3_ポイントを貯めていこうよ異世界へ
「それでですね、有名な言葉に『レベルを上げて物理で殴れ』というものがありまして」
「サブカルチャーの影響度、たけーなオイ」呆れている二郎丸さんです。
「これ、バッファリア(ここ)では、顕著に当てはまるんですよ」
「はあ」
「ちょっと見ていてくださいね」テーブルの上にあったフォークを手に取るサクラさん、そのフォークが、まるで粘土細工のように丸められてこねられて、瞬く間に、かわいい、うさぎ?に変形していきます。ちょっといびつですが。
「あまり、筋力へはパラメータを振っていませんけど、結構私レベルが高いので、このくらいはできるんですね、器用度はそこそこなので細工は得意なんですが」ニコニコと笑っています。
「「あ、はい」」下手なことは言えませんね、ああ、と、ニッパチコンビはアイコンタクトを交わしています。
「戦闘職ではなくて、一応乙女のたしなみというか王族のたしなみの護身術程度しか収めていない私でもこのくらいはできる、というのが、レベル制の強さでもあり、怖さでもあるわけなんですね。そうそう、力の制御も含んで、レベル上昇の効果が現れますので、うっかりして握りつぶすとかはないですから、安心してくださいね」にっこりと。
二郎丸さんと八兵衛さんは、ちょっと顔色を青くしつつ頷きます。
「当面の目標ですが、まずはこちらの一般人並みにレベルを上げてもらいます。とっさの時に低いままだと命に関わりますからね」
「ええと?おそらくテンプレートだと、元の世界には戻れない、パターンだと思うのですけど?もし、次元を超えて戻れるとするとレベルを上げると、邪神とか相手に、目立って不利なんじゃないでしょうか?」二郎丸さん質問をします。
「あ、すいません説明が抜けていましたね、元の世界には戻れます、でもレベルは上げておいた方がいいです」
「???」疑問符が並びます。
「ええとですね、うちの神様の能力で、召喚された時と場所に戻す、ということはできるんですよ。それを行うには幾つか条件があるんですけど、説明を続けますね?」
「はいサクラ先生」
「照れますね。まず、最初の救出された分の異世界召喚分のコストを稼いで、神様に支払わないといけません。これは、神様への貢献度とかがポイントになって溜まっていきます。基本、魔物を退治したり、この世界に貢献したりするとたまります、これを貯める時に高いレベルだと有利、というか、そもそもレベルを上げていかないと、ミッションの難易度的に、ポイントは貯まりません。」
「ええとサービスで送り返してくれたりは?」
「因果律の関係で無理だそうです、テンプレート的ですが、この世界では真実ですね」ちょっとお気の毒な感情を表してサクラさんが言います。
「それで、こちらへの救出分のポイントを支払ったら、今度は転移する方のポイントを貯めていきます、その後ポイントが一定数たまりましたら、異世界転移が行われるわけですね」
「なるほど、ありそうな展開ですね」
「そこでまず第一の問題点なのですが、うちの神様の能力、権能とか言ったりもしますが、あまり強くないので相手側の世界、その因果律とか運命とかと直接操作できません」
「なるほど、幼女ですものね」「見た目通り若い神様ですから」
「なので、召喚されたその時その場所に戻されるわけですね」
「あーなるほど、確かにレベル上げとかないときついわ」納得の表情の八兵衛さんです。
「ああ、つまり、危機的状況から救い上げたはいいけれど、戻る時にはその危機的状況にそのまま戻されると」
「はい、でもこちらであげたレベルとか技能とかは引き継げますので、それを利用してその危機を出っする分には、あまり因果律とかに関わらないのだそうです、レベル上昇に伴う能力値の上昇などの恩恵は、その個体に紐付けられるので、世界を渡っても効果が続くのです、魂のレベルが上がると階梯が上がるとか、言っても良いとかだそうですよ、神様曰く」
「なるほど」
「ある程度、レベルを上げれば、そうですね、控えめに言っても拳銃とかマシンガンとかの、携帯できる武器では傷一つ負うことがなくなるでしょうね。ゲーム的に言うとバイタリティとかヒットポイントが大幅に上昇するというところでしょうか?」
「はあ、本当にゲーム見たいですね」二郎丸さんの感想です。
「ええといいかな?邪神様とかに目をつけられるとかはどうなっているんだい」八兵衛さんが訪ねます。
「問題になるのは、送り出す方ではなくて、届けられる方の世界ですから。到着先の戦力がロー側に傾くのが問題で、それとバランスをとるために、カオス側の戦力が投じられるわけですので、こちら、バッファリアの世界には何にも問題はないんですね。むしろ戦力が減ったとカウントされて、邪神さまサイドの戦力が少なくなる可能性もあるわけで」
「ええっと、そうすると、戻った世界が危機に陥るんじゃないですか?」二郎丸さん鋭い質問ですね。
「理屈としてはそうなんですけど、勇者さまたちの”日本”世界って、すでに数ある次元の中でローとカオスの戦力が過剰なまでに集中されているんですよね。なので、今更それが増えても問題ないのではないかな?というのが、こちらの神様の認識ですね」
「結構無茶苦茶な状況だったんだ、うちの世界。いや言われてみれば思い当たる節もちらほら?」あっけにとられている中、周囲の環境を振り返る、二郎丸さんです。
「あー、こちらも前の職場に人間離れしたやつとかいたなー、そーかーあれかー」八兵衛さんにも思い当たる節があるようです。
「それにですね、あちら側の、非公式な連絡というか見解なんですが、”日本”世界の神様とか”地球”世界の神様とかは、早めにレベルを上げた勇者を、戦場へ帰還させて欲しいな、という要望すらありまして」苦笑いのサクラさんです。
「えーと、レベリング用の特別ステージ扱い?ですかバッファリア(ここ)って」二郎丸さんが呆れています。
「何しろ、”地球or日本”世界は世界設定がリアルに寄っている場合が多いので、レベルアップによる能力値補正がやりにくいんだそうですよ。
ここまで話して何ですけど、ここだけの話にしておいたほうが良いかもしれませんね、この話題」周囲を気にするサクラさんでした。
「ええと、召喚された勇者って、やっぱり結構元いた場所に戻ったりしているのかな?」二郎丸さんが、話題を切り替えます。
「そうですね、半分半分くらいか、少し多いくらいの人は、こちらに残ってますよ。元の世界で、血縁が薄かったり、しがらみがなかったり、そもそもこちらのほうが性にあったりとか、理由はいろいろです。結婚相手がこちらで見つかったとかもありましたね」にっこりと笑いながら。
「生まれる前から愛してました、とか言ってあなたにアプローチをかけても?」八兵衛さんがニコリと笑いながら尋ねます。
「その辺は、自由恋愛ですので~」
「テンプレートだと勇者をこの世界に引き止めるために色仕掛けとかするんですよね」二郎丸さんがちょっと期待して言います。
「”丸”」冷たい、本当に冷たい呼びかけが、シルフィさんから放たれました。
「いや僕はそんなのには引っかかりませんけどもね!」ビシーと背筋を伸ばす二郎丸さんです。
「俺は、積極的に引っかかってみたいなー」だらしなく笑う八兵衛さんです。
「そういうのは私の担当ではないんですよ、でも気をつけてくださいね、こちらの世界でも、恋愛がらみのいざこざは、とても事態をややこしくしますから」
「「あー担当要員自体はいるのね」」
「出会いを提供するくらいですよ、婚活と同じレベルです」ちょっと顔を赤らめるサクラさんです。
「異世界で婚活とか、新しいのか?」
「どうかな?『異世界 婚活』で検索してみたらどうだ?」
「大手検査サイトで、627,000件ほどヒットしてますね」サクラさん手元の端末を操作して結果を伝えます。
「うわ、人間考えることは同じなのですね」
「まあ、元の世界での活動をそのまま異世界でやる、というのは結構、考えやすい発想なのでしょうね」
「しかし、本当に簡単にネットにつながるのですね、その端末僕も手に入りますか?」二郎丸さんが訊ねます。
「貢献ポイントでも引き換えられるアイテムですね、それほど高くありませんよ?5万ポイントくらいでしょうか、ちなみにわかりやすく1ポイント1円くらいの価値とか思ってくださって結構です」
「あー、元の世界の端末並みなのですね、ということは、使用料とかも?」
「無制限使用で月2万ポイントくらいですかね?固定端末との併用ですと、ぐっとお安く、月5000ポイントくらいで運用できますよ?」
「どこぞの通信会社の回し者ですかあなたは」突っ込む二郎丸さんです。
「貢献ポイントですが、基本的には働けば賃金代わりにもらうことができます。通過の役割もしてますから。むしろ、それだけをそのまま奪うのが難しいので、金銭とか貴金属よりも安全かもしれませんね、まあ、その使い方はまたおいおい説明しましょう、実地で稼いだり使ったほうがわかりやすいですし」
「ところで、異世界転移のポイントっておいくらなんですか?」二郎丸さんが訊ねます。
「ええと救出転移も原点復帰転移も同じく500万ポイントですね。合わせると1000万ポイントでしょうか?」
「なんでしょう、その微妙な料金設定、円でいうと1000万円ですか?妥当な料金なのでしょうかね?」
「あ、救出転移ポイントは強制徴収ですか?それだといきなり借金だなぁ」
「利子とかはありませんし、こちらで骨をうずめるのでしたら、お亡くなりになる時に自動的にポイントが500万入りますから、問題ありませんよ?」
「あれ、なんか魂的なものを担保にしているように、聞こえます」
「それほど、ブラックな話ではなくてですね、こちらの世界に魂的なものが循環する最初の時に、結構なポイントが入る、らしいですよ。異世界人勇者限定ですが」
「なるほど、最初の転移による必要貢献ポイントは、世界間の、移籍の報酬と相殺される、と考えたらいいわけですか」
「ええ、そうですね、ですから先に救出転移ポイントを返さないで、他の商品と交換することもできますよ?オススメは先ほどの端末とかですね。あとせちがない話ですが、生活費も必要です」
「確かに、せちがないない話ですね」
「食事は大事です」シルフィさんがこれは大事とばかりに言います。
「ポイントの稼ぎ方ですが、基本的には魔物退治とかダンジョンアタックですね、もしくは、生産活動とかでしょうか」サクラさんが指を三本立てて選択肢を示します。
「そのあたりも、定番のお話ですね。なんだかオンラインゲームのようです」二郎丸さんが言います。
「魔物の位置付けは?」シルフィさんが質問します。
「世界の因果律、ローとカオスのバランスをとるための、カオス側のギミックとか設定されていますけど、現実的にはリソース、資源ですね。減らしても定期的にどこからかやってきて増えるので、資材の調達やら、魔石の確保やらで重宝しています」
「牧場とかありそうですね」二郎丸さんが言います。
「過剰な攻撃性を制御できない問題と、稼働状態で囲っておくといつのまにか消えてしまうので、今の所畜産に成功していないみたいですよ」
「なるほど」頷くシルフィさんです。
「なので、基本はオープンフィールドで狩っていただくか、閉鎖フィールド、各種ダンジョンですね、そこで討伐していただくか、など、することになります。そこで手に入れた魔物の各種資源やら、魔石やらを、冒険者ギルドでポイントに変換していくことになります」
「あ、やっぱりあるんですね、冒険者ギルド」二郎丸さんがそうですよねーという感じで相槌を打ちます。
「ええ、それも神様の直轄で。定番ですね、各地に支部とかあって、冒険者カードがあって、ネットワークが完備されていて、貢献度によってランクがあったり、まあ、その辺りは実際に行ってみるとよろしいかと、後日案内しますね」
「ええとどのくらい稼げるのでしょうか?」二郎丸さんがこれも大事と質問します。
「ミッションの難易度によって、ピンからきりまでですが、月手取り15万ポイントくらいには最低稼げるでしょうか?土日は休むようにする程度の仕事量ですね。パートタイム的な冒険者ですと、月4、5万くらいですかね。もちろん高度なミッションやら、レア狙いの討伐とかなら、報酬は天井知らずですよ、あくまで安全度を最大限とる、と最低それくらいということで」
「短期で稼ぐなら、高難易度ミッションで、ですか」それ狙いで行きますか、シルフィ義姉さんとか視線で語る二郎丸さんです。
「当然死亡率も高いですが。あ、こちらで死んだら終わりですから、その辺りは気をつけてくださいね、死者蘇生とかはありませんので」
「あー、死に戻りは出来ないのですね」
「そんな、ゲームじゃあるまいし、ですよ」
「あ、いや、ここまでゲームみたいな設定で押していて、それは無いような」苦笑いな二郎丸さんです。
「テーブルトークRPGならそれほど珍しい設定では無いよ、死者蘇生不可は」補足するシルフィさんでした。