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15_神の手で発掘する人いましたね

「道中何事もなく、依頼の迷宮に到着しました」二郎丸さんが、状況を説明します。

「早い!」なぜか突っ込むサクラさんです。

「一緒に来ましたよね?」「いえ、なぜだか、途中の記憶が曖昧のような気がして」「まあ、途中イベントとかもありませんでしたし、でも結構ノリノリで峠を攻めていたのは覚えていませんか?」「ミッドシップは安定度が違いますね(うっとり)」「少ないけれど、対向車が谷へ落ちそうになってましたよ?そのコーナーのコース取りで驚いて」「今日日車乗りで車体が大破した程度で傷を負う輩はいませんよ」「どういうことで?」「安全の面を考慮して一定以上の頑丈さが免許交付の条件ですから」「同乗者とかどうなるんです!」「あ」「あ、って!」「いや大丈夫、一種の魔法装備扱いだから、同乗者にも防御力も上昇の恩恵があるし」「まあそれなら」「万が一の時にも免責事項はあるので、運転手には、法的問題は浮上しません」「ドライブが命がけだな!」「それに、あれは相手がタブレットを操作しながら運転していたのも問題なんです」「あー、それなー」「結構レアな位置情報ゲーム魔物(イチャモン)が出るらしんですよこのあたり、私もやりたかったのになぁ」「そのネタは危ない、二重に危ない気がする」「?」


「はいはい、あっちはほっといて、野営の準備をしましょう」シルフィさんが慣れた手つきで、茜ちゃん、睡蓮さん、八兵衛さんを促します。

「「「はーい」」」素直な返事であります。

「と言っても、テント設営をする適当な広場もありましたし、水場は特に確保しなくても魔法でフォローできます」シルフィさんが言いますと。

「あ、一応井戸ありますよ?手押しポンプ付きの」サクラさんが補足します。

「あら、帰ってきたんですね」

「?どこにも行ってませんよ?」不思議そうな表情をするサクラさんでした。


「最初、ダンジョンの恒久利用とかリサイクルとか考えていたみたいですからギルドが、設置したみたいですね。地下水脈をダウジングで判定して、土系の魔法でサクッと掘り抜いたみたいです」サクラさんが過去の資料を読んで答えます。

「へえ、便利な魔法があるんですね」茜ちゃんが感心しています。

「ええ、そのやり方なんですけどね、こうまず横に50メートルほど穴に成る予定の、溝ですねを掘るんです」

「はあ」

「それを、魔法を使って、えいやぁと、垂直に立てます」

「なんと!」

「横50メートルの溝が縦50メートルの穴に!これで深さ50メートルの穴が簡単に掘れるわけですね」

「へえ~。魔法ってすごいですね!」

「茜ちゃん茜ちゃん、それきっと騙されてる」二郎丸さんが、やれやれと、頭を振りつつ突っ込みます。「それ、落語というか小話のネタだから」

「え?ひどいですサクラさん」プンスカと怒る茜ちゃんですが。

「え?本当ですよ」真顔のサクラさんが迎え撃ちます。

「え?マジで?さすが異世界の魔法、といったら良いのか?デタラメな」驚く二郎丸さんでありました。


 さっくりと、周囲の様子を見て回っている八兵衛さんです。地形の確認と、違和感が何かないかを調べています。サクラさんも指導という名目で一緒に行動しています。

「魔物とかの痕跡はないようだなぁ」八兵衛さんが地面に顔を近づけたり、木の幹を観察したりしながら言います。

「植生にも目立って変化はなさそうですね」

「見知った木とか草が多いな、このあたり異世界らしさっていうのがないよな」

「まあ、同じような”人”が住む環境に進化してきている世界ですから、”日本”世界もバッファリアも、周囲の自然も似たような進化をたどってくるんでしょうね」

「楓とか、檜とか、松やら、杉も、きっちり似せてくるあたり、逆に不自然な感じがするんだが?」

「あれですよ、あれ、収斂進化ってやつじゃないでしょうか?」

「いやそれは、別々なカテゴリの、生き物が、同じような形に進化するという意味だから、ちょと違うんじゃねー」

「」赤面して無言になります。

「植物の分布には不自然さがないよーなきがするから、自然に数百年くらい成長した山の森だとは思うんだが?そうだな、誰かが”日本”世界から種子を運んできたとかか?」

「昔は”日本”世界とつながっていたのかもしれませんね。異世界考察をしている論文集にも、似たようなテーマで語っていたものがありますよ」

「安易に複写して転写したような感覚もあるな。こう神様てきな力で」

「ああ、幼女神様がされたなら、ありえますね。自然バランスとかよくわからないから、”日本”世界のをまるっとパクっちゃえ、とか言いそうです」

「ええと?幼女神様って、世界とか作っちゃう系なんだ」なんだその系列は。

「どうですかねー。神学者の見解ですと、幼女神様の”パパ”にあたる方がこの世界の基礎を作り上げたんではないか?というお話です」

「父親的な神様がおられる?」

「いえ”パパ”ですね。血縁は確認されてないですし、幼女神様のおねだりの仕方とかが、かなりあざといものだったと、神話に記されているらしいです」

「どんな神話なんだそれ」

「『”パパ”におねだりしたら世界を一つもらったので好きにしてみる』、とか言うタイトルだったような」

「微妙に読みたいのか、読みたくないのかわからないタイトルだなあ、後そのタイトル、内容を具体的に表しすぎてないか?」

「その頃の流行りだったんでしょうかね?きっと編集も迷走している時期だったんですよ」

「神話に、流行りとか、あるのな。後、誰が編集してるんだ?」

「さあ?あっ」

「どうした?何かあったか?」

「ありました、位置情報魔物収集ゲーム、略して”いちゃもん”の魔物の出現場所です。へえ、こんな山の中にも設定しているですね」「おーい」「魔物はトレントですか、周囲の環境に合わせているのが憎い演出ですね、と、捕獲完了」「いや、まあ、いいけどよ?二郎丸くんがツッコミたくなるのもよくわかるなぁ」


「あ、八兵衛さんサクラさんおかえりなさい、どうでしたか?」

「すごいですよ、噂通りレアな魔物がいっぱいです」タブレットをかざしてはしゃぐサクラさんです。

「いや、このバーチャルで生きている彼女は無視してくれ、特にリアルでは魔物の影もなく、違和感も感じなかったよ」八兵衛さんが、サクラさんに対する態度に若干変化が見られたようです、こう、見切ったとか言う感じですね。

「ドライアードとか、マンドラゴラとか、植物系の魔物がいっぱいです。そろそろ封印のお札が足りなくなってきましたよ」ニコニコ顔のサクラさんです。

「文字通り一人だけ別のゲームをしているな、まあ、サクラさんだから仕方ないか。こちらは夕食の準備まで終わりました。テントももちろん設営済みです」

「煮炊きして大丈夫か?魔物はいないようだが、普通に野生動物とか寄ってくるかもしれんぞ?」

「まあ、火を焚いていれば近づかないでしょう、基本野生の動物は臆病ですし、山にはまだ他に安全に取れる食料もあるでしょうしね」八兵衛さんの疑問に二郎丸くんが答えます。

「それなら大丈夫か」

「お約束として、魔物よけの結界魔法とかもありますよ。ちょっと値段は張りますが、それほど効果の高いものでなければ、買えない値段じゃないですね」サクラさんがフォローします。

「買ってましたねそういえば、一晩使い切りで5000ポイントでしたっけ?」


「店頭価格4980円、税込で5478円ですね」「消費税があるんだよなーこの異世界」「しかも時代を先取りして10%です」「いらんところまで真似やがって」「幼女神様のやることですから、一応3%から段階的にあげることも検討されたのですが、計算が面倒くさい、との託宣が降りまして」「そこまでするなら導入しなければいいのに」「勢いというかこだわりでしょうかね?」「謎のこだわりですね、迷惑な」「実質、値上げですからね」「便乗か!」


「ええと、あれはあれで楽しそうだから置いておいて、睡蓮さんや?あれは何をやっているのだろうか?」八兵衛さんが、携帯コンロでカレーを煮込んでいる睡蓮さんに尋ねます。湯気でメガネが曇っていますね。

「ああ、予備調査だそうだよ。迷宮跡ので入り口に掛けてあった封印には変化がなかったから、中には入る必要がなくなった、んで、時間が余りそうだから、迷宮の研究?がてらいろいろ調べて見ると、シルフィさんが」小皿にカレーをとって、味を確かめる睡蓮さんです。「辛めだが大丈夫だよな?」「茜ちゃんが大丈夫なら?」「あー、それは確認済み。美味しいと涙を流してた」


 ドスンと云う音がすると思いなさい。その音は、茜ちゃんが大きな木でできた槌を地面に打ち付ける音です。離れたところには、シルフィさんが、地面に何か棒を突き刺して、そこから伸びたコードの先にある機器に備え付けられている液晶のディスプレーを確認しています。


「何をやっているんだい?」八兵衛さんが再び睡蓮さんに尋ねます。

「難しいことはよくわからんのだが、ああやって、地面を揺らしてその振動を計測して、地下の様子を探っていっているらしい?」よくわかってないよ、と云う顔で睡蓮さんが答えます。

「振動測定とかか?あれダイナマイトとか使ってやるやつじゃなかったか?」

「茜ちゃんの怪力ならまあ、可能なんだと」「にしても、地表を叩く程度じゃ精度も低いだろうに」「杭を打ち込んであるみたいだぞ?」「いつの間に?」


「茜ちゃん、次は10メートルほど下がって打ってみて。そう、その杭ね」

「はあい、シルフィお姉さん」

「ありがとう、うん、可愛い妹ができたみたいね」

「えと、ありがとうございます」照れ照れとしてますが、持っているのは身の丈の3倍ほどの巨大な槌です。軽々と扱っていますが、重さはいかほどのものでしょうか。


 ドスンと云う音が響きます。ディスプレーを確認して、表示されるパラメータを読み解きます。パコパコとタカタカとぞんざいに引っ付けたキーボードを叩きつつ、分析用のプログラムを測定と並行して改良していくシルフィさんでありました。


「どうです?シルフィ義姉さん」銀色のカップに黒い液体を入れた二郎丸さんがシルフィさんに近寄ります。

「そうですね、いろいろ興味深い結果が。ありがと」珈琲を受け取ったシルフィさんは、お礼を言って一口飲みます。「ん、珈琲の味がする」「インスタントですけどね」「素晴らしい技術だよ」


「岩盤とか、地面の組成とか、”日本”世界と変わらないとして計測してみた、結果ほぼ同じ。解析プログラムを走らせてみると、地下に埋もれている建造物の形が結構ハッキリわかる」

「いえ、義姉さんの作った装置と解析プログラムが常軌を逸しているのですよ?普通あんな方法で揺らしてもそこまで精度はでませんからね」

「まあ、そこは経験と腕と知性の深さが違うから」さらりと言うシルフィさんです。「茜ちゃん今度はそこから東、茜ちゃんから見て右のほうへ15メートル先のところを叩いてください」「はーいシルフィねえさま」「そこが終わったら休憩しましょう、クッキーとジュースがあります」「はーい(嬉しさ倍増の返事です)」


「懐いてますね」

「人からの温もりに飢えていた感じだったので、たらし込みました。餌付けとも言います」

「いえ、そこまで自分を悪く言わんでも」

「?たらしこむは褒め言葉では?」「たまに認識がずれていることがありますよね、シルフィ義姉さん」「うん、育った時の環境かな?」「どんな幼少時代だったんですか?」「聞きたい?」「あれなんだか悪寒が走りましたので結構です」



「さて、食事も終わりましたので、ちょっと報告があります」シルフィさんが口火を切ります。

 カレーライスは食べ尽くされています。大盛りを4杯お代わりして満足そうな表情を浮かべている茜ちゃんを筆頭に、皆さん食後の飲み物を片手に、まったりとしています。

 彼らの背後には焚き火が燃えています。その炎の光が、ゆらゆらと暗くなった森の広場を照らしています。


「枯れてしまったダンジョンですが、未踏破の箇所らしき空間を発見しました」

「お約束の展開が来ましたね!」「やかましい」ウキウキするサクラさんと律儀に突っ込む二郎丸さんでありました。

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