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2_追い込まれ死にそうになり助けられ

 健康診断は、問診聴診触診の三点セットと、魔法を使用した全身スキャナでさっくりと、終わりになりました。心身ともに健康で、古傷も消えていて、まっさらな身体であったそうです。

「あれ?前についていた擦り傷も消えてますね?」二郎丸さんが確認しながら言いました。

「それは、多分神様がやったんじゃろうな」おじいさんの先生が答えます。医療担当の先生で、専門は内科だそうです。イントネーションが不自然でない程度の日本語の使い手です。カルテはこちらの世界の言語のようで、読み取れません。

「神様?」

「おうよ、転移に関わる高次元の存在で、人格もあるらしいぞ?なんでもせっかく転移させたのに、そのままじゃとすぐ亡くなってしまうから、肉体情報を時間軸を過去へとずらしたり、正常な機能を奇跡で回復させたりて、修復させる、とかなんとかしている、そうじゃ。ちなみに、姿かたちは幼子」

「あー、ここもテンプレですね」

「そうじゃな、まあ、実際若いらしいが、そのあたりは神学を専門にしとる輩に聞いてくれ、何しろ、実践的な神学をテーマにしとるからの。ちなみに実践中、過去には数度、降臨したこともあるらし、コツは好みの甘味とか今はまっている趣味を類推して用意すること、らしいぞ?」

「フットワーク軽いですね!神様!」


 ふらりと、待合室のようなところに二郎丸さんが戻ると、すでに検査を終えていたシルフィさんがクッションのきいた椅子に座って待ってました。

「はい、ええとシルフィせ、義姉さん、そっちはどうでした?」ちらりと二郎丸へと視線を向けた、銀髪少女は、小さく頷きました。

「大丈夫そうですね、これからどうするか聞いてます?」と二郎丸が尋ねると、シルフィさんは視線を出入り口の方へと向けます。

 するとそこには丁度部屋に入ってこようとした、姫巫女さんこと、サクラさんがいました。

「お体、特に問題はなさそうですので、詳しい説明とかしてみましょうかと?ところど、お腹空いていませんか、よければラウンジで何か軽くつまみながら、と思っているのですけど?」

「軽く、じゃなく、がっつりで。行こう”丸”」ヒョイと反動をつけて飛び降りるシルフィさんです。

「あいさー、えーと、姉さん」軽く敬礼をしてついていく意志を表明する丸さんこと二郎丸です。


「他の皆さんは?」

「はい、皆様検査の結果、問題なさそうです。自然に起きるまで寝かせておくことにしているそうですよ?」

「なるほど、ちなみにどのくらいで起きますかね?」

「さあ?眠り自体は自然なものみたいですから。ええと今が午後2時くらいですから、夕方か、遅くとも、明日の朝には目がさめるかと?」

「それは経験則なの?」

「まあ、過去のデータではそんな感じですかね?むしろ意識を保ったまま転移された方の方が、珍しいようですよ」なので、最初見た時はびっくりしました。

「ああ、だから慌てて、セリフを噛んだと」

「忘れてください、普段はもっとちゃんとしている、つもりなんですよ?」

 ふうんと、姫巫女さんを半眼で眺める二郎丸さんです、彼女の服装はゆったりとしたワンピースで、丈は膝下。軽く、カーディガンを羽織っています。空調が効いているのか暑くもなく寒くもなく心地よい室温です。

「そういえば、外を歩いていても暑くなかったな」

「標高も少し高めですし、夏も終わりですから、ああ、このあたりは四季が固定されていないので、一年を通じて変化するんですよ」

「僕のいた世界(ところ)、季節は固定されてなかったなあ」

「熱帯、寒帯、緯度で固定されていた環境はあった?」シルフィさんが訂正します。

「ええと、一応主星に対して、このバッファリアも地軸が傾いて自転しているので、通常の四季はあるんですけど、”精霊”さんとかが結構やんちゃしている地区があるんですよ。常春の国とか冬の女王が治める領域とか?そう、無節操な感じですね」

「あー、主星とかということは、天文学もそれなりに発展しているんですね」

「ネット先の物理学がそのまま利用できないのは、魔法とか魔素とか謎原子やらで、量子的な振る舞いとかが違うらしいので、今は観測結果が正しいかどうか論争している段階でしたっけ?一応この星の衛星くらいには自力で到達できる技術レベル、なようですよ?詳しくは各種学会の資料を見なければわかりませんけど?」

「うわあ、幻想と科学技術のハイブリッド世界ですか?なんだかずるいですね」

「与えられたものを有効に使っているだけですよ、まあ確かに、まっとうな進化過程ではないという主張もあって、政治的にもいろいろあるみたいですけど、着きましたよここがラウンジです、あれ?先客がいますね、意外と早く起きられたようです」


 ラウンジの低めのテーブルに、うず高く積まれたサンドイッチの山、それらは温めに入れられた、紅茶を援軍にして、続々と攻略されつつあった。つまりは、すごい勢いで食事をしている男性=青年がいたということなのです。

 召喚魔法陣に倒れていた青年で薄汚れていた顔は綺麗に洗われていて、穴の空いていた服装はざっくりしたシャツのようなものと、洗いざらしのジーンズ?のようなズボンに変わっています。

 黒髪は少し長めで、前髪は少し目にかかるくらい、後ろはうなじくらいで縛ってあります。ひょろりとした瘦せ型で、身長は170センチくらい。

 それが、ほとんど体の中に流し込むような勢いで食事をしています。

「あ、サクラさま。勇者さまが目を覚ましまして、空腹が極まっているということでしたので、ラウンジに案内をしました」看護師といったような白衣を着た女性が報告しています。

「はい、了解しました、ええとお名前とか聞いてもよろしいでしょうか?」

「ええとサクラさま、この勇者の方はお名前を、雲井八兵衛さんとおっしゃるそうす」


「あ、私も彼と同じものを、量も同じで」ウエイターを捕まえてシルフィーさんが注文します。

「かしこまりました、おのみものは?」

「ミルクみたいなものはある?」

「ございます」

「ではそれを、多めにお願いね」

「かしこまりました」


「すごいですね、眉もひそめずに淡々とオーダーを通しましたよ」二郎丸が感心しています。

「まあ、この辺りに勤めているのは、結構なプロですからね、風羽さまはどうなさいますか?」

「あーそうだな、米のメシはありますか?」

「ピラフ系なら?カレーライスもありましたかね?」サクラさんが確認します。

「うんではピラフで、飲み物は水がいいな」

 了解しましたと、ウエイターが注文を通して、ガッツリとした食事などが始まりました。

「ええと、よく食べるのですね?」その食欲にサクラさん少し引いているようです。

「(ごくんと飲み込んで)仕事でな血が結構流れたから補充しとかんとな」八兵衛青年が律儀に答えます。

「一応、怪我とかの補填は神様がしてくださっているはずですが?」

「じゃあ、その時に俺のカロリーを使ったんだろ?多分?」

「あーありえますね、今回の勇者召喚は、多かったですから」頷きながら納得するサクラさんです。

「多いんですか?」

「ええ、まあ、いつもはだいたい一人で、多くて二人ですからね。5人となるとさて、100年くらい遡ってあるかどうかでしょうか?まあ、決してなかったわけではないですけど」


「ふー食った食った。一応八分目にはなったな」爪楊枝を使っている八兵衛さんです。

「いや、ゆうに10人前は食べてましたよね」ちょっと呆れている二郎丸さんですが、「シルフィ姉さんと同じくらい食べる人を初めて見ましたよ」見たことがない、というほどではなかったようです。

「俺の商売上、食べれる時に食べとく癖があってな。あー商売てのはまあ、なんだその、厄介ごとの解決を主にこう、こっそりと、裏の方でで行う職種なんだが」頭をかきながら、ちょっと照れつついう八兵衛さんです。

「へえー(庭の裏とかいう意味ではないんだろうなー)」

「まあ、詳しいことは勘弁な?」

「ええ、別にこの世界で犯罪を犯さなければ問題ありませんよ?前科は前の世界においてきたことになりますし。まあ、等しく成果もおいてきたことになりますけど」サクラさんが結構黒いことをさらりと言います。

「「あ、ああ」」なんだか気圧されたような相槌を打つ男どもです。


「さて、では簡単に説明をしていきましょうか」

「よろしくお願いします」

「はい、ではまず最初に言っておきますが、勇者の召喚というのは高次の生命体である神の気まぐれと、言ってしまえば言い方が悪いですが、趣味の範囲の行為です。よくあるテンプレのように、異世界の知識が欲しいとか、戦力を増強したいから、という体制側が積極的に行う、世界を越えた誘拐とか拉致という犯罪ではありません、こちらのバッファニア世界では自然現象の一部のような捉え方になっています」

「ええと?神様の犯罪ではないのですか」二郎丸くんが訪ねます。

「現象だけ見ると犯罪っぽいですけど、動機は人助け?ですので情状酌量の余地があると、判決が出ています」

「あれ。神様裁いちゃってないですか?」二郎丸くん突っ込む。

「まあ、判決文が、可愛いから無罪、なのはどうかと思いますが、勇者召喚は、概ね、善意でおこなている行為なんですよね、神様が」

「はあ」

「なぜ善意かというと、その神様が、召喚する対象は、命の危機に瀕している時、なおかつ、その危機に対して、勇気を持って立ち向かっている者、だからなんですね。いわば、人助け?そのままだと死んでしまうから、召喚してその場から連れ去ってみよう!ということですね」

「なるほど、だから、俺はあの状況の中で、生き残っているんだなー」さすりさすりと、元々のシャツの穴の空いていた部分をさする八兵衛さんでした。

「まあ、転移時の詳しい状況は、結構プライベートなカテゴリなので、無理には尋ねませんが、そのままだと死んでしまう状況を救う為の召喚ということですので、納得していただきたい」

「ええと?その場で助けるわけにはいかないのですか?」

「なんでも、相手に与える利益とそれに支払われる代価が釣り合わないと、カオスゲージが上がってしまうので、手っ取り早く勇者として召喚して、代価としてしまおう、ということらしいですよ?」

「本音は?」シルフィーさんが突っ込んでみます。

「その方が面白そうだ、というのも正直あります、とのコメントも残ってますね、あと、根本的には能力不足なのであまり他の世界へ干渉できないそうです」

「あれ?転移させているのに?」

「転移される対象の運命がすでにほぼ閉じているので、影響が少ないんだそうですよ、その世界のその時間軸で、対象を、助けて、危機を脱しさせたり、なかったことにすると、因果律の振れ幅が多くなりすぎる、そうです。神様曰く」

「神様結構親切に説明してるのな」二郎丸さん感心しています。

「あなたのそばにそっと寄り添う神様とか言っていた時期もありましたね」

「這い寄ったりするんですか?」

「あの神様が、ラヴクラフトの作品にハマっていた時はちょっと厄介でしたね(当時の歴史を思い出して遠い目をする)。ちなみに見た目は幼女ですが、別に今は這い寄ったりしません、と言いますか、世界からは少し離れていますね」

「宇宙的狂気をテーマにした作品にハマる幼女の神様とか、なにそれこわいんですけど!ええと、それで今は離れているって?」

「勇者召喚をしましたからですね、同時に神様の気配を振りまきすぎると、こわい存在が来るそうですから」

「神様が怖がるのって?」

「邪神さまですね」「様付けなんだ」「一応荒御魂っぽい存在ですので」

「神様の力を現世に及ぼしすぎると、邪神様の注意を引いて、運命やら因果律のバランスをとるために、邪神さま降臨とか魔王誕生とか災厄が訪れる可能性がある様でして」

「魔王いるんだ」

「ええ、だいたい異世界から勇者さまと同じ要領で邪神さまが召喚したり、現地の魔物を強制進化させる様ですよ。ただ、基本そうならない様に、あまり初期レベルの高い勇者さまを召喚しない様にして、目立たない様にしているそうです。」

「「初期”レベル”?」」八兵衛さんと二郎丸さんの疑問がハモります。



「レベルとかステータスとか、スキルとか加護とか称号のお話もしておきましょうね。このバッファリアという世界には、レベルの概念があります。これは、異世界転生物のテンプレ的なやつで、多くのライトノベルとか、オンラインゲームとか、テーブルトークRPGとか、コンシューマゲームとかに描かれていたり、設定されている、いわゆるキャラクターがモンスターとかを倒したり、ミッションをクリアしていくと、レベルが上がって強くなる、とかいう意味のレベルです」

「うわあ、本当に身も蓋もない、テンプレート仕様ですね」

「そうですね、そのおかげで、勇者様への説明はだいぶ楽になりました。サブカルチャーが蔓延しているおかげですね、まあ、中には全く知らない方もいましたが」

「そうだなぁ、おいちゃんくらいでも、家庭用電子ゲームの草分け的存在くらいは知ってるもんなぁ」「いや逆にその年代でそれしか知らない方が、レアじゃないですか?」「そうか?」


「レベルが高いとこう、高次の空間からその挙動が目立ちやすいのだそうですよ、その世界にいるだけなら問題はあまりないのですが、世界を超えるときには、すごく、白い紙に一滴の墨汁を垂らすくらいにハッキリと、目立つそうです」

「紙と墨、あるんだ」「書道家とかもいますよ」


「それで、異世界から勇者を召喚するときにはできるだけレベルの低い方を呼び寄せて、目立たせないようにしているんです」

「ええと、僕らのいた世界にはレベルの概念は想像の産物なだけだったんですけど?その場合、実際のレベルはいくつくらいなのですか?」

「普通に生活しているだけでも2〜4くらいにはなるようですね。日々の生活の中、自然にたまるポイントがあるようです。ちなみに、総合的なレベルとは別に、技能というのがあります。剣を振るとか、草花を育てるとか、電子機器を修理するとかの職能?みたいなものですね。それにもレベルがありまして、こちらは、結構他の世界から来られても高い方が多いですね」

「つまり、レベルというのは、基礎体力みたいなものなんでしょうかね?」

「そうですね、知力とか体力を世界のシステムで底上げして行っているみたいな、といえば解りやすいでしょうか?ここバッファリアというのは、そのシステムが強く働いているんですね」

「なるほど」納得する異世界転移勇者達でありました。


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