21_本当に、それでいいのか?大団円
「くはあ、意外と苦労したなこれ」八兵衛さんが地に叩き伏せた最後の天使を見ながら言います。
「まあ、この際ですから、連携技とか色々試させていただきましたから」二郎丸さんが、刀を仕舞いながら言います。
「新装備の慣らし運転を兼ねていましたしね」サクラさんが、神々しいばかりの鉄扇をたたんで、言います。「これ材質多分オリハルコンとかですね、で、何重にも強化エンチャントをしています」
「あのダンジョンにあった武器防具ですよね、これら」重装鎧の奥から可愛らしい茜ちゃんの声が響きます。
「あのドタバタの最中にしっかり回収しているんだもんな、ちゃっかりしている」睡蓮さんが、これまた神々しい竪琴を手に構え直して、言いました。
「お、こいつまだ息があるみたいだぜ?」見ていると吸い込まれそうな、漆黒の刃、を手に持った八兵衛さんが倒れている最後の天使を指し示します。「止めをさすかなぁ」
「待って、何か言ってるみたいですよ?」サクラさんが言います。「何でしょう?天使語でしょうか?」
『”丸”チューニングを合わせて、聞かせてあげて』
「はい、ええと、いいんですよね?」『その権利は十分にあると思うよ?』
ここを、こうして、と、天使のそばの空間を何やらいじる二郎丸さんです。
「はいこれで天使の声のが聞こえますかね?」
「うん、ちょっと聞こえづらいな、ああ、そのくらいの音量がいいな、て、これは何とも」
「あらまあ」睡蓮さん。
「えっと」茜ちゃん。
「(顔面蒼白になって立ち尽くしています)」サクラさんです。
銀色ののっぺりした天使の口からは流れてきた文言は、
「この世界は、他の、多数の神様から、著作権を侵害しているという訴えがありましたので、削除いたします」
と繰り返し、繰り返し、話されているメッセージでありました。
「「「そうくるか!!」」」
盛大なツッコミと同時に、銀色天使の軍団は、シルフィさんによって狩り尽くされたのでありました。
「ううううう」ショックが大きすぎて未だに立ち直れないサクラさんです。
「トドのつまりは、幼女神様とショタ邪神様が、違法にコンテンツをダウンロードしたせいで、他の世界の神様が、このあたりの異世界軸を管理運営している団体に訴えたわけですね」
「へえ、世界にも著作権とかあるんですね」茜ちゃんがシルフィさんの解説に相槌を打ちます。
「それは、そうだろうな、苦労して作り上げた世界を何も努力しないで、簡単にコピペされて、魂を誘い込まれて貢献度、神様の通貨的なものを吸い上げられたら、新しい世界を作ったり、それを維持するモチベーションが下がるものなぁ」八兵衛さんが、議論に乗ります。
「それで、何で幼女神様、そんな真似を?」
「神殿(本部)に問い合わせてみました、」よろよろと立ち上がるサクラさんです。「幼女神様が丁度降臨してきたので拘束して尋問したそうです」「あ、さすがに神殿関係者には通達があったんだ」二郎丸さんが納得します。「天使が現れる直前でしたが、それで我らが幼女神様曰く『知らなかったのじゃぁ!パパ様がこうすれば楽に儲かるぞ、といったので言われた通りにしただけなのじゃぁ』とのことですね、ちなみにす巻にして吊るしてあります、逆さまに」後で殴りに行こうそうしよう、と暗い表情でつぶやくサクラ様、(姫御子、宮仕え17歳)でございました。
彼らは、レジャーシートを敷いて、車座になって、お茶を飲みながら、話し合いをしています。
「ええと一応これで事態は解決したということになるのだろうか?」八兵衛さんがそう発言します。
「根本的な問題がまだ解決してません。今回のは時間稼ぎともう一つの目的がありまして、そろそろ来るかなぁ」ちらりと、懐中から時計を取り出してみるシルフィさんです。
「来てますよ。もうひどいじゃないですか、天使(備品)もタダじゃないんですよ」ヒョイ、という感じで、彼らのそばにいつの間にか、スーツ姿のくたびれた男が存在していました。
「全く気がつかなかったんだが?」「安心してください僕もです」
「あ、お待ちしていました、お茶入りますか?」シルフィさんは動ぜず応対します。「ありがとうございます、あ、お茶菓子は結構です、最近ウエスト周りが気になっているもので、あ、私こう言うものでして」ぺろっと、名刺を差し出すサラリーマン風の天使でさんです。
「あー、法務局の、実働部隊のエリートさんですね。ウリエル様御健勝ですか?」
「いえいえいえ、エリートなんてとんでもないです。なかなか業務に能力が追いつかないので、日々残業の毎日でございます。ウリエルさまですか、ええ、相変わらず本部に詰めっぱなしで、なにしろまだ、あれですんで」
「ああ、じゃあまだ四大は欠けたままで?」
「そーなんですよ、ガブリエルさま、まだ地獄とかへ出張(堕天)中でして、あ、ここだけのお話にしてくださいよ。シルフィさま」
「わかってます。でも天使の方に様付けされるというのは、面映いですね」
「とんでもありません、発起時に7日間しか働かないで、後ずーと引きこもっていた、我らが父(社長)の、ケツを叩いて部屋から放り出した逸話は、もはや伝説となって幾星霜と語り継がれる案件でございますよ」
((((何やってるんですかシルフィさん))))
(さすがですシルフィ姉様)
一斉に心の中でツッコミを入れる面々でございます。
「おかげで少し業務が楽になりまして、僕なんて今日はこれが終われば直帰できるんですよ?娘の寝顔じゃない姿に出会えます」
「あー、それは、じゃあちゃっちゃと済ませましょう?」ザラザラとその手に、天使の核となった魔石を渡すシルフィさんです。
「幾らかは破損しているけど、まあ、大体は揃っているから、問題ないよね?」
「はい、許容範囲ですね。相変わらず手際がよろしいですね、いやあ驚きましたよ、誰が許可したんだか、”削除天使群”がいつの間にか出払ってしまいまして。でそれに気がついたのが、その天使群がほとんど潰されていた時でして、こりゃあどうしたことか、と出張ってみたらば、13時間の奇跡の立役者が居られたわけでして」いやあ、感激です、後でサインもらえますか?妻がファンなんですよ、もちろん私もです、と言って、にへら、と笑うサラリーマン天使でありました。
「後は、これが、こうで」「はい、ええっと?」「こうなっているから」「いやしかし?それではあまりに」「大丈夫、こっちにもメリットがあるし、これから忙しくなるから、今日は直帰して、娘さんに顔を見せてあげなさいね」「うううありがとうございます」「後これは心付けで」「あの賄賂は困るんですが?」「ただの氷砂糖ですよ?ええ、疲れた時にガリっといってください、そちらさんの部署の方、ヘビーユーザでございましたよね?」「うああ、それほどの激務になりますか?」「だからですね」「はい、そのあたりはもう」「魚心あれば」「水心あり、ということで」しししししと笑いあうお二人さんです。
それでは失礼いたします。とそのまま森の中へと去っていくサラリーマン風の天使でございました。
「著作権の侵害による、世界の削除申請は取り下げられることになります。よかったですね?」淡々と、こちらに振り返り、告げるシルフィさんです。
あっけにとられていた、勇者の面々が、はた、と正気にかえります。
「何かすごいものを見た気がします」二郎丸さんがぽつりと言います。
「うわあ、ないわこれ」爆笑しているのは八兵衛さんです。大ウケです。
「さすがシルフィ姉様です」崇拝の眼差しの茜ちゃんです。
「ええと、いいのか?これで」疑問符を浮かべている睡蓮さんです。
「せ、世界は救われたんです、よね?」半信半疑のサクラさんです。
「いえ、もう少し後始末がありまして。このままだと、この世界、1000年くらいしか持ちませんし、著作権のところも、根本的なところで手を打つ必要があります、がまあここまできましたから、まとめて面倒をみましょう」
「男前ですね」
ガクブルと目の前で震えているす巻で逆さまになっている幼女と、その隣で同じように顔面蒼白で逆さます巻になっているショタ小僧がおります。
「なんでこんなに震えているんです、義姉さん?」
「先ほど久方ぶりに大量のレベルアップをしたので、今後の作業?を考えて、”神殺し”の称号を得てみました」なので夜までには解決しますよ、と嘯くシルフィさんです。
「というわけで、君たちの行った行為は犯罪です。で罪は償わられなければなりませんよね?悪いことをした子にはお仕置きです」ガクブルと震える少年少女型の神様ににっこりと、透明な笑顔を向けるシルフィさんです。「一つの世界がその住人やら、構成要素を含めて、”素となる物”まで還元されそうになりました、これはそうですね、世界の死とも言えますよね?ですので、それと同等の罰を受けなければならないという理屈は、わかりますね」恐怖で、声も出ないようです、幼女神様もショタ邪神様も。「そうそう、世界の維持管理には代理の方が来ますから、後のことは心配しなくてもいいですよ?」と言って、そっと近づいて、高く吊るされている神さまのの側に、立ち、細く白い手を、双方の頭に近づけます。「安心してください、眠るようにいけますから」極上の笑顔とともに、二人の目を手で塞ぎました。
その瞬間、びくんと、小さな体が痙攣して、両方の神様、そのまま弛緩してだらんと、ぶら下がってしましました。
「あれ?気絶しちゃいました」「いや普通に怖いから、義姉さん、”神殺し”に加えて、プレッシャーもかけてたろ?」「意外とやわな精神でしたね?もう少しいたぶるつもりでしたのに?」くるりと振り返って、神殿関係者の皆様ににっこりと笑いかけて「どうしましょう?起こして、もう少し反省してもらいましょうか?」
『『『いいえ、もう結構でございます』』』綺麗に引きつった顔で唱和する神殿関係者一同でございました。
「怖かったですよ、シルフィさん!」サクラさんが涙目で言います。「このくらいで怖がってどうするんですか?最初の案では、すっぱりこれらを処分して、あなたが、ここの神様になる予定だったんですよ?」
「勘弁してください、17歳、花も恥じらう乙女で神様はしんどいです、恋愛とか結婚とかもしてみたいですし」「まあ、そういうことでしたら、話し合った通り、監督としてサクラさんが神様についてくださいね。何か暴走しそうになったら、物理的に止めてください。あと、神様マニュアルは通読させて、最低限のルールは暗記させてください」「分厚いですね」「電子版もあります、それでも何か文句があれば、私が聞きますと、言ってくださいね」「あ、それは確実に静かになると思います」「うっかり、物理的にやっちゃったときは、あなたが代わりに世界を管理できるように、手配しておきますから、どうしようもないと判断したときは手遅れにならないうちに、やっちゃってくださいね」
「だから怖いんですってば」「はずみということもありますし」「ありえない、と言い切れないところが、さらに怖いです」
「すごいですねさすがシルフィさんです」
「あれが、邪神様かー、夢であったときはもう少し威厳があったような?」
「簀巻きにされて、逆さ吊りで、粗相までして気絶している姿で、どう威厳を感じさせるというんだよ?」睡蓮さんが呆れて言います。
「ええと、これでこちらは大丈夫です、では次ですね、ついてきますか?」
「もちろんですシルフィ義姉さん」「いや”丸”に選択権はないので、他の面々ですが」
「ええと?どこへ行くって言うんです」八兵衛さんが訪ねます。
「分かりやすい黒幕達のところです」
神の領域、ヨーロッパはドイツの城を模した場所、その豪奢な絨毯が敷かれた一室。その絨毯の上にす巻にされて、転がされているのは、男神一人、女神一人の二柱です。もごもごと言っているのは猿轡を咬まされているからです。
「これが、諸悪の根源である、2柱です。ええと罪状を確認してくださいませんか?」ばさりと、律儀にも紙面に起こしておいた報告書を、はち切れんばかりの筋肉を軍服のようなもので覆った、天使に渡します。
「ありがとうございます、さー」緊張して声が裏返っているようです。
さて、と声を整えて、筋肉天使さんが、転がっている神様達に告げます。
「若い眷属神を(無知につけ込んで)利用して、各陣営の戦力増強用に、成長に有利なシステムおよびリソースをつぎ込んだ、偏った世界を構築させる。
しかるのち、協定に違反する人材促成栽培技術、いわゆる『勇者もしくは魔王を召喚する形式での異世界移動を利用した、人材増強術』を召喚対象に施術し、
その後、成長用の世界そのリソースを使用した急激な成長を対象に促したのち、元の世界への帰還という形で、それぞれの陣営への帰属を成す。
それら一連の行為を、各世界の経営者=神に高価な報酬と引き換えに斡旋した、公正取引取締法違反の疑い。
さらには、その行為を隠匿しようと、証拠となる世界や、証人となる眷属神を、著作権侵害に対する削除要請を装って葬ろうとした、殺世界、殺神未遂、の容疑、
これらの罪、十分な証拠、証人により、すでに明白となっている!
双方、厳しい沙汰があると覚悟せよ!(がっくりとうなだれる2柱の神様です)
者共、こいつらを引っ立てい!」
そう、筋肉天使が宣言して、部下がす巻になっている2柱を運搬していきます。
「時代劇ですか?」「意外にファンが多いらしいです、武闘派天使たちの方々には」
「ご協力感謝いたします」
「いえいえ、たまたま、こちらも巻き込まれただけですし」シルフィさん軽く手を振ります。
「それは、なんとも犯神どもも、運が悪うございましたな、では」一礼して去る、筋肉天使でございました。最後まで緊張していたようです。
「結局”パパ”神さんと、えーと”アネさん”神様が黒幕と」二郎丸さんが肩をすくめて言います。
「まあ、最初に”パパ”に世界をもらったとか言ってましたからね、あの幼女神様。しかし今回は知り合いが管理している世界軸群で、楽ができましたね」
「ええと?今回は?」八兵衛さん(ついてきてました、索敵、侵入、家探しにはかなり活躍しています)、が突っ込みます。
「ええ、幼女神様とショタ邪神様のリンクから、パパ神とアネさん神の居場所まで辿って行って、踏み込んで拘束する程度で済みましたし、これが、縁が薄い世界軸だと、問い合わせに時間がかかったり、融通が利かなかったりするんですよ」
「神様関係に顔が効くなんて、やっぱりシルフィ姉様すごいです」茜ちゃんもついてきました。
「いや、そうじゃなくて、よくあるのか?こんなこと」睡蓮さんもです。
「まあ、たまに?ぼちぼち?しょっちゅう?どうなんでしょうね?世界は広いし、多いですから、そんなこともあるかもしれません」
「いや滅多にあったら困る気がするんですが」二郎丸さんがぼやいています。
さて、とりあえずバッファリアに戻りましょうか。そう言ってシルフィさんは黒幕の神域を後にしたのでした。
「これからどうしますかね?」二郎丸さんが言います。
「私はしばらくここで待ちですかね?天使経由で、いろいろな方面へ連絡を回してもらうようにしましたから、そろそろ昔の知り合いから、返事の一つもある気がするのですよ」シルフィさんが言います。
「私はシルフィ様と一緒にいます」茜ちゃんは、ちょっとシルフィさんにくっついて言います。
「俺らはそろそろ戻ろうかと」八兵衛さん。
「そうね、オトシマエをつけたい奴もいるし」睡蓮さん。
「物騒な、僕はギリギリまでここで修行ですかね?」と二郎丸さんです。
「あ、ゴメンなさい、貴方達まだ戻れないから」シルフィさんが言います。
「「へ?」」
「事件の影響で、元の世界を担当している神とかに事情聴取が入ったみたい?それらのゴタゴタが片付いて、現地の戦力バランスを整えてから、帰還かという流れでしょうかね?」
「そりゃないぜ」苦虫を潰したような表情です。
「全くよ」困ってしまいますね。
「で、帰還しても中立を要請されるかも?」
「窮屈なのは嫌だぜ?」それも勘弁です。
「そうね」なんとかならない?という視線。
「まあ、物理的に問答をすれば、問題ないとは思うから、その辺はうまくいっておくので、あまり派手にしなければ、いい、かも?どちらにせよ、事件の後始末が管理側で終わってからでしょうね?」
「まあ、しかたないか?来た時のタイミングで戻れるのは変わりないんだろう?」「そうですよ」「なら気長に待つさ、幸い時間はたっぷりあるしな」
「そうそう、この世界の方も、補修したり、新しい布で裏張りとかするので、”日本”世界ばりに持ちますよ。ただ、コンテンツの正式購入とかになったので、貢献ポイントのバラマキや経験点の不自然な増強とかはなくなったでしょうけどね」
「せちがない世の中ですね」二郎丸さんが言います。
「健全な世の中ということです」綺麗にまとめたシルフィさんでした。
すべて世はこともなし。
めでたしめでたしでございます。