取り返せない物
指令から指示が来た
「城跡で魔術師が魔術を行使、不明な魔術のため、調査依頼、危険と判断した場合は、報告の下破壊を求む。人を引き付けている」とのことだった。
「調査依頼、不明な魔術、早々に難易度が高いのか高くないのかわからないな・・・」
そんなことを自室のアパートでつぶやいた。
正は人気がなくなってから、コーヒーを自動販売機で購入したあと、30分かけて現場に自転車で到着した。
「人気が少ない、本当に人を引き付けているのか?」
そんなことを思いながら、城跡の階段をゆっくりと登っていく。
城跡の頂上で魔術が行使されているらしい。
頂上まで登ったが、何も変化もないし、誰も襲ってこない。
警戒したことはないが。
頂上まで登ってきて気づいたが、魔術の知識などあるわけないのだ。
「調査するにも……魔術の判別すらできない。」
「これか?」
正が指令書の場所に着くと、地面に気味の悪い落書きのようなものがあった。
「てっとり早く破壊するか。」
地面に魔法陣が書かれていた。
「破壊はおおげさか。触れるのはやめておいた方がいいな。」
正がためしに魔法陣の真ん中にコーヒー缶を投げ込んだ。
反応がない。
正が枝を取って魔法陣のふちを払ってみた。
しかしどうだろう?
払って崩れた魔法陣が砂が動くように戻って行く。
「これが魔術か、初めて見る。」
と、後ろから足音が聞こえた。
正が後ろを振り向くと、小さな男の子が立っていた。
こんな時間に小さな子供。
正をよりいっそのことそのことが警戒させた。
一応、レーザー銃に手を伸ばす。
しかし、子供の反応を見て、正は安心してしまった。
「おにいちゃん、妹とはぐれちゃった。」
正がため息をついて聞いた。
「どこの子?住所は?」
子供は戸惑っている。そして今にも泣きそうだった。
正が子供の頭に軽く手を置くと子供はその手を取った。
正は相手が魔術師だとしても、子供なら近づいてしまえば、力でどうにかなると判断した。
しかし、予想は外れていた。
子供が手を握り返してきた瞬間、手に違和感を感じた。
体が地面に倒れこむ。
そして子供が「魔法陣が反応してるよ、持ってる。」
あらがう体がゆっくりと魔法陣にひきづりこまれていく。
正は必死だった。
子供が言った
「抵抗しなければ、命は取らないから安心して。」
魔法陣の半ばまで引きづりこまれ、恐ろしいことに正は気づく、足があるべき場所に、足がないのだ。
思わず悲鳴をあげそうになる。
そうするうちに魔法陣の中心に引きずりこむ力が強まって、ズルズルと体が無くなっていく。
ついには正は完全に消えてしまった。
正が気づくと、奇妙な空間にいた。
空間はピリピリと張りつめているような感覚で、周りを見渡すと、城跡なのに代わりはないが、厚い赤い壁に覆われていた。
正が壁に向かって、空間爆破装置を取り出し起動、爆破するが。壁には反応がない。
気づくと、次は少女が後ろにいた。
正が聞く
「お前は誰だ?」
「私は由美((ゆみ))、魔術師だよ?」
「何がしたい?」
正の問いかけに少女が答える
「その機械が欲しいの。」
もちろん渡すわけにはいけないはずだ
「渡すわけにはいかない、もし手に入れたらどうするつもりだ?」
「壊すだけだもん。」
「それならなおさらだな。」
気は乗らなかったが、正がレーザー銃を取り出し少女に向ける。
「私が死ねばここから出られると思うの?」
少女の体がフワリと浮かび上がった
「逃がすか‼」
銃を撃つが当たらない。
空中の動く相手に当てようとするには、正にはなかなか難しかった。
少女が何かを唱えた。
無数の光が停滞し、空を覆っていく。
正は試しに光に向かってレーザー銃を撃ってみた。
パリンと音がして、レーザー銃の当たった場所の光が消える。
少し少女がよろよろとしたように見えた。
しかし、光は増え続ける。
「まずいな。」
正が逃げようとするとその光が人が走るような速さで追いかけてきた。
少女は言う
「隆多((りゅうた))位置は?」
少年の声
「おねえちゃん声が響くよ。今、下段中央にいる右の方」
少女が少年の声に答える
「わかったわ。」
「おねえちゃん、おねえちゃんはサーチ魔法ないんだから、適当に攻撃すれば、あの人怪我しちゃうよ?」
「しかたないわね。」
そういうと少女は空を舞ながら進んでいく。
「結界も、増幅魔法も制御するのが大変だから、あまり大量に使わずに手早くすませてよ。10分持つかどうか。」
そういう少年の声に対して少女は
「わかったわ。」
正は走りながら光が追ってこなくなったのを確認した。
しかし、油断はできない。
携帯も通じない。
空がさっきの光で明るい。
正がレーザー銃を構え発射する。
少女「また?」
光りが砕けていく。
そして空中を舞う少女がまたよろめいた。
「でも場所はわかった。」
また正を光が追いかけ襲ってきた。
ゆっくりと少女の高度もさがって来ているように思う。
ココからでは空間爆破装置の範囲では届かない。
襲ってきた光をレーザー銃で撃破しながら逃げ回る。
正はまたしばらくして、光が追ってこなくなったのを確認してレーザー銃をしまい、物陰に隠れて空間爆破装置に持ち替える。
少女に接近し、光が一番集中しているところに座標をセット、距離10メートル効果範囲、3メートルにセットし爆破。
一気に光が消し飛ぶ。
少女から焦りが感じられた。
もう浮かんでいることができない。
少年の声が少女の耳元で響く。
「もうダメ、維持できない。」
少女「そんな。」
正の見ている世界が反転し、元の世界へと戻される。
そこには泣いている少女と少年がいた。
正が問う
「お前たちは何がしたかったんだ?」
その問いに少女は
「おにいちゃんの機械を壊したかっただけだもん。」
少年も答える
「お母さんと、お父さんを返して。」
正は聞き返す
「お母さん?お父さん?」
まさは嫌な感じがして先ほどの言葉を問う
少女は言う
「お母さんと、お父さんは、お兄さんのような機械を持った人に殺されたんだ。」
正の心が痛む
少女「だから、私達はその人を見つけて、その人の機械を壊したかっただけ。」
正はまじめに言う
「もう危ないからやめるんだ、そしてもうこんなことするんじゃない。」
少女「もうできないもん、お父さんとお母さんの残してくれた予備魔力も全部使っちゃった。」
「そうか?行く当ては?」
少女「魔術協会の人が保護してくれてるんだって。」
「魔術協会?」
少女「今日のことも止められたけど。」
正は心配になって聞く
「帰れるか?少なくとも明るい所まで送ろう。」
少年「別にいいもん。」
そうは言われたが、正は城跡を下りて、明るい所まで送っていった。
最後に少年に振り向かれにらまれた。
正の心に両親を奪われた子の悲しみが響いた。