営の住居施設で、最低限のプライバシーは守れるように作ってますよ。ああ、前日のご希望通り、二郎丸さんとシルフィさんは同居タイプの部屋にしてますので」
「えっといいのかな?一応血は繋がっていないんですよね」と茜ちゃん。
「問題ないね、むしろ来るならウエルカムよ」なぜか片言で、ウインク+サムズアップ+舌ぺろ出し、のシルフィさんと、きゃあと言って赤くなる茜ちゃんと、無言で赤くなる睡蓮さんです。
「あまり壁は厚くないので、配慮してくださいね」こっそりと二郎丸さんに、耳打ちするサクラさんです。
「いや、そんな命知らずなことはしませんから」疲れたようにコメントする二郎丸さんでした。
「お家賃は、基本勇者機構から出ているのでただです。光熱費も常識の範囲ならただですが、自前の魔力を使用する方が楽だと思いますね。オプションでネット環境も整えられます、ポイントがかかりますが」
「うわーい、引きこもれるぞー」八兵衛さんが言うと。
「まあ、食費も最低限用意されますけど、基本召喚された勇者様は、最後まで諦めなかった強い心の持ち主ですから、結構自主的に社会活動とかアクティブに動くんですよ、だから心配していませんね」にっこり笑ってプレッシャーをかけるサクラさんです。
「へえ、そうなんですか」
「もし仮に引き込まれても、社会に迷惑をかけないように、隔離に成功したと見れば、勇者の影響力を考えるとむしろ、結果的に若干プラスかもしれませんし」にっこり笑って、黒い内容を爽やかに言い放つサクラさんでありました。
「「お、おう」」
翌朝です。睡蓮さんと茜ちゃんは無事レベルアップを済ませています。シルフィさんは相変わらず変化なし、身体データを記録して、あとは研究機関へ現象解明は丸投げのようです。
「はいでは街までは、車がありますのでそれで行きますね」
「あるんだ車」
「ガソリンによる内燃機関は環境問題が気になりますので、自動詠唱の小規模爆発魔法で代用しているそうですよ、燃料は魔石です。ちなみに爆発という現象のみを取り出しているため、燃焼しているわけではないので排気ガスは0です」
「いや、物理仕事しろよ、というかエントロピーとかどうなっているんでしょうかこの世界」二郎丸さんがツッコミを入れています。
「思っていた通りに緩くて安心」シルフィさんが呟いています。
30分ほどの安全運転(免許取立てなんですよと嬉しそうに言うサクラさんが運転手でした)で、一向は街に到着しました。
「ようこそ、『始まりの街』へ!」街の門をくぐる時に、振り向いてサクラさんが言いました。
「「「「「前、前!」」」」」一斉のツッコミです。少しブレましたが無事に冒険者ギルドに到着しました。
「はい、到着です」
そこは、大きなガラス張りの食堂のような形をしていて、実際窓際には、座席とテーブルが用意してあって、食事をしている男女がいたりしました。自動扉を抜けると、食堂のスペースとは逆の方に、カウンターがあって、その奥で職員が仕事をしている風景が見えます。
何やら手続きをしているのでしょうか、カウンターで書類を書いたり、受付の職員とお話しをしている人たちもいます。番号札を取って、ソファーで順番待ちをしている人達もいます。
朝食後、しばらくの時間帯、およそ10時くらいなので、食事処は閑散としているかと思えば、結構な人数がビールジョッキを片手に歓談をしています。
「ええと?あれは?」お役所仕事区間と、お食事どころというか宴会場が併設されていることに、ちょっと違和感を感じつつ、二郎丸さんが質問します。
「ええ、冒険者ギルドに酒場が併設されているのはテンプレートですよね?と言うことで、昔からの伝統で、こうなっているんですが、最近は『あれ、なんか違くね?』と言う疑問を持つ方も、一定数いるようですよ?」
「あ、やっぱりこっちでも疑問に思うもんなんですね」
「まあ、冒険者って基本荒事専門なので、羽目を外したくなるほどのストレスがたまるのも理解できます。なので、それなら、目の届く範囲で騒いでもらおうかな?とかいう目論見もあるようです」
「というか、昼間から呑んだくれているのが冒険者なのか?いいねえ」羨ましそうに見ている、八兵衛さんです。
「まあ、当たればデカイですから。ちょっと大金を稼いでパーと使うとか、結構ポピュラーな展開ですよ」苦笑しながらサクラさんは言いました。
「「「はあ」」」
「ヤクザな商売?」ぽつりと言う茜ちゃんです。「し」人差し指で黙ってねと言う睡蓮さんでした。