第1話: 出会い
私小川明日美、17歳、彼、タキこと滝川和弘16歳のときに、二人は出会った。
出会ったのは、海岸沿いのファストフードの店の前。
数脚の椅子が並んだ、ど真ん中にタキは座っていた。
『偉そうに、何?こいつ?』
私のファーストインプレッション。 これ、正直な話し。
狭い街だし、タキのことはみんな知ってるみたいだった。
「あいつ、誰?」
あたしは、友人に聞いた。
「あ〜、タキだよ。 滝川和弘っていって、あんたと同じ高校じゃん!いっこ下だよ。」
ふーん、あたしと同じ高校なんだ。 それが最初。
でも・・・
あたしは、そんなこと言いながら、タキの偉そうな姿を見たときから、きっと、すんごい気になっていたんだ。
「おう、ミーちゃん!」
ふいに、タキがあたしに向かって言った。
『何?こいつ? なんで、あたしが<ミー>って呼ばれてんの知ってんの?』
そう心の中で思いながらも、言葉も出ずに、タキのこと見ていた。 口を開けて。
「ミーちゃんでしょう? 有名だからね〜」
なんて軽いの? なんで、あたしが有名なんだよ?
なんか、むかむかしたから、聞いてやれ!
「なんで、あたしのこと知ってんのよ?」
「そんな、攻撃的な顔しないで下さいよ〜。 だって、あの有名な中学校の出でしょう? で、そこで結構悪かったんだもん、知らない人、逆にいないっすよー。」
な、何〜? そうなんだ。
そうとは気づかなかった。 そう、私が出た中学校は、非常に悪かった。 新聞にも載ったし、数人家裁に送られた。
でも、私は、そこまで悪くはなかったぞ!
「そう。 でも、私はそんな悪いことしてないけどね。」
ちょっと、誇らしげに言った。
「おもしろいっすね〜」
え? 何も面白いこと言ってないけど?
「なんか、ミーさん、面白い!」
笑ってる・・・ あたし、何もしてないのに。 なんで?
「ミーさん、電話番号教えて。」
「あ、うん。 これが、あたしの・・・って、なんで、あたしが、あんたに教えなきゃいけないのよ。」
「だって、きっと話が合うような気がするからさ。同じ高校だし。」
「あ、そうか。」
とういうことで、携帯の番号と、メアドを交換した。
家に帰ってから、何で、そんな理由で交換することになったんだっけ? と、腑に落ちないようなもやもやした気持ちでいると、ふいに、電話の呼び出し音が鳴った。
「はい」
「ミーさんっすか?」
「はい・・・」
「おれ、滝川です!」
「あー・・・」
「あー・・・って。 残念みたいな〜。 早速かけてみましたよ。」
「うん〜」
「ほんと、ノリが悪いですね。」
「だって、ノリノリでも、何でしょう?」
「ほんと、やっぱ面白い。 明日、学校で会いましょう!」
「そうね、学校で会うんだよね。」
「じゃ!」 ガチャ。
何?あいつ?
っていうか、何?あたし?
振り回されてる?
ま、いっか。
学校の門を通り過ぎると、そこにタキが立っていた。
「おはよーっす」
軽いんだよ!
「おはよ」
「またまた〜、なんか、暗いっすね〜」
「別に、無理やり明るくしても、ヘンじゃないの?」
「無理はね。」
その時の笑顔が、私にズキンって来た。
やっぱり、あの海岸沿いのファストフードの前で気になったときのような気持ちが、間違っていないって、実感してしまった。
「今日さ、一緒に帰ろう?」
「え? 急に、何言うの?」
「いいでしょ? 一緒に帰ろう。」
「はぁ?」
何も、これっぽっちも進展してない二人が、どこに何しに行くわけ? あたしの頭は少々混乱気味だった。
「じゃ、3年2組の教室に、俺、迎えに行きますね!」
さーっと、走って行ってしまった。
えぇ〜。
それでなくとも、あたしはクラスではちょっと浮いてるというか、特定の友達しかいなくって、若干怖がられてるのに。 また、下級の子が来たとかいうの、やだな・・・
そうこうしてても、下校の時間が来てしまって、タキも来ないし、この隙に帰ってしまおうかと思ったら、階段から・・・
「ミーさん。 迎えに来たよ! 帰ろう!!」
なんなのー。
マジで来てるし。 ・・・でも、少し、んーかなり嬉しいあたしがいた。
「わかった。」
きっと、頬が少し赤かったかも。
帰り道、二人で話しながら駅に向かった。
「あたし、バスで帰るし。」
「もう? じゃ、俺んちすぐだし、寄って行って。」
「え? いきなり、タキんちに行くの?」
「うん、いいでしょ?」
「・・・んー」
なんとなく、断る理由もなく、地元のタキんちに行った。
「あら〜、かわいいお嬢さんね。 カズが女の子連れてくるなんて〜」
ちょっと、ハイテンションな、でも可愛いお母さんのお出迎え。
そっか、タキのお母さんは専業主婦なんだ。 いいな・・・
「こんにちは。 初めまして、小川明日美といいます。 お邪魔します。」
そう言って、タキの部屋に通された。
案外すっきりと片付けられてて、びっくりした。
部屋の隅っこに膝を抱えて座っていると、
「ミーさん、付き合おう」
ふいに、タキが言った。
「え?!」
「なんか、俺ら合う気がしない?」
「・・・」
「付き合おうよ。」
「うん」
え?何で? って言う、心の声と、嬉しいって言う心の声が錯綜して、でも嬉しいが勝っちゃった。
あたし、きっとタキのことやっぱり気になってたんだね。
そして、あたしたちは、その日から拙い恋をスタートさせたんだ。