最初で最後の―― 第6話(最終話)
シャワーを浴びて、ぼくは服を着替えた。
玄関を出ると外は昨日と変わらず薄暗くて、寒かった。今日も雪が降るのかもしれない。
彼女が逝った空を見上げる。
どうせなら晴れてほしかった。
ぼくは振り返って誰もいない部屋に、いってきます、といおうとおもったが、やめた。それではまるで、彼女がひとり、部屋に残るようだからだ。
ギターを担ぎなおし、ぼくは、歩き出す。
マンションを出ると彼女と見た雪は、もう、完全に消えていた。
そのことが、ぼくの胸を締めつけたけれど、ぼくはかまわず歩きつづける。
たしかに彼女は、雪といっしょにこの世界から消えてしまったけれど、ぼくのなかから消えたわけじゃないのだから。
いま、ぼくが立っている場所は、いつもなら彼女が立っている場所だ。
客席の常連さんたちはざわめきながらパンダでも見るような目でぼくを見ている。
まあ、そうだろう。ぼくが逆の立場なら、ぼくだってそうする。
ぼくはお客さんたちに彼女がいない理由をてきとうにいった。ほんとうのことはいえなかった。店長さんとバンドのメンバーにもほんとうのことはまだいっていない。ライブ前に、いいたくなかったからだ。今日はクリスマスイヴ。これから始まる、みんなの楽しい時間を、わざわざ哀しい時間にする必要はないだろう? それに、そんなことは彼女も望んではいないはずだ。
一発目の曲はふたりで作った最後の曲。
詞は、すぐにできた。
曲名も詞の内容も、笑ってしまうぐらいぼくらしくないけれど、これしかないとおもった。
場内のSEが終わり、客電が落とされる。
ひかり溢れる場所。
ぼくは一度、軽くギターを鳴らし、それでは聴いてください、とみんなにいった。
彼女とぼくが作った最後の曲――
「LOVE SONG」
……Sincerely yours




