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赤い薔薇は憂鬱に咲く 23

 僕はすごく幸せいっぱいで、次の日に僕の部屋へやって来たクロードにエジェリーが僕を選んでくれたことを告げた。僕の服装は今、ドレスじゃない。父様が何点か仕立ててくれた男性用の服を着ている。

 ワインレッドの上着に黒のジレ、白いパンツ。フフフ、ドレスじゃないから、脚開いたり組んだりしてやる。

 髪はまだ切ってないけど、区切りがついたら切ってもいいかな。

 クロードは僕の話を聞くと笑顔を見せてくれた。


「そうか、よかったな」

「うん!」


 思えば、クロードにはかなり世話になった。僕をウェイブル領まで連れて行ってくれたり、相談に乗ってくれたり、ロランの足止めもしてくれたし、性格が悪いなんて思ってて悪かった。クロードは一番の協力者だった。

 僕はその気持ちを素直にクロードに伝える。


「クロードのおかげだ。色々とありがとう」


 そんな感謝をクロードは笑顔で受け止める。今日はやたらとニコニコしてるな、と思ったらそれもそのはずだ。


「ああ、見返りはちゃんともらわないとな」


 うん?

 今、何か恐ろしいものを見たような?

 クロードの笑顔が急に薄ら寒いものに感じられたのはどうしてだろう。


「み、見返り?」


 顔が引きつる。見返りって……?

 するとクロードは笑顔を絶やさずに言った。


「お前に貸しを作るのは私自身のためでもあると言っておいたはずだ。そろそろ見返りをもらおうか」


 え、えーと……。

 今になって悪魔と取引して魂を抜かれそうになってる気分になった。

 じんわりと汗を書きながらソファーにへばりつく僕。テーブルに二人分のハーブティーを置いたルミアが、いつかみたいに僕を庇ってくれた。


「それくらいになさって下さい。アンリ様がクロード殿下に協力して頂いたのは紛れもない事実です。恩義に報いるのも当然ですが、アンリ様にあまり無茶なことをお求めになるのはどうかご勘弁下さい」

「で、できることから返して行くから、さ。でも、お前の望みってなんなんだよ?」


 すると、クロードはぞっとするくらい艶っぽく笑った。


「お前の持ちものでずっとほしかったものがある。それをもらい受けたい」

「へ?」


 僕の持ちもの?

 王子のクロードより立派なものなんて持ってないと思うんだけどな。それに、僕のっていうよりこの家のものならまず父様に訊いてからじゃないと返事ができない――なんて逡巡してた僕の目の前で、クロードはそばに立っていたルミアの手を引いた。それは力強く。


「あっ」


 突然のことによろめいて倒れ込んだルミアを膝に、クロードは僕の目の前でそれはそれは熱烈に彼女にキスをした。

 あんまりなことに僕は呆然と――している場合でもなかったんだけど、してしまって、ルミアはなんとかもがいてクロードの腕から逃れようとした。彼女の結った髪が解けて背中に零れた時、僕はやっと我に返る。


「ちょ、ちょっと待て! 僕の持ちものって、ルミアのことか!?」


 クロードは唇を離しても彼女を解放する気はないのか、ルミアの腰に腕を回して平然と言った。


「そうだ」

「僕のって表現もおかしいし、大体猫の子じゃないんだからな、そんな簡単に差し出せるか!!」


 そりゃあルミアは気配り上手で美人でスタイルもいいけど、だからってクロードの遊び相手や妾になんて差し出せない。僕にとって姉みたいな存在なんだから。


「どうして?」


 ほんとに平然と言う。ルミアは顔が上げられないみたいだった。クロードの腕の中で震えてる。


「どうしてって、ルミアにはすごく世話になってるんだ。ルミアには幸せになってほしい。だからそれはできない」


 僕がそう懇願すると、クロードはまっすぐに僕を見た。


「私が幸せにする。だから問題はないだろう?」


 え、ちょっとオウジサマ?

 僕が困惑してもクロードは止めなかった。


「身分の問題はある。けれど私は王位は継がないから将来的にも王弟に過ぎない。私の正妻が彼女であっていけない理由はない」


 うわ……本気かコイツ。


「困ります、そんなの……」


 ルミアが消え入りそうな声でつぶやいた。でも、クロードは諦めるつもりは毛頭ないみたいだ。いつもは氷みたいに冷めた目が、今は妙に熱っぽい。


「最初に会った日からずっと焦がれて来たんだ。逃がすつもりはないし、後悔もさせない」


 最初にって、お前ら兄弟惚れっぽすぎるだろ!

 微塵も似てない兄弟だと思ってたら、そんなところが似てたなんて……。

 しかもしつこい。一途っていうより、しつこい。


「ル、ルミアはどうしたいんだ?」


 僕は恐る恐る訊ねてみた。ルミアは口もとを手で覆って、うっすら涙を浮かべてつぶやく。


「わかりません。私……っ」


 そりゃそうだ。

 でも、そんな彼女をクロードは楽しげに眺めてる。なんていうのかな、ほんとに嬉しそう。いつも澄ましてるのに、そういう顔するんだなって意外なくらい。


「えっと、その……僕からはなんとも言えないんだけど、ルミアの意思を無視するようなことは止めてほしい。ルミアが納得してのことなら僕はそれでいいと思うけど……」

「ここまで待ったんだからな、もう少しくらいは時間をかけて口説き落とす」


 それ、ルミアが振り向くまで頻繁に遊びに来るってこと?

 ルミアの耳が赤い。色っぽくて大人の女性って思ってたけど、割と初心なのかも知れない。そういうところが可愛いってクロードは見抜いてたのかな。って、最初にルミアと会った時、コイツいくつだった? マセガキめ。


 こんなのに目をつけられたら、ルミアに来る縁談はきっと全部コイツが叩き潰しちゃうんだろうな。逃げきれないかも知れない……。

 ルミアがクロードのそばに幸せを見出せたらいいんだけどな、なんてムリだろうか。


 ああ、父様に話さなくちゃいけない内容がこうして増えて行く。アタマイタイ。

 今日はエジェリーがうちに来てくれるんだ。母様やルミアは一度会ってるけど、父様にもちゃんとエジェリーを紹介したい。

 今日は大事な日になる予定だったんだけど、なかなか衝撃的に始まったなぁ。


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