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4_足りぬならサプリで補う経験値

「簡単に死亡されても、困ります。さらには、あまりにも低いレベルですと、最低限の労働もしづらいでしょうから、それを補填する仕組みがあります」

「あるんですか?」

「はい、あるんです。簡単に言うとドーピングです、極めて安全な部類のですよ、健康食品をとるみたいな感覚で、服用するとレベルが上がります」安心させるように、ゆっくりと言うサクラさんです。

「ええと、それはつまり、レベルアッ」「おっとそこまでにしてもらおう、なんだか危険な単語を口走っている気がするぜボーイ」「なんですかそのノリは、八兵衛さん」


「バッファリアでは低すぎるレベルは治療対象なんですね。健康保険もききますよ」

「あるんだ健康保険、異世界半端ないですね」二郎丸さんが感心しています。

「勇者様たちには、勇者保険組合の健康保険に自動的に加入されることになりますよ、これは勇者基金機構の包括組織ですね」さらりと説明をするサクラさんです。

「勇者基金機構?言葉の響きからすると、異世界転移勇者の互助会みたいなものですか?」二郎丸さんが訊ねます。

「過去の転移勇者様が中心になって、立ち上げた組織ですね。貢献ポイントを積み立てておいて、そのポイントを運用して増やしたりしながら基金の資源とし、勇者様の生活におけるセーフティネットを担う活動をしています、職員には、転移勇者様も何人か所属してますので、冒険者を引退した勇者様の天下り先としても人気がありますよ?」

「ほう、それは何か儲け話の匂いがするな」黒い笑みを浮かべる八兵衛さんです。

「財務状況は健全ですよ?何しろ資産運用の損失分は、直接所属勇者様が補填していますから」

「えっとそれブラック臭がしますよ」引いている二郎丸さんです。


「さて、食事も終わりましたし、簡単な説明はこのくらいにしてですね、次は”解析の水晶球”を使用してみましょう、場所を移しますね」

「病院内にあるんですか?」

「”解析の水晶球”の仕組みはよくわかってはいませんが、複製はできるのですよ、まあ、コストと時間が結構かかるので、大量には用意できないのですが、主要施設に一つくらいの割合くらいなら用意できますので」

「なるほどそうなのですか」


「個人情報ですので、一人一人別々に鑑定しましょうね。治療の一環なので、医療従事者と専任アドバイザー、ええと私のことですね、には情報が開示されますが、不必要な開示はしませんので、安心してください」

「はいそうですか」

「大丈夫ですよ、セキュリティは完璧です!」立ち会う白衣の先生が宣言してくれます。

「なんのフラグですか」突っ込むのは二郎丸さんです


「ではまず二郎丸様からですね」

「よろしくお願いします」

 オペレータ役の医療従事者、技師という立場らしい白衣の先生と、サクラさん、それと二郎丸だけが個室に案内されます。

 個室の中央には、直径が15センチくらいの水晶球が台座に固定されて置いてありました。

「その水晶球に手をかざしてください、しばらくすると、生体波長を自動的に読み取って反応しますので、ええと言語選択は日本語でOKです。選択肢を軽く触ってください」

「ええとタップすればいいのかな?」「その通りです、間違えたら戻るボタンをタップするか、右へ画面をスワイプさせてください、音声認識は切っておきますね」白衣の先生が指示を出して、それを聞きながら、水晶球を操作していく二郎丸さんです。


 そして水晶球に現れた二郎丸のステータスを確認していきます。

「レベルは3ですね、異世界渡りとしては高い方です。技能は剣術でスキルレベルは高いですね、加護に『武器補正:刀』がありますね、世に言う剣聖とか、剣鬼とか、が持っている加護です。称号が『全てを断ち切る者』がありますから、切るという概念に強い融和性がある勇者様ということになりますね、能力値はこちらの世界の平均には届いていませんから、後でサプリを出しますね」

 白衣の先生が、何やらカルテに書き込みつつ、診察をしていきます。


 同様に、雲井八兵衛も確認していきます。彼のレベルも3で、各種工作技能に満遍なくスキルレベルが振られていました、『技能補正:罠』『技能補正:詐術』『技能補正:身体操作』など、どこの某国エージェントですか、というような補正をボロボロと所持していました。称号は『トリックスター』で、その実力は絡め手を使わせたら、一軍に匹敵するとか。能力値は低めなので、サプリ対象です。

 

 最後にシルフィーさんですが。

「なるほど、レベル1で、技能なし、補正もなし、そして『呪い:効果不明』という称号があると、その代わり能力値はこちらの世界の平均値くらいですね、ううむ、これはどうしたものでしょうか?一応経験値UPサプリメントは出しておきますが、よう調査対象ですね。どうでしょう?その『呪い』詳しく調べたいのですが?」

「報酬は出ますか?」

「研究費から出るかもしれませんね。申請しておきます」

「では、報酬と拘束時間次第でお引き受けします」

と、いささか不穏な状況でした。

 まだ目覚めていない二人については、後日検査だそうです。本人確認がいるシステムなので、意識が無い状態だと調べられないとのことでした。


「サプリメント形式です、こちらの錠剤を、就寝前に一錠、服用していただくことになります」個包装されたパッケージ(中身が見えるタイプ)の錠剤を薬局で受け取る3人です。

「やっぱり薬局と医局は別なんですか?」シルフィさんが訊ねます。

「そうですね、少し役職とか持つ技能とかが違うので分かれていますが、別に兼ねていても構いません。どちらかというと、フィールチェックのために、相互監視を深めるため行っている、と思ってくれて結構ですよ?」答えてくれたのは薬剤師さんでした。


「ええと、これでだいたい必要なことは伝えましたね。解析の水晶球を使用した結果、シルフィさんだけが、どうやら巻き込まれ召喚らしいという疑惑が高まりましたね」

「いい、別に。”丸”と離れたくなかったし」淡々とシルフィさんが言いました。

「そうですか、過去にそのような事例もなかったことはないです。貢献ポイントは正当な取引であれば魔物退治など荒事以外でも増やせますし、色々と考えてみましょうね?」

「大丈夫、私には”丸”がある、違った、いるから」ちらりと視線を二郎丸に向けるシルフィさんです。

「その通りです。シルフィ義姉さんから僕が離れるわけないじゃないですか」強くいささか食い気味に肯定する二郎丸でありました。

「うーん、お熱いことで」茶化しているのは八兵衛さんです。

「本当ですね。仲良きことは美しきかなです」

 食事の場所や、入浴施設、など館内の設備を一通り説明して、建物の中で関係者以外立ち入り禁止区画や、プライベートな箇所以外は自由に移動していていいですよ、との説明を受けて、一同解散となります。

「何かありましたら、館内のスタッフに声をかけてくださいね、私か、事情を知っている人が来ますから」と行って、サクラさんは去りました。



「さて、これで二人きりですね」

「ん」

 二郎丸さんと、シルフィさんは、シルフィさんの目配せ指示によって、病院の温室を訪れています。周囲には彼らしかいません。暖かな南国を再現している施設には、色とりどりの花が咲いています。

 くるりと、身体を回転させて、周囲を、観察するシルフィさんです、そしてそのままポスンという音を立てて、彼の身体に抱きついて密着します。

「シルフィさん?」確認の口調です。結構冷静です。

「うん、基本バイタルチェックを遠隔で行っている程度の”術”みたいだけど、念のため。音声データは細工しておいた。少し離れて”見て”いるものには、甘い恋人同士の語らいが聞こえるはず」

「元ネタの会話集どこで入手したかが知りたいですね」

「ハジメとアカのやつ」

「それ、後で僕にも聞かせてください」

「?死にたいの?止めないけど」

「やっぱり無しの方向で、それ、そんなに赤裸々なやつなんですか?」

「普通の人なら砂を吐く程度?」


「今どうなっているんです?それからどうします?」

「ステータス関連は能力値のみ偽装済み、レベルは『呪い』で1から上がってないので、これはそのままに、調べたがっていたから、報酬次第で許可する予定」

「大丈夫なんですか?その、正体とかバレません」

「その辺は問題ない、格下だから。そもそも私は普通の人間」

「信じられないのですが、嘘じゃないところが、詐欺だと思います」

「人間努力すれば大抵のことは可能になる」

「それはともかく、師匠、」「師匠じゃない、先生と呼べ」「シルフィ先生」「なんだ?」

「あなた、あの時僕を殺したでしょう?」

「ノーコメント」

「目をそらさないでください!最後に『あ』って言ったでしょう!」

「死線を超えた先に真の上達がある」

「本当に超えたら修業にならんでしょうが!」

「問題ない、その時はあの世からまた連れて帰る」

「それ死ぬ前の僕と同じですか?」

「素直に言うことを聞く良い子になっているから、死ぬ前より優秀?問題は死んだ魚のような目になって、うめき声くらいしか喋られなくなることくらい」

「自我なくしているじゃないですか!嫌ですよ!」

「冗談です、ゴメンなさい、ちょっと注意力がサンマでした、手が滑った?」

「焼き魚ですか!いや、ええと先生が気をとられるって?」

「うん、次元に働きかける力が、張っていた網にかかった。ちょっと意識を向けたら、手加減忘れた。ゴメンゴメン」

「察知した瞬間に転移条件を把握」

「ぎくり」

「ちょうどいいように僕を追い詰めているから、止めを刺して、こちらに誘導させて相乗りしよう」

「ぎくりぎくり」

「とか、考えて、撃ちぬきましたね?」

「大正解」笑みが可愛いです。凶悪なまでに。

「はあああ、なんでそんな博打みたいなことを」

「私、次現移動は苦手、そもそもあの”日本”は硬すぎて、無理に移動しようとすると、世界を壊しそうだったから、向こうの”術”?”奇跡”?に乗りたかった。ちなみに、条件をきっちり守ったのは、保険。無理そうだったら、改変して移動していた」

「えっと、僕死に損ですか?」

「結果的には、でも安全度は高くした方が良いので、あれはあれで最適解?」

「はあぁ」

「ため息をつくと幸せが逃げるよ?」

「まだ残っているんですかねぇ、僕の幸せ。それでこれからどうするんです」

「修業の続き。君をまあ、一人前になれそうな道筋の入り口までには立たせておきたい」

「先生、評価が辛すぎるんですよ、でもそれが最初ということは、お別れですか?」

「ん、思った通り、この世界は柔らかい。これなら、ちょっと工夫をして時間をかければ、さらに柔らかいところに飛べるか、知り合いに気づいてもらうのが早くなりそう。安心する、いきなり消えたりしない、時間はこちら側にはたくさん余裕がある」

「じゃあ当面は、冒険者とかで僕が稼いで、先生がお留守番、に見せかけて、余人の目がないところで修業の続きですか」

「そう、ついでに君は魔物を倒して、レベルをあげるといい、ただしスキルはオートに頼らりすぎないように、私との組打ちで死んじゃうから、まあそれでも生き返らすけど」

「ゾンビは勘弁してください。基礎体力が上がるのは嬉しいな」

「ん、そろそろ上げておいてもいいかなとか思っていたから丁度いい、渡りに船」

「ところで、この経験点増加サプリメントって大丈夫ですか?」

「毒性はない、用はこれも魔石とかの一部。吸収しやすいように加工してあるだけ」

「ふうん?ならレベルアップは全部これで済ませた方が効率的?」

「多分、ここでも、上のレベルになるにつれ、加速度的に必要な経験点が上がるから、その程度だとかなり非効率。コストが馬鹿馬鹿しい」

「ええと、これかなりお高い?」

「製造コストだけで1万円くらい?末端価格だと、錠剤一つ5万円くらい?ちなみに10レベルから11レベルに上げる程度でも、そのサプリ、100個はいるね」

「ええと、100万円ですか?」

「売値だとその5倍」

「うん、効率悪いですね」

「今は元のレベルが低いから5レベルくらいまでには上がるはず?」

「へえ、一晩でプラス2レベルか、そう考えると破格ですね、ところで先生にも効果あるんですか?」

「多分ある?効果完了時間次第?午前零時でリセットされるから、レベル自体は上がらないけど」

「ズルっぽいなぁ」

「その程度なら、普通に魔物を狩ったほうが早いし安い」

「それで基本僕は、元の世界に帰還する方向で」

「そう、ハジメとアカとかによろしく、まあ、まだ先の話だけど、あと、帰還後の活躍もお祈りしておきます?」

「いいです、修業のあとなら、ある程度の相手に遅れをとる気がしません。このくらいですかね、あとはまた明日」

「油断はしないように。そうだね、また明日」「って、顔を近づけてどうするんです!」「おやすみのキスだ」「僕を殺させる気ですか!」「演技だよ、本当にはしない。そもそも、君が黙っていればハジメは気がつかないと思いけどね」「あんた相手には、エスパー並みの感のよさを誇るんですよ!」「わかる気がするが、君が抵抗できる立場か?」「ううう、汚されちゃった」「酷いなぁ」

 軽くキスとしたフリをして、別れる二人でありました。二郎丸くんは少し涙ぐんでいました。


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