第四話
「それではこの世界での職業を決めますので、以前の世界に居た時のお仕事を教えてください!」
……はい?
「職業? 異世界なのに?」
「ハイ! 新世界とは言え生きていくためにはお仕事が必要なのです! そのために皆さん、農業を営んだり家を建てたりモンスターを討伐したりしてます!」
うむ、実に現実的。まぁ、バーチャルリアリティな世界じゃないって事か……
「で、その参考にするために、以前の仕事を教えて欲しいと」
「ハイ! あ、でもあくまでも参考程度でして、最初のご職業というだけなのでお気に召さなければどんどん転職なさって結構ですので!」
その曇り一つない満面の笑みに罪は無いんだが、若干現実に引き戻された気分だなぁ。まぁ、ココも現実なんだけどさ。
「そうだなぁ、以前の仕事、か……まぁ、封筒に切手を貼って消印を押すだけの簡単なお仕事だよ。そんな仕事、こっちでもあるのか?」
我ながら実にテキトーな説明だ。ほんの数分前まで満ちあふれていたやる気が根こそぎ行方不明になってしまったようだな。……まぁ、事実切手貼らずに郵便物を持ち込む奴は多いし、ほぼ機械化されているとは言え消印だってちゃんと押してるしな。嘘は無い、うんうん。
するとそんな葛藤をよそに、女の子は目をぱちくりとさせてしばらく黙り込んでしまうのだった。
「えっと……」
そして我に返ったのか何の意味も無い言葉を口にすると端末をいじりだし、
「おぉ……なるほど……」
何かにほんの少しばかり驚くと小首を傾げて確かにこう、宣言したんだ。
「えっと……【封】トウに……【切】ッテ……を……はって……? あ、【消】【印】を簡単に押すお仕事なんですね! ただいまご用意致します!」
待て待て。お前ぜったい、今なにか勘違いしただろ。文章も若干変わってるし。
「おいおい……」
しかし、時既に遅し。女の子は一瞬で何かを端末に入力し終え、すると見る間に壁全面のモニターが眩いばかりの白い光を放ち彼女や端末を掻き消して、俺は何もかもを見失ってしまうのだった。
……そして気がつくと、目の前にはドア。
「これ、は……?」
それ以外、何も無い。そんな純白の世界。
立っているのか、それとも浮かんでいるのかさえ曖昧。
自分の影さえも見えず、あるのはただ、そのドアだけ。
「これを、開けろって事かよ……?」
それ以外、出来る事は何もなさそうだ。
だからドアノブを回し、そのドアを手前に引いて開け放つ。
「うおっ……」
光が、その先に吸い込まれてゆくかのような感覚。
真っ白な世界が徐々に失われ、そこには……
『ようこそ、新世界【オブシンリィ】へ!!!』
1月15日修正。