第3話: 別れ
付き合ってから、半年が過ぎた頃、あんなに青々としていた木々も色づいてきて、秋の声が聞こえてきた。
高校3年生の秋と言ったら、進路を決めなくてはならない。 でも、父も亡くなって、母に負担もかけられないし、就職することに決めた。
自動車教習所にも通い出して、その頃から、タキとちょっとずつズレが出てきたように感じていた。
そのズレは、あたしのほうに生じていたんだと思う。
女友達と、こっそり抜け出してクラブに通ってみたり、自動車教習所が忙しくなってきたりで、まだ高校2年生のタキはちょっと焦っていたみたいだった。
「いつ会えんだよ!」
ちょっと、いらついたメールや電話が度々来る。 今日はメールじゃなくて、電話だ。
「だって、しょうがないでしょう? 自動車教習所が忙しいんだもん。 タキはバイトしてればいいじゃん」
そっけない、あたし。
「何で、夜出ねえんだよ?!」
「寝てんの」
「俺、ミカに聞いたぞ。 お前、クラブ行ってんだろ?」
あたしの友人のミカだ。 なんで、ミカちくってんの? 心ん中で焦ってるあたし。
「ちょっと、社会見学だよ。」
「社会見学で毎週行くのかよ。つーか、クラブがなんで社会見学なんだよ!」
「・・・・・」
「なんとか言えよ」
「うるさいなぁ。 女の友達だって、大事でしょ? タキだって、男友達大事でしょう?」
「答えになってねぇ」
「もういい。」
電話を切った。 おまけに電源も。
なんだか、私、ちょっと嫌気がさしていたのかもしれない。
ずっと一緒にいたいけど、だけど、自由も欲しい。 束縛されてまでの関係なんて、やだよ。
少し距離を置こうと思ったけど、タキは、どこにでも迎えに来て、束縛がどんどん酷くなる一方だった。
だからあたしは・・・
あんなに幸せで、あんなに好きだったタキに、別れを告げたんだ。
ちょっと疲れたんだよ、この関係に。
だから、バイバイって。
タキは・・・
泣いてた。 なんでだよ、って。
あたしも思った。
なんでだろう?って。
大嫌いになってるような気がした。 今は顔も見たくないし、とにかく一緒にはいられない、って。
こんな気持ちになるのって、初めてだった。
あたしは、人を嫌いになったことがなかった気がする。 いつも、良い人でいたかったのかな? それとも、それほど好きになった人もいなかったのかもしれない。
でも、タキのこと、心の奥底から大好きで大好きで大好きで仕方なかったけど、その分今は大嫌いになりそうだった。
ほんと、なんでだろう?
とにかく離れたかったの。
それからも、タキからは何度も何度も電話が来て、メールが来たけど、無視することにした。
2ヶ月ぐらいそんなことしてて、ほとぼりが冷めた頃、タキとばったり廊下であった。自由登校になる寸前だった。
「元気なの?」
「ん・・・」 ばつが悪い。
「どうすんの?これから」
「え?」
「このまま終わんのかよ?」
「わかんない」
「じゃ、別れたままで、遊びとか行こうぜ。 免許取れたら、乗せてくれよ」
なんか、哀しかった。
「わかった・・・メールする」
それからは、結局、前のような恋人同士ではなくなったけど、もっといい関係になれた気がした。
タキはあと1年学校で、あたしは就職する。
その1年、気楽に行こう。 その後で、二人のこと考えていけばいいもんね。