第六話
「おいプロトコル、聞こえるか!?」
初戦闘を終えた雅人は、その興奮も冷めやらぬままに呼びかける。
『ハイ六道様、何ですか? あ、初戦闘での大勝利、おめでとうございます!』
いきなり放り出された新世界で、ほんのわずかの時間とはいえ会話を交わした存在と繋がっているという事実は彼を安堵させた。しかしその感情すらも越え、
「いやいや、何って言うかおめでとうって言うか、あのいきなり現れたモンスターは何処のどいつでこのデタラメな威力の武器はどうしてこうなった、そして俺は一体これからどうすればいいんだ、チュートリアルなんだろ、教えてくれよ!」
次々と頭に浮かぶ疑問を彼は口にし捲し立てる。
『ハイ、それでは順番にお答えしますね。まず先程のモンスターですが名称は……えっと、あ、検索完了しました、あれは……【バカ】です!』
「……は?」
――いや、バカはお前だろ。
雅人は素直にそう思った。
『ハイ、あれは【バカ】というモンスターです! 一つ目で唾液は強い酸性、そして獰猛な性格! 間違いありません! この地域に広く生息しているそうです!』
「そ、そうなのか……ま、まぁソレは分かったよ、ありがとう」
『いえいえ、どういたしまして! うふふ! そして、六道様の武器ですが六道様のご職業に相応しい性能でしょう? ご満足いただけましたか?』
「え……いや、……うん、まぁ……」
解釈はデタラメだが、武器が強いに越したことはない。それにおそらく、彼女に対しこれ以上疑問を口にしたところで何の解決にもならないだろう。彼はそう割り切る事にした。
「で、コレはどうすれば引っ込んでくれるんだ? まさかこんな物騒なもの、一度出したら出っ放しってことはねーよな?」
雅人はそう言うと【滅殺呪印】を宙に掲げる。
『ハイ、もちろん自在に出し入れ可能です! 出す時は【めっさつ!】、消す時は【ふうとう!】です!』
「ふ、ふうとう!?」
――いやいや、出すのと消すのでギャップありすぎだろ!?
『ハイ! そして反対側に付いている槍もかなりの威力で、瞬殺とまではいきませんが殺傷能力に優れています! コレで完璧です! 全ての要素が揃いました!』
――何が!? どう!? てか言葉遣い物騒だな!
彼の脳内でのツッコミ速度は自身の発音速度を大いに上回り、あぁ、そしてその結果、それが彼女に届く事はついにない。
『さぁそれでは六道様! チュートリアルのお時間です! まずはその武器を消してみましょう!』
「ちょっと待て……消す、って、……今この場で【ふうとう!】、と叫べと!?」
『ハイ、……そうですが?』
――いやいやいや、ちょっと待ってくれ、え、なに、コレ罰ゲーム!?
彼のそんな叫びは、果てしなく広がる大空に無言のまま吸い込まれ消えてゆく。
『ささ、パパっと済ませてしまいましょう、それではどうぞ!』
ごくり、と唾が喉を鳴らす。
こんなにも緊張するのはいつ以来の事だろう。就職活動での面接の時か、仕事で初めてミスをしでかした時か、それとも婚約者の両親のもとへと挨拶に行った時だろうか。彼はそれまでの人生における修羅場を瞬時に思い返し、そしてそれらをはるかに超えた緊張感と今、相見えている事を知った。
そして――
「ふ、……【ふうとう】!」
4月16日修正。