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滅殺呪印の異種滅者  作者: AmphibiA
第一幕【めざめのうたげ】
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第三話

「あぁ、わりぃわりぃ」


 敬語はもういいかなぁ?

 そう思いながら女の子の後ろのモニターに映る絶体絶命のシーンを再び見る。

 ……ん?

 今まさにネズミの化け物の鋭い爪が喉元に突き刺さろうとしているのに、襲われている側の人間は随分とのんびりしてるな。覚悟でも決めたのか、それとも余裕でかわせるほどの体術をさぞ高度なレベルで身に着けているお方なのかと思いきや、


「あ」


 ふ、普通に突き刺さった!?


「あぁ、丁度良い場面ですね!」


 女の子もようやくこの惨劇に気がついたようだ。

 そしてやはり、のんびりとしている。心配感ゼロ。


「ご覧ください、これが、これこそがこの世界が平和たる所以(ゆえん)なのです!」


 そう言われてしまったので仕方なしにもう一度画面をよく見てみると、ネズミの爪は普通に喉元へと突き刺さっている。そりゃもう確定的に明らかってヤツだ。


「……アレ?」


 しかし確かに突き刺さってはいるんだが、人間側は平然とにこやかなまま。ネズミの爪先から血が流れる事すらも無い。


「おいおいアイツ、……不死身なのかよ!?」


「いえいえ違います、あの方は極々一般的な人間です。ちょうど、六道様と同じ世界、えぇと、同じ国から来られた方ですね」


「ちょっと待て、……この世界に連れて来られたヤツって他にも居るのか!?」


「ハイっ! この新世界には数多くの地球の方がいらっしゃるんですよ?」


 ……そ、そうなのか。

 というかコレ、……今更だがドッキリじゃないんだよな?

 正直な話まだ半信半疑なんだが、よく考えてみれば一般人を騙すにしては舞台装置が大掛かり過ぎる。真っ白な部屋はともかく、四方の壁一面、天井や床に至るまで敷き詰められたモニター。そして、とてもCGには見えない何十もの映像。こんなもの、用意するだけで庶民にとっては莫大と言える金が必要だよなぁ。


「……」


 よし、決めた。

 とりあえず、……乗っかろう。

 そうさ俺は、本当に異世界へと足を踏み入れたんだよ!

 こうなったらとことん、付き合ってやろう。

 でも最終的にやっぱりドッキリでしたとか言われたら……生涯自慢しよう。

 たかが俺ごときに大枚はたいてバカやったバカが居たぞって。


「そ、そうなのか。で、その俺と同じ日本人が、どうやったらあんな不死身になれるんだよ?」


「それがオブシンリィの絶対無敵防衛システム、その名も【B.O.W】です!」


 ……決まった!

 女の子はそんな表情。

 キラっキラとした目を更に大きくさせながら若干の上目遣いを見せるその顔は所謂【ドヤ顔】、というにはあまりに幼過ぎるか。

 あまりに幼過ぎて……ちょっとした意地悪をしたくなるのは俺のせいじゃない、たぶん今まで生きて来た世界のせい。


「びーおーだぶりゅー? 何の略なんだ?」


「りゃ、略? ……えぇっと、……少々お待ちください」


 女の子はそう言って再び手元の端末とにらめっこを始めようとしたので咄嗟に、


「あ、いいです」


 断ってみた。店に置かれた商品を見てたら店員が声掛けて来たので即座に断った時のようなテンションでさらっと冷たく言ってみた。


「あぁ、はい……スイマセン……」


 胸が痛むなぁ。近所のジジババに初めて年賀はがきを押し売りした時よりも。

 そういえばあの時は必死だったな、入社した年で金も無かったしまだ自腹はキツかったんだよなぁ。

 そんな事を思い出していると、自然と口元が綻んでしまった。そして同時に、その事実に驚いている自分に気づく。

 ……こんなに気持ちが浮き立ってるなんて、いつ以来だろう?

 思い出に笑っちまうだなんて、本当に久しぶりだ。

 ……あぁ俺、やっぱり期待してるんだな。これから始まるだろう異世界での生活に胸が躍って、いつもならどうでもいいと思うような事すらも輝いて見えてる。


「いや、俺もスマン」


 とりあえず謝罪した俺は、その絶対無敵防衛システムの概要を聞き出した。

 なんでも、ヒットする直前で自動的にバリア的なものが出現してガードが成立する、というわけではなく実際にモンスターの攻撃は当たっていてその感触もバッチリとある、らしい。しかしそれが不快な痛みとなって人体に伝わる事は無く、皮膚には傷一つ出来ない。もちろん内臓を損傷する事もあり得ないんだとか。


「……ソレ、本当に大丈夫なんだろうな?」


「ハイ、中にはその何とも言えない感触がクセになってしまい訳も無くモンスターの居る地帯へと足を踏み入れる方もいらっしゃるんだとかで、大好評なのです!」


「……そりゃあ、楽しみだな」


 もちろん【その感触】が、じゃなく【その感触が病みつきになってしまった人間】と出会えるのが、なぁ。おぉう、今から寒気がするぜ。

 それはともかく、なにがどーなってこんなシステムが成立するのかはまったく理解出来ないが、まぁ異世界と言えば異世界らしい仕組みなんだろう。そういう事で納得しておこう。


「これで、オブシンリィへと足を踏み入れる前段階での説明を終わります! あとは実際に訪れた際に、少しばかりチュートリアルとして補足説明をさせていただきます! その後はどうぞご自由に新世界をご堪能くださいませ!」


「説明を受けた気は大してしないが……おう、とりあえずは分かったぜっ!!!」


 あぁ、遂に俺のリアルセカンドライフが始まるんだっ! 今までの陰気で内気で無気力でバツイチで生きるために必要な最低限の仕事しかやる事のなかった俺よ、さらばっ……!


「あ、スイマセン最後に一つだけ、忘れてました……それではこの世界での職業を決めますので、以前の世界に居た時のお仕事を教えてください!」



 ……はい?

1月15日修正。

4月16日再修正。

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