11_シナリオの基本はやはりゴブリンで
「昨夜はお楽しみでしたね」サクラさんが冒頭から飛ばしたセリフを言っています。
「?なんなんですか、出会い頭に?」二郎丸さんが、少しあくびをしながら言います。どうもあまりゆっくりと眠れなかった雰囲気が醸し出されているようです。
「いえ、男女二人が同じところで眠って、朝を迎えた時にする挨拶?決まり文句みたいなものだそうですよ、この世界の伝統ですね」にっこりと笑いながら言います。
「いやその伝統、結構由来は最近だろ?」今日もツッコミがいがあるようですね。
「えと、シルフィさんもちょっと眠そう?」茜ちゃんが心配そうに聞きます。
「うん、彼が激しくて、なかなか寝かせてくれなくって、気がついたら朝日が昇ってた」ちょっとあくびまじりの美少女さんです。破壊力ありそうな気だるけな雰囲気です。
「う、ごめんなさい」なぜか謝ってしまう茜ちゃんです。
「嘘を言わないでください、一方的だったじゃないですか、僕はいなすので精一杯でしたよ」げんなりとした表情でのたまう次郎丸さんです。
「のたうつ様がなかなか愉快でしたよ、手応えも、こう、感じまして」思い出して、少しうっとりしているシルフィさんです。
「(真っ赤になって沈黙していまっています)」茜ちゃんです。
「おいおい、年下の女の子をからかうなよ、俺もしたい」笑いながら言う八兵衛さんです。
「いや、それもどうよ?というか、そういうのはセクハラだぞ?二郎丸、シルフィ、さん」睡蓮さんがたしなめますね。
「了解」
「うん、ちょっとからかいすぎた、ごめんね」
「えと?あれ?」茜ちゃんは混乱している。
「冗談だよ、そうゆうことはしてないから、リアルで命が惜しいし」二郎丸くんが言います。
「そうね、でもどんなことを想像したのか少しきになるから後でお話ししましょう、茜ちゃん」
「あ、それは私もきになる、女の子同士でお話ししましょう」睡蓮さんも乗ってきましたね。
「私も参加してよろしですか?」サクラさんまで。
「とりあえず、そのお話し合いは後に置いておいて、依頼はこれでいいのか?」八兵衛さんが、冒険者ギルドに備え付けられている端末を指し示して、言います。
ここは冒険者ギルド。夢とロマンを求め、欲望を魔物とかダンジョンにぶつける人々が集い交差する、己の命をチップに変えて、魂をかけたりする、鉄火場への入り口、その熱量が溢れ出すテイストのスポットは、今、なんだか桃色空間でまったりとしていたのであった。誰のせいでしょうか?
「最近ゴブリンらしき魔物が村の畑を荒らしているので退治してください。ビギ村一同。報酬は一人50000貢献ポイントです。冒険者ギルドからの一言:魔物から得られる素材などは冒険者のものにしていいです。ですね。問題ないんじゃないでしょうか?」二郎丸さんが端末に表示されている、依頼を読み上げます。
「ん、最初の冒険でゴブリンは基本、らしい」シルフィさんが同意します。
「なぜなんだぜ?」睡蓮さんが尋ねます。
「それはですね、(サクラさんが説明を始めます)
ゴブリンは、
レベルの低い人型の魔物で、
10~12歳程の子供くらの体格で、
特殊能力もほとんど無く、
数を頼りにして殴るしかない、
対処が容易で、
連携の練習をする余地すらある、
初心者用の雑魚魔物、
だからなんです。」
「そうなんですね」茜ちゃんが相槌を打ちます。
「画像は、これですね、隣に立っているのが成人男性のシルエットです。明らかに小柄で、弱そうでしょう?肌は緑色で体毛は薄く、キバとかありますが、嚙みつきは、子供が喧嘩に使う程度の注意くらいしておくくらいでしょうか?服装は皮とかどこかで拾った布のようなもので、デリケートなところを覆っています。また簡単な武器を使用しますね、石斧とか木の棒とか、まれにどこかで拾った設定の店売りっぽい、幅広の剣とか短めの槍とかで武装していることもあります」サクラさんがそのまま冒険者ギルドの端末を操作しつつ、解説を続けます。
「あ、意外にリアルな感じなんですね、魔物」二郎丸さんが驚いています。
「ええと、現実的ですよ?魔物は?」サクラさんが不思議な顔をしています。
「なるほど、ところで、畑を荒らしている、と言っているが、魔物って食事するのか?」八兵衛さんが尋ねます。
「生き物の本能的な行動は、魔物もするようですね。生きるためと言うよりは、そのように行動するようにプログラムされている、と言ったほうが良いですが」
「ええと?生き物じゃないの?」茜ちゃんが尋ねます。
「いつのまにか湧いて出ているし、一定のダメージを与えたり、致命傷と判定された攻撃を命中させると光の粒つぶになって消えますからねー、魔物って」
「おいこらどこがリアルだ、まんまゲームじゃねーか」二郎丸さんがツッコミます。
「そこはそれ、『リアルはできの悪いゲームだ』、とかいうじゃありませんか?」
「使い方が若干違う気がするが、それが、この世界の現実なんだな。釈然としないものはあるが、のみこもう」ぐぬぬという感じで納得しようとする二郎丸さんです。
「倒した魔物は、魔石という各種魔法道具の燃料となる資源と、まれに宝物をドロップします」
「やっぱゲームじゃないか!」納得しきれなかったようです。
そうでもないですよ?と首を軽くかしげて、サクラさんの解説が続きます。
「手応えというか?こう、魔物の反応とか感触とかですけど、鋼の刃で、肉を穿ったり、打撃で骨を、ごきり、と、折ったり、の感触や、反応としては、腹を破ると腹圧で内臓がドロリととびてて、血まみれになりながら抱えて、腹の中に戻そうとしたり、いい悲鳴をあげたり、それに、感覚への刺激としては、そうですね、炎の魔法なら、肉の焼ける匂いを感じたり。それとは逆に、冒険者側も魔物の攻撃が綺麗に当たると、腕が落ちたりとか、お腹に刃物が生えていて、熱くて冷たいとか、いう傷の感触を感じられる、というシュールな状況とかに呆然とかできます。痛覚設定は100%ですから、リアリティは抜群ですよ」
「リアリティとか言っている時点で作り物っぽい!というか結構残酷表現にご注意が必要な状況になるんだな!」
「タグによる注意喚起は伊達じゃないのですよ」「何の話だ!」「レーティングでいうとX指定ですかね?」「それじゃ売れない、カテゴリAに抑える努力をしよう、せめてR15で」「シルフィ義姉さん、突っ込むところはそこじゃない!」
「あ、海外進出を考えていますので、魔物の血の色は、緑色ですよ?」蛍光色です、と付け加えるサクラさんです。
「注意するとこはそこじゃねー!てか、海外って何!」
「宗教色も薄めです」
「幼女神様出てるよね!」
「あれはマスコット枠ですから」
「それでいいのか異世界人!というか言い切ったよこの人!神様をマスコット扱いしたら逆にまずいだろー!そもそも世界の運営にバリバリ関わってるだろーあの幼女神様!」
「!」「そこの駄目巫女!今気づきましたって顔をするんじゃない!」
「ええと、もしもし?とりあえず、残酷なグロテスクな表現に遭遇する可能性が高いとこは、わかったから、みんな、心構えとかしとこうな?」八兵衛さんが落ち着かせて、注意事項をまとめます。睡蓮さんと、茜ちゃんも若干顔を青ざめさせながら、頷いています。
「あ、女性冒険者は特に注意してくださいね」サクラさんがさりげなく続けます。
「その注意喚起の入り方、嫌な予感がするんだがおい」二郎丸さんツッコミの準備に入りました。
「魔物の中には、女性を生きたまま捕まえて、いろいろ、乙女の口からは言えないようなことをするような行動パターンを取る種類のものがいますので、ちなみにゴブリンもそのカテゴリです」
「やっぱりかよ!しっかり、エロゲ要素も盛り込んであるな、ありがとう!」
「”丸”?」どこまでも冷たく、そろそろすべての物質が停止するんじゃないかと思われるような温度の声が、二郎丸さんの背後から響きます。
「ちなみに粘体とか軟体生物とか、蔓状植物とか触手にも注意ですね」
「ええとどう注意すればいいんですか?」茜ちゃんが真面目に聞いています。
「いや、そこはええと、どう説明すればいいんでしょうか?二郎丸様」サクラさんが、二郎丸さんへ助けを求めています。しかし二郎丸はシルフィさんの、氷の眼差しによって、凝固している。
「そこのところは、後で俺が二人っきりで手取り足取り」八兵衛さん、そこまで行って、茜ちゃんの身体をさらりと観察して観測して、「いやさすがにないな」頭を振って自身の発言を否定します。
「下品だ、しかも失礼だ。しかし最低限の倫理観はあるんだな八兵衛」睡蓮さんが貶している中でも、ちょっと見直しています。どれだけ今までの評価が低かったのでしょうか。
「さすがに、自分の娘くらいの子に手を出すほど業は深くないぜ。後でこう、問題にならない程度で茜ちゃんに教えておいてくれないかね睡蓮さんや」
「わ、私もそんな経験はないんだぞ?本当だぞ?」ちょっと恥ずかしそうに、赤面した後で「まだだったんだよなぁ」黄昏たり、ホッとしていたりするような複雑な表情をして、呟いている睡蓮さんでありました。
「じゃ、私がしておく」シルフィさんが淡々と挙手して名乗り出ます。
「「若干、不安になる人選だなぁ」」八兵衛さんと睡蓮さんの心が今、ひとつに。
「大丈夫、こう見えても色々経験済み」銀髪セーラ服美少女、という象徴の上で、その顔に嫣然な、艶やかな笑みを浮かべます。ちろりと赤い口びるから、一瞬、覗いたピンクの舌が、何かを誘っているようです。
何となく真っ赤になって、会話が止まる一同でありました。
ちらりと、いーなーという表情で二郎丸と見る八兵衛さんと、首を横にしてそんないい立場じゃないですよ、旦那、という気持ちを伝える二郎丸さんです。
「あー、気になったんだが、その、魔物って『乙女の口からは言うのはが憚られる』方法で繁殖するのか?」八兵衛さんがサクラさんに尋ねます。
「どうも、捕虜になってそういう『乙女の口からは言うのが憚られる』関係になった場合、その冒険者は魔物側のシステムに処理ルーチンが移動するようでして」ちょっと口を濁します。
「ええとつまり?」
「こう、対象は、目がうつろになって、ですね、意識が混濁する、ようでして、そのままに。ええと、まあ、結論から言うと、『乙女の口からは言うのが憚られる』方法、略して『おとはば』で魔物は増殖します」
「なぜ略したか。なるほど鬱展開とかバットエンドも普通にあり得ると」二郎丸さんが確認します。
「成人指定ジャンルだとむしろそこからがスタートですが」
「おいこら駄目巫女、お前一応未成年(18歳未満)だよな」ジト目で突っ込む、二郎丸さんでありました。
「ネットって怖いですね、世界とつながって、3時間で色々大人の階段を上ってしまいました」
「はえーよ!」
「一応、バッファリアでは15歳で成人ですけどね」そこそこある胸を張るサクラさんでありました。
「ああその辺りは、ファンタジーな異世界では定番ですけどね」二郎丸さんツッコミ疲れているようです。
「長命種の成人設定は結構適当ですけども」
「適当なんですか?」
「平均寿命に対する、比率だったりしますが、このバッファリア、レベルを上げると無駄に頑丈となりますので、平均寿命を計算する意味があるのかな?という問題もありますね」
「いや、寿命が延びるなら無駄ではないんじゃないですかね?」二郎丸さんが疑問を提示します。
「権力を握った層が、レベルを上げて、いつまでも元気で後進に道を譲ろうとしないので、下の方で鬱屈がたまっていたりするんですよね、平気で300年くらい人間が生きたりしますし」
「すごいなそれ!」
「長命種でレベリングなんてすると、論理的には不死な存在になりますからね、リアルに生き神みたいなエルフとかおられますよ、下手をすると幼女神より年上とか?」
「いや、それはどういう理屈か?時空が曲がってないですか?」
「世界7不思議のうちのええと、9のつ目くらいでしたかね?」
「7不思議って銘打ったんなら、7つに抑えて欲しいですね!」我慢できなくて、疲れをおしてツッコみを放つ二郎丸さんです。
「おーいそろそろ、依頼の内容とかこれからの方針とか、精査したり、作戦立てたりしませんかね?」八兵衛さんが、ちょっと呆れた表情で提案しています。