第二話
「お、遅くなって申し訳ありませんでしたっー! ワタクシこの度、六道雅人様の担当となりました水先案内人、プロトコルと申します!」
そう言って姿を見せた声の主は、身長が中学生くらいの女の子。
緑の髪色に前下がりのボブカットヘア、眉頭に被る高さで横一文字に整えられた前髪、丸くて大きな目。服装は襟と袖の部分だけ紫色をした基本灰色のテーラードジャケットにこれまた薄い紫色のブラウス、灰色のミニスカート。モノトーンとカラフルのどちらでもあってどちらでもない独特な雰囲気。
そんな可愛らしい不思議ちゃん系の女の子が、これまた珍妙な名前を名乗ったときたもんだ。まさか、……本名? なんて、いやいや。
参ったね。もしかして、壮大なドッキリ仕掛けられてる?
確かに大好物なシチュエーションではある……が、職場の人間にこんな事言った覚えはねーな。かと言って昔からの友人にこんな事わざわざ仕掛ける財力があるとは、残念ながら思えんし。
……ま、いっか。とりあえず話に乗っかってみよう。
「あ、あぁ……はい。よろしくお願いします」
とりあえずは丁寧な言葉で、こちらの動揺を悟られないように振る舞ってみた。
「あぁ良かった! さぁさ、どうぞこちらへ! 六道様の今後についてご説明させていただきます!」
……いやいや、そんなキラキラした上目遣いでオヂサンを見つめないでくれ。
まぁそれはともかく、彼女に言われるがまま扉の奥へと進んでみる事に。
「……ここは?」
ほんの数十秒だけ通路を進んでたどり着いたソコは、やはり白い立方体のような形をした部屋。さっきと違うトコロは部屋の中央に円形の白いテーブルが置いてある事くらいかな。
「はい、六道様はまだココが何処なのかご存じないかと思いますので、まずはこの部屋を使って一からお話しをさせていただきます!」
女の子はそう言うと円形のテーブルに備え付けられていたパソコンかと思われる機械を操作し始めた。
パソコン本体と一体化したモニターは女の子側を向いていて残念ながらこっちからは何が映っているのか確認出来ない。でも、本体の後ろから三つ編みのように絡み合いながら天井へと向け伸びている数本の白くて半透明なケーブルはしきりにデータでも送受信しているのか、緑色や紫色をした光りの玉みたいのが中を流れているのが透けて見えていた。
「あれ……えっと……う~ん……これで映るハズ……」
それにしてもオシャレなデザインのパソコンだなぁ。とっくにサポートが切れているOSを使った職場にあるオンボロの真四角なモノとは違って、部屋の雰囲気に合わせた白いボディで全体的に丸みを帯びとにかく洗練されてるよ。装飾的なものは何も付いてないけど、敢えてするなら林檎のマークだな。
……と、待っている間にそんな事を考えてた。
「え、何で……この画面に、じゃなくて外部に出力しないと……あれれ……」
……つまりは、そんな感想を考えられる程度には待たされているってワケだ。
「え、っと……これで……大丈夫……ですよ、ね?」
そんな不吉な言葉が耳に届いた次の瞬間、
――チカ、チカ。
タイル状に仕切られた壁や天井そして床に至るまで、区切られた一つ一つに個別の映像が映し出された。そこには人や建物、街や村、森、洞窟、怪しげな塔、そしてたかが二十数年の俺の人生経験からは【モンスター】もしくは【化け物】としか言いようのない、とにかく怪しげで凶悪な動植物が見て取れる。
「お、おぉお……」
「あ、ようやく映った……じゃない、大変お待たせいたしました! これが、これから六道様に生活していただく新世界……その名も【オブシンリィ】です!」
「オブ……シンリィ?」
「はいそうです! 広大で豊かな大自然に恵まれた、平和で穏やかな世界です!」
「平和……ねぇ……?」
「えぇ、数ある新世界の中でもこれ程までに快適な世界は存在しないと……」
屈託の無い笑顔を浮かべながら説明を続ける女の子。の、背後にあるモニターには幼稚園児くらいの体格がある直立ネズミの化け物に人間が襲われようとしている場面が映ってるんだが。
……まぁ、そういえば昨日のニュースでも中東の何処かで大規模なテロが起きたとかお隣の国の独裁者が核兵器搭載可能なミサイルをいつでも撃てる体制に移行したとか言ってたけど、俺の日常はと言えば【平和】の一言だったな。
そんな事より、今はせっかく出会えた可愛い女の子のあどけない笑顔をただひたすらじっと見つめ癒されてみたいと何より思う。
「あの、六道様? そ、そんなにまじまじと見つめられますと、その、えぇと」
……あ、気づかれた。
1月15日修正。
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