20_いざ行かん、身も蓋もない、結末へ
エンドコンテンツを裏技攻略した勇者一同は、長く苦しい修行を丸1日行ったのでありました。
「し、死にかけました」茜ちゃんが倒れ伏して言います。
「いや、むしろ死んだね。きっと何回か」八兵衛さんが仰向けになって、青い空を見上げてのたまいます。
「はっはっはー。みんなだらしがないぞぅ」
「そのセリフは、倒れて微動だにできない人が言って良いセリフではない」睡蓮さんが二郎丸さんにへたり込んだまま突っ込みます。
「お婆様、そんな川の向こうで何をされているのでしょうか?今お近くへ、」「サクラさんそれは渡ってはいけない川です」意識が朦朧としているのはサクラさんです。
「みんな弱い」
「「「「いやほんとあんた何者ですか!!!」」」」
ぽつりと呟いたシルフィさんに、盛大に、最後の力を振り絞って突っ込む勇者達(元魔王が半数以上ですが)と、それを導く立場だった異世界の巫女さま連中でありました。
「一応私たち、物理的には神様を超えるほどのレベルに到達したのよね?」睡蓮さんがサクラさんに
確認します。
「そうですね、少なく見積もっても歴代勇者さまの10倍くらいは強いですし、シルフィさんが言うには幼女神様の5倍近くの強さのはずですね」
「その、だな、それらの強さの実力者が5人、束になってかなわない、お前の義姉さんって、いったいどういうカラクリになってるんだ?」八兵衛さんが二郎丸くんに、疲れたように聞きます。
「まあ、義姉さんですから、という言葉で納得していただけますかね?」
「できるか!っていいたいんだが、なんだろう、その言葉の謎な説得力。それなら仕方がないとか思ってしまいそうだ」
「シルフェ姉様だから、すべて許されるのですね」無駄にキラキラした瞳でうっとりと言っているのは茜ちゃんです。
「いや、私が強い理由はそこまで謎的なものではないけど、ましてや信仰の対象になるほどのものではないですよ」さらりと言うシルフィさんです。
「ええと、こう何か超次元の超奥義とか、超修行とか、超裏技の影響じゃないんですか?」サクラさんが言います。
「その分類で言うなら」ちょっと考えて、「超バグ技?かな?」
「それはいったい?」
「静かに」質問を止めて、耳をそばだてる仕草をするシルフィさん。
「どうしましたか義姉さん?!」
「きましたね、破壊神の尖兵が、後数分で次元の門が開きます。場所は私たちが転移してきたあたりですね」
「勇者召喚の魔法陣がある、浮遊群島ですか」
「あのあたりが、一番次元転移しやすいポイントなのでしょうね。ちょうどいいですね、そこで私の強さの秘密を目にしてもらいましょうか。百聞は一見にしかず、です」
「いやさすがにしんどいんだが?」八兵衛さんが少し泣き言を言います。
「これを、使いなさい」小指の先ほどの透明な錠剤?を一同に配るシルフィさんです。「奥歯で砕いて飲み込むといいです」
「はい!」躊躇なく奥歯で噛み砕き飲み込む、茜ちゃんです。「いや少しは、戸惑ったりしようよ茜ちゃん」「シルフィ姉様の言うことを疑うなんてとんでも、フォァあああああああああ」言葉の途中で感極まったような叫び声をあげる茜ちゃんです「気持ちいいです、なんですこれ、いいんですよ、体の中から、熱いです、シルフィイ様アァアア」陶酔して立ち尽くす茜ちゃんを引いてみている面々です。
「そこまで?!」上げた本人がちょっと驚いています。「義姉さん!何かやばい薬を渡したのか!?」「疲労回復に優れた氷砂糖みたいなものです、ちょっと特殊な混ぜ物はしていますが」「大丈夫なのかおい?!その不穏当な表現!」「効果は抜群です、死にかけた老人でも服用した直後に山三つは不眠不休で越えられる体力がつくくらいですよ」「いやどう考えてもやばいだろう、副作用とか、禁断症状とかある部類だぞ」「大丈夫です、今のステータスなら相当運が悪くない限りレジストできます」「やっぱり、手が後ろに回る系のやつじゃねーか!」「それは大丈夫です、指定薬物のリストには載っていません、だから売り手は安全」「脱法系の商売っていうんだよそれ!」「何を言っているんです?管理体制側にも一定のニーズがある、まっとうな商品なんですよ?」「それは、すでに、薬で取り締まる側を、操っているとか言いませんか!さらに、たちが悪いですよ!」「当社に喜びのお葉書が届くくらい人気商品です」「アンケートハガキがあるのかよ!」「皆一様に、早く次の商品を熱望してくるんですよ?もう鬼気迫る、ミミズがのたくったような文字がとってもキュートですね」「完璧に中毒になってるじゃねーか!」「美味しいですからね氷砂糖」「そうじゃねえ!」
「あああ、お姉さまに包まれていたような、幸せな気分でした」発作が治まった茜ちゃんが、満面の笑みで言います。「疲れも完全に取れました。肉体や精神の耐久値も全快したみたいですね、すごいです、さすがお姉さまです」語尾にハートマークが乱舞するような茜ちゃんであります。
「効果はあるみたいだな、どれ」がりっと嚙み砕く八兵衛さんです。「まあ、最初からしっかりと気を持っていたら、それ、ほど、でも、くくく、ねーな、いいなぁこれ」
「同輩で同じようなものにはまっているのがいたなぁ。本当に大丈夫なのか?」睡蓮さんがシルフィさんに尋ねます。「大丈夫、ダイエットにもなるよ?」「だからその表現はやめなって、まあ、シルフィさんが大丈夫っていうならいいだろう」こちらもがりっとやって、軽くどこかへ行ってきて、帰って来ました。
二郎丸さんは結局飲みませんでした、がっかりです。「いや自力で回復できるから僕」
空を飛ぶようにして、一行は勇者召喚陣のある浮遊群島へと到着します。有り余るステータスの恩恵で、すでに巡行速度が音速に近い上に、スキルで実際に宙を飛ぶことができますので、ほとんど時間はかかりませんでした。
「ちょうど門が開くところですね。ええとサクラさんはスキル構成で観察眼とか神秘眼とか、系列で相手のステータスが見えるようになってますね?」
「ええ?まあそんなスキルもありましたね」膨大な所得スキルリストを確認しながら、答えるサクラさんです。
「じゃあ、それで私を見ていてください、ええといいですか、確認です、今私は何レベルですか?」
「はい、最初の医療機関でチェックした通り1レベルのままですね、本当に上がらないんですねぇ」
「その辺りがバグ技の肝ですから、”丸”、少し本気でやりますから、周囲のフォローと、皆さんへの解説をお願い。あと、途中から意図的に流すので、皆様、どうぞ狩ってみてください」
「ええと?何を流して、俺ら何を狩るんだい?」八兵衛さんが尋ねます。
「神の尖兵といえば、天使に決まってますね」さらりと答えるシルフィさん、それに合わせて、空中にそびえ立つ巨大な門が開いて、背に対の翼を持つ、銀色の軍団が流れ出てきます。
「宗教観とかどうなってるんでしょうね?」
「おそらく近い世界軸の総和とか談合とかでしょうか?もしくはシマ争いに勝利している、団体なのかもしれません」
「せちがない世の中ですね」
ちょっと固まった面々を他所に、軽口を叩きつつ、装備を自前の”どかにある見えない収納”から取り出し、換装するシルフィさんです。
茶色のチョッキに青色のジーンズ、白いポンチョ風のマントに、腰にさしたる2丁拳銃、くいっと白く細い指で位置を調節するのは、焦げ茶色のテンガロンハットです、黒いブーツの拍車を鳴らし、地面を蹴りつけて、空へと優雅に勇壮に、歩み上がります。
「それじゃ、ちょっと、”七面鳥”でも落としに行ってきますね」
「天使の手羽先って、食べらるんでしょうかね?後ろはどうぞお任せを」
「言うようになったね”丸”、それじゃあ、ちょっと」
踊ってきます、というセリフは音速を超えて移動した、彼女に置いていかれました。
あっけにとられる勇者達です。
「始まりますよ?サクラさん、シルフィ義姉さんの位置は把握できてますか?」
「は、あ、はい、今見つけます。あ、見つけました!が速攻で見失いました!」
「落ち着いてください」
「あー、こりゃ確かに”七面鳥を射つような”だな、天使?が全然反応できていないや」八兵衛さんが目を細めて、観察中です。
シルフィさんは、天使の群れの濃い場所に飛び込んで、四方八方へと拳銃を乱射しています。その銃口から飛びてているのは、レーザーのような弾丸で、的確に天使の眉間を撃ち抜いていき、一撃で葬っているのか、次々に光の粒子になって、消え去って行きます。
「すごいですおねーさま」うっとりとしているのは茜ちゃんです。
天使は全身が銀色のタイツをまとっているような姿で、翼のみが白い生き物てきなフォルムです、顔立ちものっぺりとしていて、どこに目鼻口があるのか一見わかりませんが、何か特別なアクションをするときに、ぱかりと口らしきものが顔の一部を切り裂くように開き、赤い内部が垣間見えます。
「捕まえました、シルフィさんです、えとステータス閲覧、て、エエエエエエエ!!」驚きの表情なサクラさんです。
「どうしたんだサクラさん」八兵衛さんがきりりとした表情で尋ねます。
「レベルが、すごい勢いで上昇しているんです!現在55レベル、今56になりました!信じられないですよこれ!何です?レベルが上昇しない呪いじゃなかったんですか!」
「シルフィ義姉さん、レベルが上がらないわけじゃないんですよ。ただ、日付が変わる時間で、1にリセットされてしまうんですね、1日が長い世界とかではどうなるか知りませんが、ここは”日本”世界型の時制ですから、24時間に一回、午前0時でリセットされますね」
「なるほどな、朝起きて、1レベルのままで検査すれば、それはまあ1レベルから上がったようには見えないよな」八兵衛さんが納得します。
「ええと、それで、シルフィねえさまの強さとどうつながるのですか?」茜ちゃんが質問をします。
「そうですね、一般的にレベルが上がると、どうなりますか?」二郎丸さんが逆に尋ねます。
「確か、新しいスキルを習得できたり、ステータスに補正が加えられたりする、んだったよな?」
「そうですね睡蓮さん、その通りです。そして、シルフィ義姉さんは、確かにレベルは1にリセットされるんですけど、それに付随して上昇した各種ステータス、能力値とかパラメタとか言い換えてもいいですが、それらすべて、そのままなんですよ」
遠くからの銃声と、天使の嬌声に似た断末魔の悲鳴が、静かになった面々の周囲に響きます。
「「「「は?」」」」
「ですから、能力値はリセットされないんです。あくまでも1に戻るのはレベルと、それに強固に紐付けされているスキル群だけで、筋力に+2とか、intelligenceに+3とかいうような、能力値に対する補正はそのままで、また、1レベルから成長がスタートし直すんです」
「うわ、そりゃすげーわ。確かにひどいバグ技だぜ」オチが読めましたとばかりに八兵衛さんが呆れて言います。
「えと?よくわからないのですけど?毎回レベルを上げ直さないといけないのは不便なのではありませんか?」茜ちゃんが尋ねます。
「そうですね、スキルがなくなる点では不利でしょうが、なんともとんでもない」サクラさんもカラクリがわかったようです。「ああ、そうか」睡蓮さんも納得しています。
「レベル制を敷いている、どの世界でもだいたい共通している点として、レベルの低いうちは成長がしやすい、というのがありますよね。1レベルから2レベルに上昇するのに必要な経験点は2レベルから3レベルに上がる経験点の半分くらいだとか、いった感じです。ですから、午前0時を越えるたびにレベルが1にリセットされる、シルフィ義姉さんは、とてもとても簡単に、レベルを上げられる体になるんですよ」
「ああそうなんですね!」茜ちゃんもわかったようです。
「つまり毎日のレベルアップの恩恵で、シルフィ義姉さんの能力値は、途方もない数値になっているんですよ」「そこのところはちょっと見れないんですけど」サクラさんが、報告します。「表記がバグっているんでしょうね」二郎丸さんがフォローします。
「ちょっと待ってくださいね、ええと彼女の年齢が17歳として、まあ、12歳くらいから魔物を狩ってレベルアップをしだした、とするとしますよね」「義姉曰く11歳くらいから本格的に魔物を狩り始めたそうですよ、ちなみに、僕らのいた”日本”世界にも魔物はしっかりいました、安易にレベルを上げると技が未熟なままになるからと、僕はあまり狩っていませんでしたが」「なるほど、ええとそれじゃあ、6年くらいですかね、まあ簡単に考えて2100日くらい?単純に1日1レベル上昇するとして、補正回数が同じく2100回、各種能力値に均して、ええと、200くらいは上昇していますね、で、当然1日に2レベル以上上昇することもあるでしょうから、さらに倍くらいで400点ほど加えられていますか?一般人の能力値が10程度ですから、軽く見積もっても400倍ですか、凄まじいですね」
「恐ろしい追加情報があります」二郎丸さんが虚ろな笑みとともに伝えます「実は、シルフィ義姉さん、少なくとも僕の両親と同じ年代です。ハジメさん曰く、25年来の付き合いだそうですよ、そして周囲の魔物はほとんど定期的に狩り尽くす程度には、修練に熱心だそうです」1日に10レベルくらいは上がっていたかもしれませんね、と乾いた笑とともに続けます。
「!!とすると単純計算してもさらに20倍以上、ええと一般人換算で8000倍以上の能力値補正!?一般的な勇者換算でも、600倍とか400倍とかのレベルですよ!」
「最低でもそうでしょうね。ええ、それでですね」
「まだあるんですか!」悲鳴をあげるサクラさんです。
「これは、僕の勘なのですけど、おそらくシルフィさん、実は御年100歳は超えていると思うのですよ。僕の両親と出会ったのが25年前なだけで、きっとおそらく、もっと長く生きている存在だと、ええ、そう感じるんです」
「ヒィいい」思わずムンクの叫びのような表情になるサクラさんです。
『”丸”!しゃべりすぎ、女性の年齢は秘するのが礼儀ですよ。あと、お仕置きではありませんが、そちらに5体ほど流しますから、実践練習がてら狩りなさい』
ハイ!と背筋を伸ばして、どこからか聞こえてきた”冷たい”声を傾聴する二郎丸さんです。
つられて、背筋を伸ばす勇者達面々でございました。