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10_月下にて踊る二人と煙の香り

 食事もひと段落しまして、食後のお茶を楽しむ面々です。

「なんとほうじ茶がありました」「本当に異世界かここ?」「ふうふう、うんおいしい」「珈琲派なんだが」「ありますよ、インスタントですが」「むしろ驚く、なぜあるインスタント?」


「さて、では人心地もつきましたし、スキルとか各自自分のできることとかを発表して、役割分担とかしましょうか?」二郎丸さんが改めて、開始宣言をします。

「まず、分かりやすく私。私は特殊能力無しのスキル無し、レベルアップ無しの呪いあり。前の世界での経験で、射撃の腕はそこそこ。基本貢献ポイントを稼いだら、レベル制限のない身を守る最低限のスキルと取得して、あとは運搬能力をあげようか、という成長戦略取る予定」とシルフィさんです。

「あ、シルフィ義姉さん、ついてくるつもりなんですね」

「うん、ちょっと思うことがあって、留守番はなしの方向で」

「心強いですね」

「あれ、レベルが上がらないなら、ステータスの恩恵が得られないので、危険じゃない?」睡蓮さんが心配そうに尋ねます。

「”丸”が頑張るから平気」

「そうですね、それに、シルフィ義姉さんの強さはレベルとは別の次元にありますし」

「無理はしないでくださいね?」茜ちゃんが言います。


「僕の特殊能力は『武器補正:刀』と称号『全てを断ち切る者』が特徴。高い剣術スキルがあるので、何かを切るということに関しては、結構信頼してくれていいかな?基本、接近戦メインの、物理アタッカーになると思う。ただ、職業クラスはサムライということになっていて、中級程度の魔法使いが使える魔法、主に遠距離攻撃魔法、が使用できるようになるのと、ソニックブーム、つまり、かまいたち?風の刃?みたいなものを、刀を振り下ろすモーションで遠くに飛ばして攻撃できるスキルがあるので、最低限遠距離でも戦える、かな?」

 二郎丸さんが、サラサラと、机に置いた大きめの紙にできることをまとめていきます。


「あーじゃあ、時計回りで私だな。私は特殊能力に、『称号:歌姫』と『加護:女神の旋律』ってのがあるな。基本、歌の魔法、呪歌っていうのか?それで、味方をサポートするタイプみたいだ。広範囲の味方に、身体能力を上昇させたり、徐々に傷とかを回復したりすることができる。一応、特殊な発声方で、破壊音波を放つこともできるスキルがあるが、正直射程やら、範囲やらが微妙すぎて、使いどころが難しいな。あと、”反響”とかいうスキルで、呪文とか、2重に唱えられるようだ。攻撃魔法の初級が習得できるみたいだから、自分の魔法を重ねてもいいし、他人の魔法を繰り返すこともできそうだな」

「基本戦闘補助ですかね?」「まあ、そんな感じだな、一応クラスは吟遊詩人とかバードとかいう意味のものらしい」


「それじゃあ、次は私ですね。ええと、補正がかかっているので、重い武器とか重い鎧とかと相性がいいようです。それに関連しているのか、かなり頑丈、なんだそうです。今5レベルなんですが、このレベルでも私たちのいた世界での、人が携帯できる程度の武装なら、眼球に当たっても痛くありません、というのが、直感でわかります」

「前線向きですね、しかし性格的には大丈夫ですか?」

「その辺は、たぶんとしか言えませんが、まあ、苦しいとか痛いとかは慣れてますから、大丈夫だと思います、(周囲が微妙な雰囲気になります)、あえと、それでですね、前の世界の状況に何か関連付けられているのかどうかは分からないのですけど、怪我を治したり、病気とか、悪い影響を与える状態の異常を、治療することができるようです。嬉しいです」にっこりと笑う茜ちゃんです。

「重装備で前線を支える、治癒役、という立ち位置ですね、なるほど」

「クラス名は聖重戦士?といったような意味でしょうか?」


「最後は俺だな。基本隠密不意打ち背後からの一撃といった、暗殺者(アサシン)スタイルと、用意周到に罠を張り巡らせておいた箇所に獲物を追い込むとかいう、まあ、狩人スタイルのハイブリッドて感じか?索敵、とか、偵察とか、特殊工作とかも得意だな、前職での経験を生かした、技能やらスキルの構成になっていると思うぜ」

「ええと、前職を追求しない方が良さそうですね」二郎丸さんが呟きます。

「撹乱とか、ごまかしとか、幻を作るような魔法に適正があるようだ、一応前線での身のこなしも備えているが、まあ、どちらかというと、敵の前に自分姿を表す時は、すでに勝っているとき、というようなタイプかな?」

「策士タイプですか。偵察担当でもあるのは心強いですね」

「野草とか調合して薬とかも作れるようになるらしい。クラスはそのまま、狩人とかレンジャー、これは特殊部隊の方の意味かな、そんか感じだな」


「そういえば、シルフィさんのクラスってあるんでしょうか?」

「ガンスリンガー|(自称)です」


(((自称なんだ)))


「まとめると、

 前衛が2名、内、物理アタッカー1に、盾プラス回復役1、

 中衛が1名偵察、警戒要因+罠師、前線も張れる、

 後衛が、各種補助役兼、特殊アタッカーの吟遊詩人、

 それに加えて、荷物持ちが1と、

 まあ、それなりにバランスが良いのかな?」


「火力が足りなくないか?」八兵衛さんが指摘します。

「その辺は、レベルアップ後に調節しましょう、方向性としては、僕はこのまま攻撃特化でいけばいいですね。茜ちゃんは、防御重視で、後、魔物の注意を引いたり、挑発したりすすスキルがありますから、それを取得して、後衛とかへ、相手のダメージが及ばないようにしましょうか?」

「うん、そのへんの作戦は任せます。他人が傷つくのも嫌ですし」

「茜ちゃんも傷ついちゃダメだぞ」睡蓮さんがそっと、頭を撫でています。気持ちよさそうに目を細める茜ちゃんです。

「睡蓮さんの補助がどれだけ効くのかを試しつつ、ええと、手数を増やせそうなスキルがあるんでしたっけかね、歌姫さんには」

「歌姫はやめろ、恥ずかしい。対象の速さを極限まで上昇させて、倍の速さで動かす歌とか、取得できるようだな。あと、直接的な火力は専門の攻撃魔法には劣るが、歌で周囲の精霊っぽいものに、助力を求めるスキルも習得候補にあるようだ、まあ、基本他人の火力を引き上げたり、弱点とつけるような付与をかけたりするスキルを鍛えた方が効率がいいっぽいかもな」

「そうですね、その辺は狩場とか魔物の傾向とかを確認しつつ、伸ばしていきましょう」


「俺は、まあ、偵察、隠密特化にしてあらかじめ罠を仕掛けつつ、はめていくのがいいかな?」

「そうですね、戦場を作り出すことができればかなり有利ですし、一方的に蹂躙って、いい言葉だと思いますよ」

「お、意外だな。侍って名誉ある戦いを望むとか聞いた事があるんだが?」

「名誉じゃ勝てない戦いが多かったですからね、結構早い段階でそんなプライド粉々になりましたよ(遠い目)。ええと、まあ、相手が乗ってくれたり、取り決めがあるならともかく、魔物”狩り”ですから。一応最低限の敬意は払うべきかな?とは思いますけど」

「ほう、この場合の最低限の敬意ってなんなんだい?」

「残さず食べる、くらいでしょうかね?」

「食べるの?!」

「比喩ですよ、余すとこなく、無駄にしないという程度です。食べられる資材を落とす魔物も多いようですね、調理器具も持って行くことですし、いやなんでもありませんよ」


(((食べる気だ)))



「しかし便利ですね、この冒険攻略ウィキ」二郎丸さんが手元の端末を操作しつつ言います。

「ポイントが足りないので、とりあえず宿舎に備え付けの無線ラン環境でしか使えないのが、難点ですけど、最初の装購入目標は、これを一台、野外で安定して使えるようにすること、でしょうか?」茜ちゃんがとりあえずの希望を述べています。

「そうだな、通信はギルドカードで可能だし、一台、検索用に欲しいな。まあ、俺は個人でも購入する予定だが」八兵衛さんが、大きめのタブレット端末を、見ながら言います。

「そうですね、八兵衛さんは、単独行動が多そうですから必要でしょうね」二郎丸さんが肯定します。

「ナンパとかにも必須らしいしなぁ」ニヤリといやらしく助平に笑いながら答えます。

「はいはい」軽く流せるようになった睡蓮さんでありました。


「こっちの個人ブログとかも有益な情報が載っているみたい、後、巨大掲示板サイト異世界番があった。使い方次第ならこれも便利、でしょうか?」シルフィさんが、二郎丸さんの持つタブレット端末を横から操作しつつ、細く白い指で指し示します。

「本当だ、あれ、この固定ハンドルの『とんでもねえおら神様だよ』って、本人というか、ここの幼女神様じゃないでしょうか?まったく自重していないですね」

「荒れたところに神降臨とか、シャレになってないです」「さらにその後議論が明後日方向へ進んでさらに板が荒れているところまでがセットですね」「親しまれている?」「むしろ可哀想な子扱いですかね?」「『古参の勇者さん』がフォローしているのか、とどめを刺しているのか、分からない」「楽しそうだなぁ」


「ええと睡蓮さん、私たちそろそろ帰った方がいいかなぁ?」密着して仲良く小さめなタブレットの画面を見ている、二郎丸さんとシルフィさんの、自然なカップルぶりに当てられて、ちょっと顔を赤らめつつ、尋ねる茜ちゃんです。

「そうだね、お邪魔したら悪いような気がするな」睡蓮さん、こちらも少し顔が赤いですね。

「おりゃあ、もう酒飲んで寝るよ。独り身が身にしみるなぁ」八兵衛さんが、強目の蒸留酒を片手に立ち上がります。国産のウィスキーっぽいです、瓶のデザインまでどこか見たような、角形になっています。


「そうですね、今日は早めに休みましょう。ではまた明日で」おおっと、そうでしたと言わんばかりに、解散を宣言する、二郎丸くんでした。



 その夜のことです。深夜を回ったあたり、二郎丸くんがベッド(部屋に備え付けてあります)で横になっていると、側に何者かが近く気配がします。

 すうっと、静かに目を開いて、月の光が差し込む中、彼が確認すると、別の部屋で休んでいるはずの、シルフィさんが立っていました。

「ええと、先生?まさかとは思いますが寂しいんですか?」

「寂しいとは違います。ちょっと身体がうずうずするので、運動に付き合ってください。このままだと興奮して寝付けません」ちょっと、朴を赤らめて、まるで火照ったような口ぶりでのたまう、美少女です。

 月の光に反射して銀髪が相変わらず綺麗だな、とかぼんやりと現実逃避をしている二郎丸さんでした。

「これからですか?」

「うん、ゆるい監視のような術式は乗っ取って欺瞞済み。朝まで邪魔は入らないようにしてるから」

「あ、やっぱり”見”られてましたか?」

「場所にあるのは、出入りのチェックくらい。あと、異常事態用の警戒?警報系列かな?個人ごとに設定してある」

「まあ、状況的に野放しはありえませんか?」

「一応、環境の激変に対して、精神的に不安定になっているかもしれない、対象に対するフォローが主体。善意が術式に感じられる。プライバシーが優先されているから、細かいデータまでは取ってないみたい」

「いい人たちですね、この世界の方々」

「甘いともいう」

「まあ、それほど切羽詰まってないというのは本当のようですね」

「見た目では」シルフィさんがちょっと目を細めます。

「裏では分からないと?」

「一般人には危機意識が無い、みたいだけども上の方とかキナ臭い、ような”あたり”がある気がする」

「根拠は何でしょう?」

「勘」

「それは、十分な注意が必要ですね」

「まあ、すぐには事態は動かないから、当面の方針は変わらず。じゃあやろう」

「はい、わかりましたよ。ええとどこでやります?」

「”ここ”で。舞台を重ねるから」

「ええと取り決めは?」

「君は何でもありで、私はこの銃の感触を確かめたい」うっとりと、コルト・シングルアクション・アーミーを手にとるシルフィさんです。

「怖いんですが?」「存分に撃ち込みたいから、簡単には死なないように」「うわあ」


 銀髪で、セーラ服の少女が、月明かりの差し込む小部屋に立っています。

 小さめの手で、パンと柏手を一つ。

 略式の祈祷、その澄んで乾いた音とともに、広がる世界。

 瞬く間に、パタパタと、ひっくり返っていく現実。

 そして、数瞬後、そこには、

 大きな青い月に照らされる、夜風を感じる屋外に。足元はどこまでも広がる無限の板間。遠くに見えるのは、山の稜線、うっすらと聞こえる虫の音、風が所々に生える草木を揺らす音。

 世界を重ねて”此方(ここ)”を”彼方(そこ)”に置き換える。超常の御業。


「あ」

「どうしました?”丸”?」

「いえ、”これ”を使えば、住居での薄い壁騒音問題カベドンを解決できるな、と」

「いやらしい」「男の子ですから」「なるほど健全ではありますね」


「僕が言うのもなんですが、理解がありすぎじゃないですか?」

「だからと言って、そっちの相手はしませんよ?」可愛く小首を傾げるシルフィさんです。

「やめてくださいごめんなさいまだしにたくありません」「それはそれで、傷つきました。この苛立ちを君にぶつけてもいいよね?」「」「答えは聞いてない」


 轟音が、謎空間の荒野に響くのでありました。

 青い月だけが二人の踊りを見ています。



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