兄と妹
斉藤家宅
斉藤 美香((さいとう みか))の部屋
「ぶー。」
斉藤 祐二((さいとう ゆうじ))の妹、斉藤 美香はパソコンに向かって不機嫌そうな声を出した。
「おい、美香?今大丈夫か?」
美香の部屋の扉ごしに、祐二の声が聞こえた。
「声かけても、また勝手にドア開けたら、ぶっ飛ばすからね!!」
「おお、怖い」
美香の言葉に祐二が答えた。
開きかけたドアがゆっくりと閉まり、また外から祐二の声が聞こえてきた。
「いいかげんPCから離れて外に出てみろよ!!」
美香は即座に答える。
「外には出るようになったじゃん!!」
祐二は話を続ける。
「中学にはいりたての時は心配したぜ、部屋からまったく出てこないんだもんな。」
「もう関係ないじゃん。」
「あ、そうだ、今日正が家に来るから。」
美香は複雑そうに祐二に言う。
「おにいちゃん、また正さんを無理やり呼んだの?」
「正はノリノリだぜ?絡みまくられるのがうれしくて、何回も家に誘ったら、ため息つきながら照れ隠しして、遊ぶ約束してくれたんだぜ?ほんと約束も守ってくれていい友達だぜ。」
美香は祐二の言葉にあきれを隠せなかった。
「おにいぃちゃん!!それを無理やりって言うんだよ。」
「そうか?まあいいや、それよりお前、欲しい物なんかあるか?」
祐二は話を変える。
「欲しいもの?」
「正と食べる菓子買に行くついでに買ってきてやるよ。」
「じゃ、ポテチ買ってきてよ。」
美香がそういうと。
「わかったよ、行ってくる。家空けるから誰か来たら、代わりに出てくれ。」
祐二の言葉に美香が反応する。
「なんで私が。」
「元ヒッキーのお前には、ハードル高いか。」
祐二の笑い声が聞こえた。
「うるさいおにい!!」
「じゃ、行ってくる。」
祐二がそう言って階段を下りて行く音がした。
美香が相変わらずPCに向かっていると、玄関のチャイムが鳴った。
「面倒だなぁ、居留守でも決めこもうかなぁ。」
しかし祐二の「元ヒッキーのお前には、ハードル高いか。」の言葉が頭の中で響いて、少々顔を真っ赤にしながら、美香は立ち上がった。
「ナメんなよ、おにい。」
美香は外に出ていく。
美香が玄関の鍵を開け出て行くと、そこには正が立っていた。
「ま、ま、ま、正さん!!」
美香は動揺した声を出す
「祐二はいないか?今日呼ばれてるんだよ。」
正の言葉に美香は答える
「おにいは買い物です、家に入ってください。」
「家に人はいるの?」
「いえ、誰も。」
美香の口元は少しゆるんでいたが、正は気づかなかった。
「どうぞ、こちらへ。」
「ありがとう。」
美香の案内で正は居間に通された。
「正さん、お茶とか飲みます?」
「出してくれるのか?ありがとう。」
「はい!!」
美香、お茶の場所どこだっけ?
そんなことを考えながら、美香は3分ほどキッチンをあさっていた。
正はそんなこと気にしない様子で窓の外を見ている。
「やっとお茶見つけたよ、でも探してる間にお湯沸かしとけばよかった。」
お湯を沸かしながら、美香はジーっと正の顔を見ていた。
やっとお茶を沸かして、正の前に、お茶を差し出した時。
「美香ただいま~」
祐二がそう言って帰ってきた。
「お?部屋からでてんじゃん。正も来てたか~」
「正コーラとポカリ買って来たぜ、飲むか?そういえばコーラ好きだったんだっけ?」
「そうだな、コーラをもらおう。」
「正さんひどい。」
美香は悲しそうにそういう
「悪い、そんなつもりは。」
「ヒッキーがお茶なんか出して、お兄ちゃん感激。」
祐二が美香にとどめをさす
「もう、おにいちゃんも、正さんも、もう知らないもん。」
そういって、美香はバタバタと階段を駆け上がって部屋に戻っていった。
美香はドアを閉めて、ドアにもたれかかりながらつぶやく。
「もう、知らないもん。」